会宝産業株式会社三現主義を体現する協力隊こそ
グローバル人材

  • グローバル人材の育成・確保

解体屋からリサイクル業、そして静脈産業の確立と循環型社会の創造を目指す企業へ―。1969年に創業して以来、世界約80カ国に自動車の中古部品を輸出するまでに成長した会宝産業株式会社。石川県金沢市にある同社は、2003年に自動車リサイクルの仕組みや標準化モデルづくり、業界全体の社会的地位の向上などを目的にNPO法人を立ち上げるとともに、2007年には本社に隣接する場所に研修施設をつくり、国内外の自動車リサイクル技能者の育成にも取り組んでいる。
また同社は、JICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)や普及・実証事業に採択されるなど積極的に海外展開を進める中で、2014年9月に民間連携ボランティア制度を活用して社員をガーナに派遣。「協力隊経験はまさに当社が掲げる三現主義を体現できる機会」と話す代表取締役会長の近藤典彦さんに、その経緯や背景、同社が考えるグローバル人材像などについて話を聞きました。

新しいものが好まれた高度経済成長期

私は金沢市内の高校を卒業してから味噌と麹をつくっていた家業を手伝っていたのですが、仕事用にと父親から買ってもらったばかりの軽自動車で友人とドライブに出かけ事故にあい、車を壊してしまいました。明らかに私に非があったのですが、「二度と家の敷居を跨ぐな」という父親の怒鳴り声に、「こんなところ出ていってやる」と実家を飛び出しました。その後、身を寄せたのが東京の江戸川区で中古車販売業を営む遠い親戚の家で、物置部屋に居候しながら働きました。その江戸川の親父というのがとても仕事に厳しい人で、深夜であれ、早朝であれ、客が来ると叩き起こされることも日常茶飯事だったのですが、そこで社会人としての基礎や自動車の解体技術を学ぶことができました。

丸3年ほど経ったころ父親が倒れたという知らせが入り、金沢に戻って1969年に立ち上げたのが当社の前身となる有限会社近藤自動車商会です。自動車の解体と中古部品の販売を始めた当時は、国内でも中古部品に対する需要は多かったのですが、本格的な高度経済成長期を迎えると、新しいものに人々の関心が移り、自動車メーカーや関連部品メーカーに比べ「解体屋」と呼ばれていたわれわれに対する社会的な関心や需要は、相対的に低くなっていきました。その反面、日本の中古車がどんどん海外へと輸出されるようになるにつれ、輸出先の国を中心に品質や状態が良い日本の中古部品に対する需要も高まっていったのです。

1991年に当社は大きな転機を迎えることになりました。どこで調べてきたのか、大阪にある繊維商社のインド人が訪ねてきました。海外から中古部品のバイヤーを連れてくるから売ってほしいという申し出に、半信半疑で了解したところ、後日そのインド人が連れてきたクウェート人バイヤーがスクラップの山の中から、20トンもの中古部品をコンテナいっぱいに詰め込み買っていったのです。中古部品の単価は日本国内の方が2倍ほど高かったのですが、海外から来るバイヤーは買う量が違うし、日本では需要がないような部品でも売れました。海外へ中古部品を輸出するという大きな可能性を追求していくために、翌年、1992年に会宝産業株式会社と社名を変更しました。そこから海外との取り引きを少しずつ広げてきた結果、現在では約80カ国に自動車の中古部品を輸出するまでになっています。

代表取締役 会長
近藤 典彦さん

解体屋から静脈産業へ

「世界に名だたる日本の動脈産業に負けない静脈産業をつくり、循環型社会を創造する」

自動車業界における動脈産業とは、自動車メーカーを中心としたモノをつくりだす産業のことで、それに対して静脈産業とは、使われなくなった車を回収して再利用や再資源化したり、適正に処分したりする産業のことです。私は、日本の中古部品を必要としてくれる国々との取り引きの中で、静脈産業の重要性を強く認識するようになりました。人間の体同様、動脈と静脈があってはじめて健全な状態を保つことができるのです。そう考えれば、自分たちの仕事や社会的な役割にもっと誇りが持てるはず―。

そうした思いから、2003年に全国の自動車リサイクル業者と立ち上げたのが特定非営利活動法人RUMアライアンス(Reuse Motorization Alliance:全国自動車リサイクル事業者連盟)でした。RUMでは、自動車の解体技術や中古部品の品質規格といったリサイクル事業の標準化モデルをつくり、日本だけでなく世界に普及していくことで業界全体の社会的地位の向上を図ろうと、さまざまな活動を行っています。2007年にはその一環として、自動車リサイクル技術を学ぶ研修施設「国際リサイクル教育センター(IREC)」を開設しました。

2007年に完成したIRECは宿泊しながら自動車リサイクルを学べる研修施設

JICAとの連携の中で実現した社員の協力隊参加

IRECでは、国内の自動車リサイクル業者のほか、海外の取引先からも研修生を受け入れて技術を教えていたのですが、われわれのそうした活動が少しずつ知られるようになったころ、JICA北陸から話があり、私自身が海外で講演する機会をいただいたり、JICAの技術研修員を受け入れたりするようになったのです。

2010年2月には、ブラジル、アルゼンチン、コロンビア、メキシコの行政官や自動車関連エンジニアなど14名に対して20日間、静脈産業である自動車リサイクルの重要性やその技術、日本の現状などについて伝えることができました。参加したJICAの技術研修員はリサイクル事業に対する関心が高く、その意義を強く感じている方々ばかりでした。とても民間企業や団体だけでは、その国のリサイクル政策や行政にかかわる人を集めてくることなどできません。このときにJICA事業と連携していくことに大きな可能性を感じました。

その後、2012年1月から2014年12月まで、JICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)を活用して、アフリカのナイジェリアで自動車リサイクル事業の可能性を調査したほか、普及・実証事業にも採択され、2015年3月からブラジルで現地大学と連携しながら、環境配慮型の自動車リサイクルビジネスを進めているところです。

ちょうどBOPビジネスの案件に取り組み始めたころ、JICA北陸から民間連携ボランティア制度が新しくできるという話を伺いました。もちろん、現地のコミュニティに根差した活動をしている青年海外協力隊のことは知っていたのですが、あくまで個人を対象とした制度という理解でした。ところが新しくできたこの民間連携ボランティア制度は、企業側のニーズに沿って派遣国や職種、派遣期間を相談しながら決めていけること、企業側が参加する社員を選考し推薦できること、派遣中は人件費補てん制度もあることなど、実に魅力的なものでした。

この民間連携ボランティア制度を活用して社員を協力隊に参加させたいと考え始めたころ、来春、大学を卒業するという学生から会宝産業に就職したいと電話がかかってきました。彼女の名前は山口未夏(やまぐち・みか)さん。聞けば、当社が海外で取り組んでいるリサイクル事業に関心があるとのことで、将来はアフリカに行き、少しでも現地の人たちの役に立ちたいという強い思いを持っていました。面接で協力隊へ参加する意思を確認したところ、是非チャレンジしたいという返事が返ってきました。自動車リサイクルにかかわりたいのであれば、現場の仕事ができなければなりません。彼女には、1年間は日本で現場の作業を覚えてもらうことを伝えたのですが、嫌がるどころか目を輝かせていました。

2013年4月に入社してから約束どおり現場で経験を積んでもらい、2014年9月に晴れて協力隊となった山口さんは、現在、「コミュニティ開発」の隊員としてガーナ食糧農業省の地方事務所に配属されています。そこで彼女は、過剰生産のために廃棄処分せざるを得なかった地元の農産物を使いジュースやジャムパンなどの加工品をつくって販売することで、現地の女性たちに現金収入の道を開こうと奮闘しています。日本とはまったく異なる環境のなかで、さまざまな苦労を乗り越え、少しずつ前に進んでいる彼女の成長ぶりが伝わってくるレポートを、毎回、楽しみに読んでいるところです。

自動車の不法投棄が深刻な問題となっているナイジェリアから来日し、リサイクル技術を学ぶ研修生たち

お揃いのシャツを着てジャムパンの製造・販売に取り組む村の女性たちと山口さん(写真左から2番目)

私が考えるグローバル人材

山口さんが協力隊に参加するにあたり、派遣国や職種は彼女の意思を最大限尊重して決めました。彼女がガーナで取り組んでいるジュースやジャムパンづくりは、もしかしたら直接的には当社のリサイクル事業と関係ないと思われるかもしれません。しかし、現地の人々に寄り添い活動するという協力隊のスタンスそのものに、私は価値があると思うのです。

グローバル人材とは世界を直接、肌で感じてきた人のことだと考えています。もちろん、グローバルというものを理論的に学んだり解釈を加えたりということも、学問的にはとても重要なことですが、実社会やビジネスの世界では、また違ったアプローチでグローバル人材というものをとらえていく必要があると感じています。

私が会社経営や人材育成で最も大切にしていることの一つに、三現主義というものがあります。これは「現場」で「現物」に触れ、しっかりと確認することで「現実」を把握することの重要性を表した言葉で、世界のホンダをつくった本田宗一郎が提唱したものです。この言葉はものづくりにだけ当てはまるものではありません。三現主義は人づくりにも通じるのです。

「その国(現場)でその国の人たち(現物)と直接かかわることではじめて、世界(現実)を知ることができる」

これこそが私の考えるグローバル人材であり、それを見事に体現しているのが青年海外協力隊ではないでしょうか。

当社のフィールドは世界中に広がっています。また、静脈産業としての自動車リサイクルを広め、地球規模で循環型社会を創造していきたいという夢もあります。その夢に向かい一緒になって進んでいく人材を育成する貴重な機会である民間連携ボランティア制度を活用し、来年もう一人、協力隊に参加させてもらいたいと今、密かに計画しているところです。

PROFILE

会宝産業株式会社
設立:1969年
従業員:84名(2015年12月15日現在)
本社事務所:石川県金沢市東蚊爪町1丁目25番地
事業内容:自動車リサイクル事業(国内、海外)、中古車・使用済自動車の買取、中古自動車部品・中古車の販売、輸出、自動車リサイクル技術者の教育・研修、農業
HP:http://kaihosangyo.jp/index.html
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