大阪府河内長野市教育委員会JICAボランティアは
豊かな人間性を身につける機会

  • グローバル人材の育成・確保

今の教員に不可欠な「体験知」

家庭や地域社会などで、知らず知らず人間性を育む「無意図的教育」の作用が発揮され、学校教育の「意図的教育」とともに子どもの人間形成を支えてきました。ところが近年は、社会の変化により家庭や地域社会で教育的作用の働きが少ないため、学校がその役目までも補わなければならなくなっています。すると、勉強をわかりやすく教えることだけではなく、日本社会や地域の伝統・文化、コミュニケーション能力など、様々なことを教えなければならなくなりました。そして教員は、子どもの心に寄り添える豊かな人間性や、保護者や地域の人々と信頼関係が築ける豊かな社会性などを身につけ、それによって子どもの人間性を育くんでいかなければならないのです。
 しかし、豊かな人間性や社会性というのは、簡単に身につくものではありません。島崎藤村の言葉に、「人の世には三智がある。学んで得る智、人と交わって得る智、自らの体験によって得る智がそれである」というものがあります。この最後の「体験知」があって初めて、豊かな人間性や社会性が養われるのではないでしょうか。多くの教員は、大学を卒業してすぐに着任しますが、そのまま教員として働き続けるだけでは、なかなか「体験知」が広がっていきません。

学校教育課 課長
松本 芳孝さん

困難を克服する体験

当市にはJICAボランティアに現職参加した経験を持つ教員がいますが、JICAボランティアへの参加は「体験知」が広がるという点で教員にとって非常に意義の高いことだと思います。平成22(2010)年JICAボランティアの活動は多くの場合、与えられたルーティンワークをこなすのではなく、困難を克服しながら課題解決に取り組むものだとうかがっています。そうした経験こそ、さまざまな「体験知」をもたらしてくれるものだからです。
 たとえば、平成22(2010)年にJICAボランティアに現職参加した当市の中学校教諭は、情操教育がおろそかになっている国に派遣されて、体育の授業の活性化に取り組みました。自分自身が体育の授業を受けたことがない現地の先生たちに、体育が子どもの感性を育てる重要なものであることを伝えたいけれども、言葉の壁にぶつかってなかなかうまくいかない。彼女はそういう体験をしたことで、「早く一人前になりたい」ともがく生徒たちの心に寄り添えるようになったといいます。この成長は、今後、彼女が教員として子どもの人間性を育てるうえで大きな影響があるはずです。

「学べることの喜び」を伝えてほしい

JICAボランティアの経験を持つ教員には、ほかにもさまざまなことが期待できます。たとえば、道徳の時間や学活の時間を利用して、子どもたちの人間性の育成につながるようなさまざまな話ができると思います。たとえば、JICAボランティアが派遣される国は、貧困によって教育を満足に受けられない子どもがいる国も少なくないでしょうから、そういう国の事情を話すことで、子どもたちに「学べることの喜び」を感じさせてほしい。学校に通えることが当たり前になっている日本社会では、子どもたちがどん欲に学ぶ姿勢をどうしても持ちづらいのです。子どもたちの「ボランティア精神」や「公徳心」といったものを育てることができるのは、自らボランティア活動に取り組んだ教員。JICAボランティアの経験者にはその役を担ってほしいと思います。
 JICAボランティア経験者が派遣国に持つ人脈を活用させてもらえれば、インターネットなどを利用した海外の子どもたちとの国際交流の幅が広がります。当市では、10年前から国際理解教育の一環として、当市の小学校の子どもたちと海外の小学校の子どもたちにインターネットのテレビ会議で交流させるプログラムを行っています。相手校をJICAにコーディネイトしていただくことも多く、JICAボランティアとして派遣中だった当市の教員の配属先が相手校になったこともあります。途上国との国際交流は、子どもたちに「日本がいかに恵まれているか」といった気づきを与える貴重な場になっていますので、今後も推進していきたいと考えています。
 一人の教員がJICAボランティアに現職参加し、2年間にわたって現場を離れることは、学校にとっての負担も小さくありません。しかし、派遣国での経験が教員にとって、ほかでは得られない貴重な成長の機会であることは確かです。当市で今後とも、JICAボランティアに現職参加した教員、あるいはJICAボランティアに参加した後に採用された教員が増え、その経験を仕事のなかで生かしてもらえることを期待しています。

PROFILE

大阪府河内長野市教育委員会
所在地:大阪府河内長野市原町1丁目1番1号
協力隊現職教員特別参加制度経験者数(大阪府教育委員会):27名(2013年2月末現在)

HP:http://www.city.kawachinagano.lg.jp/shisei/kyoikuiinkai/index.html
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