北海道庁共通する“フロンティア精神”
JICA海外協力隊への参加が国際的視野を持つ職員の育成につながる

  • グローバル人材の育成・確保

明治以降の開拓を基盤に発展してきた北海道は、「フロンティア精神」が受け継がれている土地。時代の課題とともに新しい道を切り拓いていくという姿勢は、北海道庁の職員にとって必要不可欠な資質と言えるかもしれない。JICA海外協力隊の都道府県別の派遣実績をみると、北海道は2,700名(2022年3月末時点、青年海外協力隊はじめシニア等を含む)であり、全国的にも上位。こうした数字にも、北海道と協力隊の共通点が現れている。道庁とJICAとの連携業務を担当している総合政策部国際局国際課多文化共生担当課長の池田和明さんに話を伺った。

北海道グローバル戦略
国際人材としての道庁職員

ロシアと隣接する北海道は、国内でも海外とのつながりを重視している自治体の一つです。私が所属している総合政策部国際局国際課では、さまざまな国際協力・交流事業などを行っており、最近ではウクライナ避難民のために「ウクライナ関連ワンストップサポート窓口」を設置し、道内での避難民受け入れをスムーズに行えるよう支援をしています。

北海道では北海道洞爺湖サミット(2008.7、洞爺湖町)をはじめ、最近ではG20観光大臣会合(2019.10、倶知安町)、などの国際会議の開催実績を踏まえ、本道の活性化に向け、国、市町村、関係機関と連携しながら国際会議の誘致に取り組んでいます。

また、道庁は海外拠点も多く持っており、ロシア・サハリン(ユジノサハリンスク市)、中国・上海、韓国・ソウル、ASEAN(シンガポール)の4つの海外事務所があります。姉妹・友好提携地域は6カ国10地域あり、グローバル化の推進は道庁の重要な施策の一つです。

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大など北海道を取り巻く国際情勢は大きく変化を続けており、北海道が将来にわたり輝き続けていくためには『世界の中の北海道』として、的確かつ迅速な対応を進めていくことが重要と考えています。このため、道庁では2021年12月、「北海道グローバル戦略~世界をより身近に、世界を舞台に活躍~」を改訂し、食や観光といった経済分野をはじめ、教育、文化等の取組を連携させるなど、国際関連施策の戦略的・効果的な展開を図っていくこととしています。

こうした現状に応える人材の育成にJICA海外協力隊は有益です。道庁では、職員から協力隊への参加希望があれば現職参加(注1)できる制度を整えています。JICA海外協力隊への参加を通じて、国際的視野を持つ職員の育成に資すると考えており、そのことが北海道グローバル戦略の「人材育成」にもつながると思います。

また、道庁では2022年、当課担当のもとJICAと包括連携協定を締結しました。外国人から選ばれる北海道を実現するために「多文化共生の環境整備」「SDGsの推進」「人材育成・確保」、これら3項目において更に連携を強化していきたいと考えています。

総合政策部国際局国際課多文化共生課長の池田和明さん総合政策部国際局国際課多文化共生課長の
池田和明さん

国際経験と異文化対応
語学だけではないソフトスキルに期待

実は、私も国際経験のある職員の一人です。北海道大学を卒業後、1990年に道庁に入り、1995年にはJIAMの国際文化交流研修コースに参加。その後、外務省に出向して在カナダ日本大使館二等書記官を務め、帰国後も米国国務省のインターナショナル・ビジターズ・リーダーシップ・プログラムに20か国の方々と共に参加するなど、庁内の職務だけでなく外部組織での国際経験も積ませていただきました。そんな自身のキャリアを振り返ると、道庁には優秀な人材は多いものの、対諸外国や対外国人といった異文化への対応に能力を発揮できるような職員がまだまだ少ないように思います。そうしたことから、先進国や開発途上国を問わず、海外での研修や留学、在外機関への出向などを職員に奨励したいところです。JICA海外協力隊への参加も、そうしたうちの一つです。

私が思うにJICA海外協力隊は、本来の活動のほか、海外の人たちに日本人の良さを直に伝え、「日本を好きになってもらう」ための役割を担っているのではないでしょうか。そして、協力隊経験者の皆さんは、異文化に溶け込みながら日本という国を外から見て学び、日本の素晴らしさを理解し、それを自分の言葉で話せる力を持っています。私たち日本人は、時に「○○人は」と一括りにして、意図せず差別や理不尽なことをしてしまう傾向があります。しかし、協力隊などの海外経験があれば、価値観の異なる相手でも1人の人間として受け止め、しっかりコミュニケーションを取り、お互いの理解を深めていくことができるようになります。

「若い子には旅をさせたい」。後輩がなるべく若い時期に海外経験を積めるよう、これからも支援していきたいですね。道庁職員として海外経験、協力隊経験を直接仕事に活かすことができる場面は、そう多くないかもしれません。しかし、協力隊参加を通じて育んだ、粘り強さやコミュニケーション力などといったソフトスキルは行政のさまざまな業務に活かせるはずです。ぜひ、そのスキルを存分に活かして、多方面で活躍してもらいたいと考えています。道民はもちろんのこと、特に将来を担う子どもたちのために役立ってほしいと願っています。

JICAボランティア経験者から

総合政策部交通政策局 交通企画課 公共交通支援係 主任 奥村武史さん
(ボリビア/コミュニティ開発/2017年度派遣)

小学生からの夢
上司と同僚のサポートで実現

私は東京都国立市の出身です。北海道への憧れが強く、北海道大学に進学後、就職先も道庁を選びました。議会事務局に配属された後、国際課へ異動。3年の勤務を経てJICA海外協力隊への応募を決意し、現職参加しました。

協力隊は小学生の頃からの憧れでした。小学校の先生が協力隊経験者で、現地活動の様子や住人との暮らし、そしてその国の自然などの話を聞いて興味を持ちました。また、私の父親が開発途上国の勤務が長く、インドなどでの仕事や暮らしの様子を小さい頃から聞いていました。そういった経緯から、「いつかは協力隊に参加して開発途上国の人たちを支援したい」という気持ちが芽生えていったのだと思います。

道庁国際課の業務は外国人との交流も多く、海外がより身近なものとなりました。そんな時に出会った上司が、池田課長です。海外経験が多く、流ちょうな英語を駆使して電話の向こうの外国人と対等に仕事をする課長は、ものの見方や考え方も道庁職員のなかでは飛び抜けた国際派です。そんな課長との出会いが、幼少からの夢の実現と「いつか自分も海外に」という気持ちを固めていきました。

私は「自己啓発等休業制度」(注2)を活用して道庁から現職参加しましたが、2年間も休職することに不安がないわけではありませんでした。池田課長は、制度概要をはじめ復帰後の給与等の取扱いの確認など、人事担当者との交渉だけでなく休職期間中の業務引き継ぎにも立ち会うなど、様々なサポートをして下さいました。私の現職参加を支え、いつも励まして下さったことを、今でも感謝しています。

総合政策部交通政策局交通企画課公共交通支援係で主任を務める奥村武史さん総合政策部交通政策局交通企画課公共交通支援係で主任を務める奥村武史さん

天と地の2年間
国内では得られない貴重な経験

2017年6月、コミュニティ開発隊員としてボリビアに向かいました。コチャバンバにあるNGOに配属されたのですが、現地では心優しい人たちに囲まれ、楽しい日々を過ごすことが出来ました。一方で、協力隊活動は上手くいかないことだらけ。当初予定されていた私の活動内容が変更され、未熟なスペイン語が壁となりコミュニケーションがうまく取れず、現地の同僚との人間関係も成り立ちません。そんな時にアメーバ赤痢に罹り、泣きっ面に蜂の状況になりました。広報用の写真撮影や内部資料の整理などの後方支援しか出来ず、現地住民との接点もほとんどなく、当初考えていた活動が何もできないまま月日だけが過ぎていったのです。「もう帰国しよう」と心折れそうになる日もありましたが、そんな時思い出したのは道庁の同僚や支援してくれた池田課長の顔。「みんなに迷惑を掛けて来ている。何か残すまでは帰れないぞ」という思いがモチベーションになり、自身を奮い立たせることが出来ました。

派遣期間が2年目に入り、活動場所もコチャバンバからオルロに変わり、当初希望していた観光振興の活動ができるようになりました。同僚に観光プロモーションビデオやパンフレットの作成を提案すると賛同してくれ、協力し合いながら成果を残すことができました。この時、観光ツアーの一つとして企画したのが「炭鉱ツアー」です。オルロはスズの産地で、坑道には「ティオ」という鉱山の神様が祭られており、安全を祈願する儀式が毎日行われていました。この儀式は非常に独特で、モニターツアーを実施したところ高い評価を受けたのです。立地も良く、首都から世界的にも有名なウユニ塩湖に行く途中にあるため観光地化も夢ではないと、現地スタッフと喜び合いました。

協力隊の2年間を振り返ると苦労の連続ではありましたが、日本の公務員としては絶対に得られない、貴重な経験を積むことが出来ました。公務員としてのスキルは、2年間ブランクになったかもしれません。しかし、「協力し合って、できることをする」といった、粘り強い現地でのプレーヤー経験や相手の立場になって考える視点は、これからも活かせるはずです。協力隊経験を糧に、国際交流や多文化共生、観光などの特定分野だけでなく、道庁の多種多様な業務の中で道民のお役に立ちたい。そんな思いを強く持ちながら、日々業務に邁進しています。

このインタビューは2022年7月に行われたものです。

注1:現在の職場を退職せずに、その身分を保有したまま休業してJICA海外協力隊に参加すること。
注2:公務を取り巻く社会環境の変化に対応できるよう、国家公務員や地方公務員に自発性や自主性をいかした幅広い能力開発や国際協力の機会を提供するための柔軟な仕組みとして設けられた休業制度。休業期間中は無給。

ボリビアでコミュニティ開発隊員として活動した奥村さん(前列)ボリビアでコミュニティ開発隊員として活動した奥村さん(前列)

PROFILE

北海道庁
所在地:北海道札幌市中央区北3条西6丁目
協力隊経験者:複数名在籍(2022年7月現在)
採用試験ではC区分(31歳~59歳)で「学校卒業後の民間企業等における職務経験が5年以上」の条件のなかに対象職務経験として「JICAボランティア(青年海外協力隊)」を挙げている。北海道教育委員会の教員採用試験では青年海外協力隊経験が加点(10点)措置の対象となっている。
HP:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/
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