ODA事業の現場を視察するツアーを企画・実施

｢エイチ・アイ・エス｣が主催するツアー｢JICA活動最前線バングラデシュを知る7日間｣が2011年3月上旬に初めて実施され、18歳から69歳までの20人が参加しました。参加者はバングラデシュの協力隊員の活動現場を中心に視察するとともに、首都の貧困地区なども訪問。現地社会の一端を垣間見つつ、ODA事業について肌で知る1週間を過ごしました。

両者に共通する目的のために

この視察ツアーの発案者は、同社の行方一正(なめかた かずまさ)取締役相談役。行方さんは若い頃に世界一周旅行をしましたが、最初は言語や生活習慣などの｢違い｣ばかりを意識したものの、次第に人の優しさや家族に対する愛情など同じ人間としての｢共通する部分｣を強く感じたそうです。昨今、若者の｢内向き志向｣が取りざたされるなかで、｢もっと多くの若者が海外に行って、私が感じたようなことを体感してほしい。そうした経験はその後の人生にきっとプラスになる｣と思っていました。
　また、数年前からバングラデシュを何度も訪れる機会があり、そのなかで、現地で活動する協力隊員とも接してきました。そして、｢バングラデシュの社会や協力隊員の活動を見聞することは、特に若者にとって刺激になるのではないか｣と、行方さんは考えたそうです。
　同社では｢ボランティアツアー・スタディツアー｣の実施など、社会貢献活動の実績もあり、そうした背景のもと、今回の視察ツアーについてJICAに話を持ちかけました。同社が掲げる企業理念は、旅行業を通じて｢世界平和・相互理解の促進に貢献する｣というもの。これはJICAボランティア事業の意義や目的のひとつとも重なります。また、営業活動ではなくて社会貢献活動としての提案だったことや、全社的にJICAボランティア事業に協力するという方針もあり、JICAはこれに賛同し、協力隊員の活動現場のみならず、ODA事業全般を視察するツアーの実施が決定。そして、バングラデシュにある両者の事務所を中心に準備が進められました。

ダッカの小学校で、協力隊員の授業を視察した後のツアー参加者と、現地の人々

コラボレーションが広がる可能性

募集してすぐ反応があり、早いタイミングで定員に。大学生が中心で、海外旅行が初めてという人が何人もいました。事前に、現地の協力隊員についての情報を提供したりするなど、参加者同士だけでなく、参加者と協力隊員との関係を深める工夫がなされました。
　3月に実施されたツアーでは、参加者たちは日本の無償資金協力によって建設された災害時の避難施設｢サイクロンシェルター｣を訪れました。そして視察先の中心は、協力隊員の活動現場。小学校で活動する協力隊員の授業や環境教育活動の視察、大学で日本語を教える協力隊員の授業視察、手工芸を教える協力隊員の配属先の見学などを実施。また、現地の人々と交流したり、協力隊員との懇親会の場で活動上の喜びや悩みなどを聞いたりもしました。
　参加者からの感想の多くに共通していたのは、｢途上国にネガティブなイメージを抱いていたが、実際に訪れて良い印象に変わった｣という点。これは、行方さんが期待していた反応でもあり、｢海外に行くと何かを得られると気づく人が増え、自分が感じたことを発信してくれて、海外に行きたいと思う人がさらに増えれば｣と話しています。
　今回のツアーは、参加者だけでなく、協力隊員にとっても、良い機会となりました。｢協力隊の活動に興味を持っている人が、世代を問わずいるということがわかってうれしかった｣などの感想があり、その後も参加者と連絡を取り合っている人もいます。
　この視察ツアーは、9月に20人で第2弾を催行し、続く第3弾ツアーの実施に向けて準備中です。また、同社では全国の店舗にて青年海外協力隊募集ポスターを掲示するなど、広報での協力も行っています。さらに｢協力隊員は現地の事情を知っているし、活力もあって、当社に向いているのでは｣と行方さんが話すように、JICAボランティア経験者の採用にも興味を示しています。今後、両者のコラボレーションはさらに広がる可能性があります。

H.I.S.店舗掲出用の青年海外協力隊募集ポスター

全国269店舗にてJICAボランティア募集ポスターを掲示

ツアー参加者の声

ツアー参加者からは、次のような感想が寄せられています。

●協力隊員が現地で輝いて見えました。バングラデシュという国に受け入れられているのを感じました。(69歳男性)

●バングラデシュならではの人の温かさを感じました。日本に帰った今も忘れられない思い出ばかり。貧困についても深く考えさせられました。(21歳女性)

●普通の観光旅行では絶対に得られない経験をたくさんさせていただきました。特にスラムの訪問は印象的でした！(25歳女性)

●ツアーに参加したほかの方々はとても個性的で刺激になりました。最高の仲間を作ることができました。(20歳女性)

●バングラデシュの人々の純粋で、素直で、好奇心にあふれた目が忘れられません。(21歳男性)

●協力隊員ひとりひとりが現地のために自分にできることを一生懸命こなしている姿が輝いていました。また、現地の方々の笑顔や優しさに癒されました。(19歳女性)

●協力隊員の方々がとても身近な存在になりました。体調を崩したり、いろいろ悩んだりしながらも努力している話を聞いて感動しました。(22歳女性)

ダッカの市役所内で、協力隊員から清掃ボランティア活動についての説明を聞くツアー参加者たち