IAAZAJホールディングス株式会社協力隊での経験を
これまでの業態を打破する原動力に

  • グローバル人材の育成・確保

日本有数の繊維産業の集積地として知られる北陸地方にあって、富山県に本社を置くIAAZAJホールディングス株式会社は、ニットの染色加工分野で国内最大手の企業だ。海外製品との競争などを背景に「これまで大手繊維メーカーと二人三脚で右肩上がりに発展してきた地場繊維産業は今、大きな転換期を迎えている」と話す同社代表取締役社長の小田浩史さんは、自らが考え、ものをつくり、消費者に届ける自立型事業モデルの創出に取り組む。その一環として、富山県の魅力とともに自社が企画した製品を発信するプロジェクト「TATEYAMA Wa’U」(タテヤマ・ワウ)を展開しているほか、JICAの民間連携ボランティア制度を活用し、2014年10月には入社2年目の若手社員を青年海外協力隊として開発途上国に送り出している。こうした改革に向けた取り組みや協力隊派遣の狙い、帰国後の社員の変化、そして今後期待する役割などについて話を伺った。

委託賃加工からの自立型事業へ

北陸3県は伝統的に繊維産業が盛んな地域で、ここ富山では、日本国内で生産されるニットの中でもトリコットと呼ばれる編物の80%ほどがつくられています。繊維産業は原材料の「糸」から最終的な「製品」ができるまで、細かな分業体制になっていることが特徴で、当社はそのちょうど中間にあたる染色加工を生業としてきました。製編企業から生地を預かり、それに染色やプリントを施したり、防水・はっ水、抗菌、防臭といったケミカルな加工を施したり、保温性や速乾性を高め、肌触りを良くするフリースといった物理的な加工を施したりと、生地に付加価値をつけ、その対価を収益とする委託賃加工と呼ばれる業態です。

大手繊維メーカーから自動的に仕事の依頼があった時代は良かったのですが、海外製品との競争や国内需要の低迷などを受け、当社はアパレルから自動車や医療といった非衣料品分野向けの生産を拡大させてきました。しかし、委託賃加工という業態に変わりはなく、これからは自らが企画し、商品をつくりだし、販路を開拓していく「自立型」の事業モデルをつくっていくことが重要だと感じています。

私は生まれも育ちも大阪で、18年前に東京のスポーツメーカーから当社に転職しました。県外からきた私には、自然豊かな富山県の素晴らしさ、人の良さというものが感じられるのですが、地元の人たちにとってはそれが当たり前になっていて、その価値や可能性に気付いていないのではないかという思いがありました。

そこで2014年にスタートしたのが、富山県の魅力とともに当社が企画し地元企業と協力してつくった商品を発信するプロジェクト「TATEYAMA Wa’U」(タテヤマ・ワウ)です。「TATEYAMA」はもちろん立山連峰のことなのですが、「Wa’U」はハワイの言葉で「引っかく」という意味で、当社の加工技術の一つである起毛加工の引っかくと、富山の魅力を引っかいて掘り起こすという意味をかけました。現在このプロジェクトでは、富山の自然を背景に「山」「農業」「宿」に携わっている魅力ある人に焦点を当て、その人たちが仕事で使う衣類やグッズを地元の企業とともに開発し、提供しています。

代表取締役社長
小田 浩史さん

初めて海外に社員を派遣

委託賃加工に加え、「TATEYAMA Wa’U」のような自立型事業へと業態を広げていく取り組みのなかで、まずは社内の意識、そして広い意味では富山の産業界にとって刺激になるような人材を育成していく必要性を感じていました。そうしたときに知ったのが、JICAの民間連携ボランティア制度でした。

2012年の夏ごろJICAから連絡があり、担当の方が来社されることになりました。紹介いただいたその制度は、JICAと企業が相談しながら派遣先となる国や職種、派遣期間などを決め、社員を青年海外協力隊として派遣するというもので、われわれのような中小企業の場合、派遣中の人件費補てん制度も活用できるということでした。

現地の人々に寄り添い、課題を整理し、その解決に向けた道筋を考え、実行する。そうした経験を積める機会は、そう多くはありません。グローバルな舞台で自主自立的に活動することで身に付く素養は、これまでの業態から一歩踏み出し、新しい自立的な事業をつくりだしていくための大きな原動力になると感じました。

社内公募を経て選ばれたのが、地元富山県出身で当時まだ入社2年目の福原久成さんでした。若手社員を選んだのは、生産ラインで先頭に立って働いているような中堅社員を遠い国に派遣することは難しいが、若手社員には早い段階で海外を経験してもらうことで、より柔軟にさまざまなことを吸収してきてほしいという思いがあったからです。当然、まだ入社2年目ですから、海外で繊維にかかわる技術を教えてくることは難しいと考えていたため、職種についてこだわりはありませんでした。ただ、当社として初めて海外に社員を派遣するということもあり、万が一に何かあったときには即応しやすいようにと、時差が少ない国を希望しました。そして決まったのが、ラオスで「コミュニティ開発」の隊員として地場産業を育成するというものでした。

ところが、ことはそんなにスムーズには進みませんでした。「それほど高い基準ではないので大丈夫だと思います」と聞いていた英語の選考基準に達することができなかったのです。本人も相当努力したのだと思います。彼は仕事をしながら英語を勉強した結果、見事に合格し、ラオスに派遣されたのは初めて選考試験に挑戦してから1年後の2014年10月でした。協力隊への参加を決意してからブランクができたことで、迷いが生じてしまうのではないかと心配していたのですが、幸い彼のモチベーションは高く、無事に乗り越えられたようです。

派遣期間をどの程度にするか迷いました。正直、1年という限られた時間では、本人が納得するような成果まで結びつけることは難しいだろうと思う反面、無理をさせて本人が挫折してしまっては意味がないという思いもありました。当社としては2人目、3人目へとつないでいきたいという考えもあり、まずは欲張らずに1年間ということにしたのです。

「TATEYAMA Wa’U」プロジェクトで富山県魚津市にあるいけがみ旅館を切り盛りする三姉妹に提供されたおかみウエア

富山の魅力を海外へ発信したい

ラオスの村で「コミュニティ開発」の隊員として地場産業の振興に取り組んできた福原さんが、2015年9月、無事に帰国しました。日本でも地域おこしの手法として知られている「一村一品」がJICAの支援で世界へと広がっているらしく、彼の活動はそのラオス版だったそうです。輸入品に押され苦戦している「シン」と呼ばれる地元産の巻きスカートをどうやって売っていくか。消費者へのアンケートなどを通じて「シン」の魅力と改善点を整理し、今後の商品開発につながる成果も残せたと聞いています。

もともと優しい性格が顔に表れている彼は、見た目に大きく変わったわけではありませんでしたが、ラオスで「一村一品」に向けた取り組みの中で、魅力ある地場の産業製品開発に携わった経験は、そのまま当社やこの地域が抱える課題にも生かせるものだと感じています。

彼は、協力隊へ参加する前は染色の工程を担当していましたが、帰国後は品質保証を担う部署に配属しました。参加前は当社事業の入り口にあたる染色を、帰国後は出口にあたる品質保証を担ってもらうことで、当社の事業全体を見てもらいたいという思いがありました。そして今後、彼には従来の委託賃加工から一歩先へと、業態を広げていってほしいと期待しています。

2015年3月に待ち望んだ北陸新幹線が開業しました。それによって国内からはもちろん、海外からも観光客が訪れるようになってきています。「TATEYAMA Wa’U」で富山県の魅力を伝える先は、これまでは国内でした。それを今後は海外へと広げていきたいという思いがあります。富山の魅力を海外に発信することでこの地を訪れてもらい、この地で生産されるものにも関心を持ってもらう。2016年はその1年目と位置付け、どのような方法があるのか、どのような商品を開発していくのかなど、検討を始めたところです。世界に向けて富山の魅力を発信していくお手伝いを、協力隊を経験してたくましくなった地元富山県出身の福原さんにお願いしたいと考えています。

今度、全社員が集まる場で福原さんから活動を報告してもらう予定です。その報告を聞いた社員の中から、第二、第三の福原さんが名乗りを上げてくれることを期待しています。そして、協力隊を通じて世界を肌で感じてきた社員とともに、新しい染色加工技術を開発しながら自立したものづくりを目指し、頑張っていきたいと思います。

小規模生産者へのヒアリング調査を行う福原さん(写真左手前)

福原さんは帰国後、品質保証課に配属され製品の品質チェックを担当している

PROFILE

IAAZAJホールディングス株式会社
設立:2014年2月
従業員:233名(2014年7月現在)
本社所在地:富山県砺波市庄川町青島11番地
事業内容:繊維製品の染色・起毛・捺染・仕上げ加工およびこれら加工に関わる設計・開発
HP:http://www.ichiamiaz.co.jp/
「TATEYAMA Wa’U」HP: http://wau.toyama.jp/
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