金沢QOL支援センター株式会社専門職のJICA海外協力隊経験者は貴重な人材
「福祉が地域を支える社会」の実現をともに

  • グローバル人材の育成・確保

金沢QOL支援センター株式会社(以下、金沢 QOL)は、医療と福祉に特化したソーシャルベンチャー企業として、障害のある人や高齢者たちの生活の質の向上を支援し、彼らが活躍できる社会を作っていくために事業を拡大している。近年、作業療法士や理学療法士といった専門職でありながら、キャリア志向を持ち、経営管理にも興味をもつJICA海外協力隊経験者を雇用したことで、グローバル展開への足掛かりをつかんだという。人材戦略室の柴和成さんに話を伺った。

障がいがあっても働いて稼ぐ
みんなの幸せは社会の幸せ

当社は、医療福祉のソーシャルベンチャーとして10周年を迎えました。石川県金沢市の出身である代表の岩下琢也が、医療や介護サービスを通して、利用者さまの真のQOL(Quality of Life)の向上とそのための支援を、金沢から全国へ、そして世界へと広げていくために興した会社です。

作業療法士として病院に勤務していた代表は、1対1での支援の重要性も理解しながら、より苦しんでいる人やQOLが低い人が全国や世界に多くいる中で、そのような人たちにも支援を届けることの必要性を感じていました。このまま病院で医療従事者として働くだけではその実現は難しいと、大局的見地から会社を興こすことを決意。今では、医療と福祉に特化したベンチャー企業として、在宅医療・介護と就労支援の2本柱で事業を進めています。

当社の特徴は、従業員の6~7割が作業療法士、理学療法士、言語聴覚士などの資格を持ちながら、事業所のマネージメントにも従事していることです。病院では、患者さんのケアや身体機能を上げていくことが仕事になります。しかし、企業としてのビジネスマインドも必要で、その両輪をしっかり持った上でやっていかなければなりません。この両方を追いかけるスタンスは、今後の医療福祉サービスでも必要になってくるものと思います。

当社のビジョンに「リハスモデル(注1)」というものがあります。一般的に、障害のある人や高齢者は地域社会に支えられているイメージだと思いますが、私たちは、支えられる側が支える側にまわっていくこと、つまり「福祉が地域を支える社会の実現」を目指しています。したがって当社の事業所では、障害のある人でも高齢者でも働いて稼ぐことができるよう、必要な知識と能力を高めていく支援を行い、人の役に立ち、必要とされることが当たり前の社会づくりを追求しています。

そうした中、イオングループ様(イオンタウン、イオンモール[以下、イオン])との連携を進めています。地域に根差した店舗展開をしているイオンと、「福祉が地域を支える社会の実現」をビジョンに掲げる当社とは親和性が高く、事業連携が決定。その第一弾として、2022 年4月から埼玉県ふじみ野市の「イオンタウンふじみ野」に、就労継続支援B型(注2)事業所がオープンしました。

イオンタウンの中にも多様な仕事があり、さまざまな店舗が入っているので、就労支援につながるチャンスも多く、我々としても可能性を感じています。また、地域の人にとっては、これまで知らなかった就労支援というものを知る機会になります。当該事業所の支援を考えていらっしゃる利用者さんの家族にも認知が広がれば、まさに地域にとって不可欠な事業所になっていくのではと思っています。

2022年11月には富山県砺波市のイオンモール砺波にも就労継続支援B型事業所がオープンし、今後は全国のイオンへの展開も計画しており、「福祉が地域を支える社会の実現」に向け展開を進めていきます。

人材戦略室の柴和成さん

何が起きても「こう来たか!」と受け止める
JICA海外協力隊の経験者は頼もしい存在

このふじみ野市の事業所のセンター長は、JICA海外協力隊の経験者です。当社には現在二人のJICA海外協力隊経験者がおり、ともにグローバル展開を考える上で欠かせない、またベンチャーとして必要な刺激を与えてくれる存在です。

ベンチャーでは、突然何か新しい仕事が飛び込んできたり、守備範囲を超えてきたりするようなことが起こりがちです。普通ならパニックになりますが、二人は「ああ、こう来たか!」というようなマインドを持っていて、ハプニングを楽しめるような頼もしさがありますね。

二人に共通する印象は、ポジティブで大らか。専門職でありながらキャリア志向があり、マネージメントやビジネススキルにも興味を持って取り組んでくれています。医療福祉のベンチャー業界には、グローバル思考を持つ人はまだまだ少ないので、当社で活躍してくれていることがとてもありがたく、今後も大いに期待しています。

「リハスワークふじみ野」でセンター長を務める三前有理さん

JICAボランティア経験者から

リハスワークふじみ野 センター長 三前有理さん
(ベトナム/作業療法士/2018年度派遣)

自身の視野を広げ、力を試す機会
JICA海外協力隊での挑戦

私は、大学でリハビリテーションを専攻し、作業療法士として病院と訪問リハビリで3年間働きました。将来を考えた時「もっと広い世界を知りたい、より多くの人を助けられるようになりたい」という思いから、一般企業への転職を目指したのですが、同時に3年間培った経験で自分がどれだけのことができるのか試してみたいとも思い、ひらめいたのがJICA海外協力隊でした。当時の職場に協力隊経験者の先輩もいたことから、話を聞いて「これだ!」と直感しました。

JICA海外協力隊ではベトナムに派遣され、ホーチミン市の大学病院で作業療法を指導する活動をしました。当時、ベトナムには作業療法士という職業がなかったため、現地の理学療法士と行動をともにしながら作業療法を広めていくことになりました。

日本では、「人に迷惑をかけたくないから、自分でトイレに行けるようリハビリを頑張ろう」と考える人が多いです。一方のベトナムでは、「迷惑はかけてしまうが、お世話をしてもらえるのは嬉しい」と考え、一度病気になるとそのまま隠居してしまうのが一般的でした。そのような環境の中で、気持ちが弱っている人に「頑張ってリハビリしましょう」と伝えることが果たしてベトナムでは正解なのか分からず、現地の同僚もこの声掛けの意味が理解できずにいました。そこで、まずはこの同僚にリハビリの大切さを分かってもらおうと、何度も意見交換を重ねて納得してもらい、その同僚から患者さんにも伝えてもらうことで、少しずつ理解を広げていくことが出来るようになりました。

着任して1年を迎えようとしていた時に、新型コロナウイルス感染症の拡大でやむを得ず帰国。心残りもあり、いつでもベトナムに戻れるよう待機していましたが充実感もなく、このままではダメだと就職活動を始めました。しかし、その間も「もうすぐ戻れるのではないか」「就職してしまっていいのか」と悩み、数ヶ月ほど苦しんでいた時に出会ったのが、金沢QOLでした。

ベトナムで作業療法士隊員として活動した
三前さん

“諦めない”という強い気持ちで
前へ前へと進んでいきたい

入社して約2年が経ちますが、当社の最大の魅力は作業療法士の資格を生かしながらスタッフ管理などのマネージメントにも従事でき、従来と同じ時間で間接的に多数の支援ができることです。JICA海外協力隊に行く前は、自分が人を管理するなんておこがましいと思っていました。しかし、帰国後は自分を出すことがそこまで怖くなくなり、人の目をそれほど気にせず、思い切って発言や行動ができるようになりました。

4月から埼玉県ふじみ野市のイオンタウンに、新しく就労継続支援B型事業所「リハスワークふじみ野」がオープンし、そのセンター長として働いています。スタッフは社員が2人、パートが5人。利用者さんは24人通っていますが、これから月5人ずつ増やしていきたいと頑張っています。

管理職ですから、慣れない会計業務や書類作成なども行っています。失敗も多いのですが、ここで諦めたら終わりだとわかっているので、気持ちを強く持てています。この考え方は協力隊活動で培ったもので、何度も壁にぶち当たっても、伝え方や方法を変えながら物事を進めることができるようになりました。JICA海外協力隊の仲間からも「失敗の数=挑戦の数」だという話を聞き、今の仕事でもそのマインドを持ち続けています。

私は今、こうやって仕事ができていることが幸せです。当社には「世界に発信していく」というスローガンがあり、海外に「リハスモデル」を広げていくことがあれば、私も挑戦したいですね。社員のやりたいことをどんどん応援してくれる社風を、とても気に入っています。

JICAボランティア経験者から

リハスワークとしま センター長 高木恒介さん
(スーダン/理学療法士/2017年度派遣、パプアニューギニア/理学療法士/2019年度派遣)

JICA海外協力隊を通じて
グローバル思考を形に

学生時代にペルーを旅行した際、現地の人とボディランゲージでコミュニケーションが取れたことから、「もっと世界を知りたい」と思うようになりました。理学療法を学んでいた大学3年の時、JICA海外協力隊の体験談を聞く機会があって応募を決意。必須要件であった社会経験を積むため病院に就職し、脳卒中の回復期病棟で2年ほど理学療法士として働いた後、JICA海外協力隊に参加しました。

派遣されたのは、北アフリカ・スーダンの首都ハルツームにある国立の義肢・装具支援機構。糖尿病や内戦時の地雷による足切断患者が多く、日本では経験のなかった症例を目の前に、どのように理学療法を進めていくか、専門書を抱えながら試行錯誤の日々でした。私は、日本の税金で派遣されているという意識が強く、現地公用語であるアラビア語の特訓に加え、「何か残さなければ」「何か変えないといけない」という焦りに苦しみ、最初の半年から1年ほどは精神的にもつらかったです。

1年が過ぎた頃、配属先に現地実習生が訪れ、彼らに日本の理学療法を教える機会がありました。また、その頃からスーダンの医療福祉現場を知ろうと、クリニックや病院、大学などをアポなしで訪問。コネクションが広がっていくうちに、大学から講義をしてみないかと誘いを受け、理学療法学科の学生たち200人にアラビア語で講義をしたことが、一番印象に残っています。スーダンに行くまでは、医療や福祉以外のことにあまり関心を持たなかったのですが、現地での暮らしを通して社会や経済などに興味がわくようになり、いろいろなことを知る喜びを覚えたことが、自分にとっての大きな変化でした。

また、これまでは地位の高い人に怖気づいてしまうところがありましたが、スーダンで省庁のトップクラスの人と仕事をしたことで、あまり役職を気にしなくてもいいと思えるようになりましたね。

パプアニューギニアとスーダンで理学療法士として活動した高木さん(写真はスーダンにて)

自分の可能性を信じて
今までにない地域づくりを目指していく

現在、私がセンター長を務める東京都豊島区のB型事業所「リハスワークとしま」では、利用者さんの障害に合わせて、いろいろなレベルの作業を行っています。防虫剤や入浴剤として使用できる能登ヒバチップ製造をはじめ、古本の汚れを1ページずつチェックする検品作業、フルーツ大福づくりなどにも関わらせていただいています。施設外での作業もあり、近所のシェアハウスの清掃では居住者から直接感謝の言葉をかけてもらえるので、利用者のモチベーションも上がるんですよ。

病院でのリハビリは、腕を上げられるようにする、股関節の可動域を広げるなど具体的な動作の訓練を行いますが、ここでは働くために必要な動作を日々の作業に落とし込んで訓練するので、生活に直結しているところが大きな違いです。皆さん本気で働いて稼いでいますし、レベルアップした人は就職移行支援に移り、一般就職していきます。彼らの就職率は右肩上がりです。

私は、JICA海外協力隊への参加を通して、「自分はもっとできる、できるようになった自分を見てみたい、自分の可能性を知りたい」という気持ちが生まれ、それは今に繋がっていると思います。

以前、難民支援団体に勤務した経験があり、日本の在住外国人を助けたいという気持ちもあります。今は事業所の運営に集中していますが、外国人向けの事業所設立や「リハスモデル」の海外展開などのアイデアを、当社代表にも提案しています。当社は、こういった社員のアイデアを積極的に応援してくれるので、もっと頑張っていきたいですね。

※このインタビューは2022年6月に行われたものです。

注1:「リハス」は、「再び」「何度も」という意味の「Re」と、仏教で「清らかな心」「神聖」という花言葉を持つ蓮「has」を掛け合わせた言葉。清らかな心でサービスを提供し、利用者が再び幸せになれるよう、金沢QOLの理念が込められている。
注2:就労継続支援B型とは、障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難な場合に、“雇用契約を結ばずに”生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所及びサービスのこと。

「リハスワークとしま」でセンター長を務める高木恒介さん

PROFILE

金沢QOL支援センター株式会社
設立:2012年
所在地:石川県金沢市広岡3丁目3-77 JR金沢駅西第一NKビル 6階
事業概要:訪問看護・リハビリステーション事業、障がい者就労支援事業、福祉施設と企業の業務マッチング事業
協力隊経験者:2人(2022年6月現在)
団体HP:https://k-qol.com/
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