社会福祉法人 調布市社会福祉事業団障害福祉と子育てをワンストップで支援
協力隊経験者の発想力や対応力が活きる現場

  • グローバル人材の育成・確保

社会福祉法人調布市社会福祉事業団は、東京都調布市が設置する社会福祉施設の運営を受託し、障害のある方を対象にした障害福祉と、子育て支援などの児童福祉を事業の両輪と位置付け、事業を展開している。これまで職員2名がJICA海外協力隊に現職参加(注1)しているほか、帰国隊員の職員採用も積極的に行っている。本部事務局次長の出口アユミさんと、副主幹の藤咲祐介さんにお話を伺った。

事業団内にJICA海外協力隊の派遣制度
職員2名が協力隊へ

調布市社会福祉事業団は1999年に設立され、今年で23年になります。年々事業規模が拡大し、現在12の事業所で500名以上の職員が働いています。事業費や人件費は調布市が予算立てしてくださるので非常に安定しており、コロナ禍でも定期昇給が続くなど、男性も女性も長きに渡って安定して働ける職場であることが私どもの強みです。

JICAとの関わりとしましては、JICA海外協力隊の現職参加者が2名、帰国後に採用した方が2名おります。2005年に初めて職員を協力隊に送りだす際、当事業団の中で現職参加要綱を作成し、就業規則も改正して2年間安心して行ける制度を作りました。新人職員のオリエンテーションでは必ずこの制度を紹介し、実際に現職参加した職員が2名いることも伝えています。いずれコロナ禍の状況が落ち着いたら参加したいと思っている職員もいるのではないでしょうか。

帰国隊員の採用も行っています。最近では、2020年2月のJICA海外協力隊キャリアフェア交流会に参加させていただきました。結局、帰国隊員からの応募はなかったのですが、当事業団を見学に来てくださった方はいて、長い目でつながっていけるといいなと思っています。

協力隊経験者の魅力は、柔軟な発想力や臨機応変な対応力、それからコミュニケーション力だと思います。障害のある方は特有な文化をお持ちの方もいらっしゃるのですが、協力隊の経験者は異文化の中で活動してきているので、障害のある方とも自然体で接することができます。

現職参加した三牧由季さんが復職した際、2年間の活動で成長したなと感じたことがいくつかありました。まずは、物事を的確に伝えるプレゼンテーション能力が非常に身に付いたこと。そして、多様な価値観をお持ちの方々と一緒に活動されてきたからだと思いますが、「とりあえずやってみよう」というような柔軟性がさらに磨かれた感じがしました。もう一つは、課題解決能力です。課題を見つけるだけではなく、それを解決するための道筋をつける。それも自分1人でするのではなく、周りの同僚や後輩を巻き込んで、解決まで持っていくという力が身に付いたなと感じました。

副主幹の藤咲祐介さん副主幹の藤咲祐介さん

外国人労働者の導入を検討
協力隊経験者の調整力に期待

これまで当事業団では、障害がある方の支援と子育て支援を両輪としてやってきました。今後もこの2つに関しては絶え間なく、そして連続性をもってやっていきたいと考えています。というのも、法人設立当初は「なごみ」「そよかぜ」「すまいる」という知的障害者の援護施設と、「まなびや」という重度重複障害者の受け入れの施設、それから「すこやか」という子どもの施設を受託運営していました。

これらを運営していくうちに、成人で障害のある方の子ども時代はどうだったのだろう、子ども時代の支援もしたいよね、という方向性が決まりました。職員が一丸となって調布市のプロポーザルに手をあげて最初に受託したのが、障害があるお子さんの通園施設「あゆみ」です。「あゆみ」は就業前のお子さんが対象で、その後はどうなるのだろう、そういえば学齢期の障害があるお子さんの支援がないよね、という話になり、障害児のための学童の業務を受託してみよう、という流れで事業拡大をしてきた経緯があります。障害がある方のライフステージ全般を、それから子育て中の家庭をワンストップで支援する。それらを網羅できるようになるまで、当事業団は頑張っていきたいと考えています。

一方、近年は課題も多くあり、育児や介護と仕事の両立に悩む職員が多いことなどが挙げられます。これらの悩ましい課題に対して、協力隊経験のある職員たちは、問題がどこにあるのかを洗い出し、それを解決する方向に向けて動く行動力が非常に長けているな、という印象を強く受けます。

三牧さんも産休・育休を経て復職しましたが、現場を離れている時の不安や心配を経験したことで、育児や介護と仕事との両立について同じような不安を抱えている職員のために、有志で両立支援プロジェクトを立ち上げ、意見交換を重ねています。三牧さんの提案から始まったプロジェクトは、事業団内で広報誌を発行して制度を紹介したり、施設長のコラムに育児や介護看護に関することを載せたりするなど、広がりを見せています。今後、組織が拡大するにつれて、三牧さんのように問題を提言し、課題に向けて実際に動いてくれる人が増えてくれたら、組織全体がさらに活性化するのではないかと期待しています。

また、当事業団では外国人労働者の導入を検討しています。母国から遠く離れて日本で働く彼らにとって、働きやすい職場とはどんな環境なのか、コーディネーター的な職員が必要なのではないか、と考えるべきことは多くあります。そこで今後は、協力隊経験者の採用を積極的にしていきたいですね。柔軟な対応力やコーディネート力、外国籍住民の方々への相談対応など、協力隊経験を活かして活躍していただける現場はたくさんあります。ぜひ、皆さんのお力を貸していだければと考えています。

JICAボランティア経験者から

子育て支援センター すこやか 三牧 由季さん
(ネパール/ソーシャルワーカー/2010年度派遣)

ネパールでの2年間
大きな「学び」と「気づき」

学生時代、現在働いている「すこやか」という子ども家庭支援センターでアルバイトを始めたのがきっかけで、当事業団に就職しました。「すこやか」で4年、障害福祉部門に異動して2年、計6年勤務した後に現職参加制度を活用してJICA海外協力隊に参加。2010年から2年間、ネパールに派遣されました。

ネパールでは、ヒマラヤの山岳地帯にある知的・身体障害児のためのホステルで障害児の生活支援を行ったり、障害者手帳の普及活動を行いました。しかし、山岳地帯は土砂崩れが多く、安全面の問題から任地変更となり、後半は首都カトマンズにあるダウン症のお子さんのいる家族会が設立したNGOで活動しました。

ネパールにはこの時期、KOICA(韓国国際協力団)からも障害者支援のボランティアが複数名派遣されていました。日韓の様々な職種で連携してチームを結成し、キャラバンを組んでネパール全土の特別支援教育教員への研修会を開催する活動も行いました。日本と韓国も異文化で、共通言語はネパール語という環境の中、言葉を選びながら必死にコミュニケーションを取った経験は、その後の障害者福祉の仕事でとても役立ちました。また、他業種である作業療法士、理学療法士、特別支援教育教員といった、なかなか出会わないような専門職の人たちと一緒に長時間活動したことが、自分の中では大きな学びになりました。

2年間の活動で強く感じたのは、ネパールと日本の障害者に対する意識の違いです。ネパールでは、地域や民族、カーストによっても障害者に対する意識に違いがあります。しかし、社会全体では日本のように「障害者雇用しています」というスタンスではなく、「障害があってもできる仕事をしてくれたらいい」という形で雇用されるケースが多く見られます。与えられた場所で自分たちができることをして生きていくという意味では、障害の有無に関わらず、日本よりもネパールのほうが暮らしやすいのかもしれません。

ネパールでソーシャルワーカー隊員として活動した三牧さんネパールでソーシャルワーカー隊員として活動した三牧さん

時代とともに変化していく業務
多様性に富んだスタンスが強み

昨年の4月からは子ども家庭支援センター「すこやか」に異動となり、実に13年ぶりに子育て支援の現場に戻りました。以前働いていた頃の子どもたちが親となり、その子どもが利用しているのを見ると、時代を感じます。「すこやか」は職員で「こんな支援があったらいいね」と意見を出し合いながら作り上げていった施設で、昨年20周年を迎えました。時代によって課題は変化していきますので,現状の課題に即して必要なことをやっていく,その姿勢は20年経っても変わりません。

「すこやか」の職員は障害分野でも働いた経験がある人も多く、障害に対する理解が深く、それは保護者にとって大きな安心材料になります。というのも、自分の子どもの発達特性を見て不安を抱えていらっしゃる親御さんがたくさんいますので、そういった悩みに対しても特性などを理解している職員がいるというのは大きな強みだと思います。

私たちの仕事は、お子さんと家庭の困りごとに関してさまざまな方法でアプローチすることであり、このように大規模で総合的にワンストップ子育て支援をしている施設は、都内でもまだ珍しいと思います。子育ての相談で多いのは養育に関することですが、近年急増している虐待に関しても、業務全体を通して虐待防止支援に関わっています。

また、外国籍市民の方への対応も増えています。言葉の問題はありますが、翻訳機なども使いながら対応しています。現在、日本在住のネパール人は10万名を超え、国内で出産・育児をされている方たちも増えています。そこで困りごと相談も増えるわけですが、ネパールの文化を知らないと解決できない難しいケースもあるため、ネパール語が話せることは役に立っています。例えば、この苗字だとこのカーストで、カーストの違う夫婦だとすると家族のサポートは受けられるのかと気にかけたり、社会的資源はどのようなものが必要かと検討するような具合です。

当事業団は職員採用に関して、児童福祉と障害福祉の区別をしていません。ほかの法人などでは、児童福祉は児童福祉の部門で、障害は障害部門で採用し、それぞれの場所で仕事をするのが基本だと思いますが、当事業団はそこを区切らず両方とも経験させるというスタンスを20年前から続けています。この方法に対して疑問を感じていた時期もあるのですが、世の中の流れがだんだんインクルーシブ社会や多様性への理解を深めていく時代になってきて、当事業団が最初からブレずにやってきたことが、良い方向に向かっていると感じています。障害福祉の組織では珍しいと思うのですが、協力隊への現職参加を法人全体で後押しし、人材育成としてさまざまな経験を積ませるという方針も当事業団ならではの特色だと思います。

協力隊に参加したことで、あらためて障害福祉の意義について考えさせられました。ネパールではきっと亡くなってしまうであろう方でも、日本では医療や福祉の力で生きることができます。その「生」に対して、ご本人の気持ちや希望をもっと大事にして、「健やかに生きてもらいたい」と思うようになりました。時代の流れとともに障害福祉の課題も多様化してきています。だからこそ、福祉の原点を見失わずに続けていくことが大切だと思っています。

※このインタビューは2022年9月に行われたものです。

注1:現在の職場を退職せずに、所属先に身分を残したまま休職してJICA海外協力隊に参加すること。

子育て支援センター「すこやか」にて従事する三牧由季さん子育て支援センター「すこやか」にて従事する三牧由季さん

PROFILE

社会福祉法人 調布市社会福祉事業団
設立:1999年
所在地:東京都調布市西町290-4
事業概要:知的障害者援護施設、子ども家庭支援センター、障害福祉サービス事業(生活介護、共同生活援助)、地域活動支援センター、特定相談支援事業・一般相談支援事業、移動支援事業、障害者就労支援事業、子ども発達センター、学童クラブなどの運営
協力隊経験者:4人(2022年9月現在)
HP:https://jigyodan-chofu.com/
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