株式会社北海道医薬総合研究所専門職を活かし、日本そしてネパールで
地域に根ざした社会貢献。

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専門職を活かし、日本そしてネパールで地域に根ざした社会貢献

株式会社北海道医薬総合研究所は、全従業員の約半数(約600名)が薬剤師である株式会社ファーマホールディングのグループ会社として、薬剤師教育および研修機関の役割を担っている。管理栄養士の立場から、薬剤師の教育に熱心に取り組む協力隊OG、藤田智子さん(平成16年度派遣/ネパール/栄養士)を訪ねた。

教育と研修で薬剤師の資質向上を目指す

株式会社北海道医薬総合研究所の親会社となる株式会社ファーマホールディング(以下、同グループ)では、全従業員1,179名中、631名が薬剤師として働いている。同グループでは薬剤師の位置づけを「地域の健康を支える専門家」と表現。そのため、薬剤師としてのスキルアップは当然のことながら、健康に関する幅広い知識を身につけることが大切であるという考えのもと、薬剤師の教育・研修を目的とした株式会社北海道医薬総合研究所(以下、同社)を1993年に設立した。

 今回訪ねた協力隊OGの藤田さんは管理栄養士の立場から、同社で薬剤師教育に熱心に取り組んでいる。管理栄養士とは傷病者に対して療養上に必要な栄養指導をするほか、個人あるいは特定多数の人に対して健康保持のための栄養指導をするが、藤田さんの場合は、そうした指導を薬剤師に対して行うことで、薬剤師の資質向上に大きく寄与している。

「嬉しかったことは、現地のスタッフが自ら、栄養について学び、広めていこうという姿勢を見せてくれたことです」と話す藤田さん。

栄養士という専門職で国際協力の一翼を担いたい

「食べ方は生き方です」。そう話す藤田さんは、高校時代から健康に対して高い関心があったという。身近な知人に管理栄養士がいたことにも影響を受け、大学では食物栄養学を専攻。大学を卒業後、同社に入社してからは、同グループの調剤薬局で管理栄養士として栄養相談に乗ったりする一方で、母校の大学教授が中心となってネパールでの栄養活動を展開するNGOにも積極的に参加した。NGOでの勉強会を重ねていく中で、ネパールの栄養状態の悪さと、栄養活動に取り組む専門家の少なさを知った。3週間の現地視察で感じたことを藤田さんは次のように話す。「日本のように豊かな食物事情ではありませんが、それなりに食べ物はありました。でも栄養バランスが非常に悪く、特に乳幼児が心配でした。発育過程で必要な栄養素を正しく摂取していくことは、病気の予防にもつながることですから」。そんな中、藤田さんが勤務する同社から、藤田さんと同じ管理栄養士である後輩が社の特別措置により、社に籍を置いたまま協力隊に参加。「栄養士が国際協力の一翼を担えること、勤務先が籍を置いたまま参加を認めてくれる可能性があることを知り、『自分も協力隊に参加してみたい』という気持ちが強くなりました」と藤田さんは話す。その後輩に遅れること1年、藤田さんはNGOの活動を通して身につけた自身の見聞とそれまでの職務経験を存分に生かせるとの考えから、派遣希望国にネパールを選び、協力隊に応募。見事に合格した藤田さんは、入社4年目の26歳のときにネパールへ渡った。

協力隊参加を通して「人の痛み」が分かる医療従事者に

藤田さんが協力隊への参加を申し出た当初、同社および同グループの上層部では藤田さんの協力隊参加への可否について意見が分かれた。実は、同社には籍を置いたままボランティアに参加する休職制度は存在しない。また、同グループに薬剤師は多数いるものの、管理栄養士の数はわずか5名程度。その上、すでに1名の管理栄養士が協力隊へ参加中だったこともあり、社としては藤田さんの2年にわたる不在に対して躊躇があった。

 同社の代表取締役所長の小貫中(おぬき ちゅう)さんは、藤田さんからの申し出を受けた当時を振り返り、笑顔でこう話す。「本人は『会社を辞めてでも協力隊に参加する』と宣言していましたが、弊社のような職場は、管理栄養士が存分に力を発揮できる数少ない場所の一つです。それを考えると、籍を置いたまま行くほうが彼女にとっては絶対に良いと思いました。また、私たちは仕事柄、多くの患者さんに関わります。患者さんたちは皆、何らかの病を抱え、不安と闘っていらっしゃいます。そのときに、私たちを含めた医療従事者は『人の痛み』が分かる思いやりのある人間でなくてはなりません。人は自らが苦しんだり悩んだりする経験があってこそ、相手を思いやれるようになります。そう考えると、協力隊で経験を積んだ人間は、私たちのフィールドで必要な人材育成につながるのではないだろうか、私はそんなふうに思いましたし、今でもそう思っています」。

 最初こそ、藤田さんの現職参加に対して意見が分かれたものの、最終的には、「社員が協力隊に参加することは、グループ全体が目指す『医薬を通した社会貢献』にもつながっていくものだろう」とのグループ全体のトップが下した判断に全員が賛同する形となった。

「研修でも、藤田さんは人気の講師です」と小貫さん。協力隊の活動を通して磨いた創意工夫する姿勢と積極性が仕事上でも生きていると分析。

自分が歩いた道を歩いてくれる人がいる喜び

藤田さんの現地での仕事は、ネパールの政府機関である女性開発事務局の栄養士として、若い母親たちを対象に栄養指導を行うこと。その背景には、乳幼児の低体重や女性の貧血など、栄養の摂り方に問題があると思われるものがあった。藤田さんは、現地のスタッフと協力しあいながら、6つのポイントを軸に、栄養指導の在り方を探った。①誰にでも簡単に実施できること、②読み書きができない人にとっても理解しやすい内容であること、③費用がかかりすぎないこと、④周囲の協力が得られること、⑤地域住民が興味を持てる内容であること、⑥地域住民が楽しく参加できること、これら6点を踏まえてたどり着いたのが、人形劇と栄養指導を組み合わせたイベントを実施することだった。

 月に1度の乳幼児体重測定の日に、衛生や栄養に関する基本的な知識を台本に盛り込んだ人形劇を実施。その後で感想や意見を述べ合い、より細かい栄養指導を行い、ゲーム形式で復習を行うというイベントを行った。イベントは、藤田さんが在任している2年間に10地域で計13回実施され、参加した人の数は1,000人を超えた。

 「ネパールには、教育、農業、経済の問題などが山積みとなっているため、栄養バランスの悪さについては問題意識を持っている人が少ない状況でした。でも、イベントを通して、栄養学の基本とイベント運営のノウハウを身につけた現地のスタッフたちから、『これからは、自分が中心になってイベントの企画運営をしていける』との声が聞けるようになりました。実際に、現地のスタッフ主導で運営されたイベントもあります。そこに参加した人の数も含めると、イベントを通じて栄養指導を受けた人の数は数え切れません。自分の離任後にも、自分が歩いた道を歩いてくれる人がいる、これは本当に嬉しいことです」と藤田さんは笑顔を見せる。

 道なき草原でも、数人が草を踏みしめながら歩けば道らしきものができる。しかしその後、誰も通らなければその道にはまた草が生え、道は消える。藤田さんが「嬉しい」と表現するのは、細い道であろうとも道としての形が残ることにある。

現地での乳幼児体重測定の様子

現地での気づきや学びが帰国後の自分をつくる

現地での2年にわたる生活を経て、帰国後の藤田さんの生活はとても「シンプル」になったという。「ネパールで2年間を過ごしている間に、『生活の中でのムダを最小限に』という考えと行動が身につきました。自分で料理をするときも、無駄が出ないような野菜の切り方や調理方法を心がけています。テレビもほとんど見なくなり、夜は早く寝るようになりました」と藤田さんは笑う。

 復職してからの主な業務は、管理栄養士の立場から薬剤師のための研修プログラムを企画したり、薬剤師を対象とした栄養教室や新人研修などで講義をすることだ。病状に見合った薬を出すのが薬剤師の仕事だが、それと同時に日々の食事に配慮をすることが治癒を望む上で重要になる場合が多くある。しかし、すべての患者さんに個別の栄養指導をするには、管理栄養士の数が少ないという現状がある。そこで、藤田さんのような管理栄養士が、多数の薬剤師に対して栄養学の指導をし、栄養指導もできる薬剤師を育てているというわけだ。

 薬剤師を対象とした研修プログラムの企画や講義をする上で、協力隊時代の経験が役立っていると藤田さんは話す。ネパールでのイベントとは対象こそ異なるものの、講義を受ける人が興味を持って、楽しく学べることを心がけながら企画する点は同じだ。人前で話すことについては、ネパールで場数を踏んできた経験が、人前でも緊張せずに堂々と話す自信につながっている。講義の内容にメリハリをつけるために、状況に応じてネパールの栄養事情や自身の体験を織り交ぜることもある。そして、講義のまとめ時に藤田さんがよく使う、「ここで学んだことは、皆さんが家に持ち帰り、今度は皆さん自身がご家族やご友人に教えてあげてくださいね」というセリフは、現地でもよく使っていた言い回しなのだそうだ。

 また、人は1人では生きていけないという当たり前のことを、協力隊での経験を通してあらためて学んだという藤田さんは、「人のネットワークが広がっていくと、そこから思いもよらないアイデアが生まれたり、『力』が生まれたりします。たとえば、ネパールでの活動も私1人では何も出来ませんでしたが、現地のスタッフとつながることで、アイデアが生まれ、地域住民とつながり、イベントも実施できました。ですから、日本でもネットワークを広げていきたいと考えています」と話す。栄養士間でのネットワーク、多職種とのネットワークを構築し、同社にとって、そして患者さんにとって大きな『力』を生み出していきたいというのが藤田さんの当面の目標だ。

 藤田さんの「食べ方は生き方です」という言葉に基づけば、管理栄養士の仕事は、人々の生き方に直結する極めて重要な仕事だと言える。協力隊員としてのネパールでの経験が、その重要な仕事の礎の補強材となり、より堅固なものにしていることは言うまでもない。

PROFILE

株式会社北海道医薬総合研究所
当社は調剤薬局を運営する株式会社ファーマホールディングのグループ会社として、薬剤師教育事業を中心に展開してまいりました。「地域の健康を支える専門家としてつねに誇りと向上心を持ち、明るく元気なまちづくりに貢献する」ことを理念とし、地域住民の健康の担い手を目指します。

薬剤師教育としては全国各地で研修会の実施や、e-ラーニングシステムによる自己学習の推進によりスキルアップを図っています。また、薬局レベルでは患者様に対して栄養士による栄養相談、健康と食事に関する情報誌の発行など、薬局が街の健康ステーションとしての役割を担うよう、幅広い健康サポートに取り組んでおります。

今後も地域社会において、それぞれの習慣、文化などを理解し、地域住民の方々と共感しながらともに歩んでゆきたいと考えております。
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