加山興業株式会社廃棄物処理で海外進出を遂げた伝統企業
柔軟性とストレス耐性を持った人を求めて

  • グローバル人材の育成・確保

気候変動、資源の枯渇、海洋プラスチック問題……今、人類は限りある地球環境の中で存続していけるかどうかの岐路に立たされている。一方で、人はゴミを出さずには一日たりとも生活することは出来ない。ゴミを適切に分別して処理し、環境負荷を減らしながら資源に戻す―そんな廃棄物処理を中心とする静脈産業に光が当たっている。愛知県豊川市に本社とリサイクルプラントを擁する加山興業株式会社は、廃棄物処理業界では中堅規模の企業だが、環境保全と再資源化ではトップクラスを誇る。現在、回収した廃棄物の約80%を燃料や金属素材、土木・建設資材などに変えている。さらなるイノベーションを試み続け、リサイクル率100%を目指している同社は、2016年にはラオスにも進出し、廃棄物処理の分野で地球環境保全に貢献している。JICA海外協力隊経験者の採用を推進する同社の経営企画室室長・田畠真一さんに話を伺った。

廃棄物処理に携わって60年以上
「一番良いところ」だけを開発途上国へ

地球は1つしかないのに、多くの資源を使って燃やしてしまっているのが世界の現状です。私たちの子どもや孫の世代にも豊かな環境と資源を残すためには、廃棄物処理すなわちゴミ問題の適切な解決が喫緊の課題であり、当社はそのど真ん中にいる企業です。60年以上前に当社が創業した当時、産業廃棄物の処理は埋め立てが中心でした。時代の流れとともに循環型社会の必要性が叫ばれるようになり、現在までに様々な廃棄物に対応した技術と設備を少しずつ取り入れ、リサイクル率100%を目指しています。

廃棄物処理法が施行されたのは1971年です。当社の創業は1952年ですから、法律ができる20年近く前から廃棄物処理に携わってきたことになります。当然、様々な挑戦と改善の歴史があり、失敗経験もありました。こうして培ったノウハウの一番いいところだけを開発途上国に移転し、地球の環境保護に貢献したい―そんな想いで当社の社長が海外進出を志したのは、2010年のことです。その後、2015年にラオスでの廃棄物処理の課題に取り組むこととなり、2016年にはJICAの中小企業海外展開支援事業(注1)に採択され、ラオスのビエンチャン市における医療系廃棄物を中心とした廃棄物処理事業の可能性を調査。2018年には調査に続くパイロット事業として再び採択され、焼却炉をラオス政府に供与し、医療系廃棄物の適切処理の効果を検証しました。この事業は現在も継続中です。

経営企画室室長の田畠真一さん経営企画室室長の田畠真一さん

哲学に基づいた行動力と
時代が求める柔軟性

住民税や企業負担によってゴミを収集・分別してリサイクルしている先進国とは違い、開発途上国にはゴミにお金を出すという発想も余裕もありません。環境負荷の低い廃棄物処理を実現するには、日本のような先進国によるODAが必要です。援助と言っても機械設備を投入すれば済む話ではありません。医療系廃棄物を扱う場合、まずは病院からの排出段階からきちんとした分別をして保管する習慣をつけてもらいます。一般ゴミとは分けて搬送、焼却し、その残渣もドラム缶に入れて埋め立てなければなりません。廃棄物処理を継続的かつ適切に運営するためには、設備だけでなく優秀な人材が不可欠なのです。

当社では、社長が海外進出を志してからラオスで現地法人を設立するまで、およそ10年の歳月がかかりました。こうした事業を続けていくには、時間だけでなくマンパワーも必要です。今後、新たな国に事業進出をして貢献するためにも、JICA海外協力隊経験者をぜひ採用したいと考えています。協力隊経験者は、自分でモチベーションを上げられる人が多いと感じています。自分なりの哲学に基づいた行動力を持っている人とも言えるでしょう。そうでなければ、開発途上国に2年間も滞在して活動をするという決断と行動は出来ないと思います。

協力隊経験者である髙橋震峰さんは、JICAが運営する国際キャリア総合情報サイト「PARTNER」を介し、2020年末に採用しました。パプアニューギニアでゴミ分別などの環境教育を行ったという、協力隊の活動実績だけが採用理由ではありません。むしろ、実際に面談した際に彼の個性の強さと柔軟性を感じたのです。

私たち経営企画室の役割は、廃棄物処理事業における現場と営業以外、つまり社の業務ほぼすべてを担うことです。事業計画の策定、各種許可の更新、サステナビリティ報告書や自社のロードマップなどの作成のほか、地域社会と融和して人材を確保するための広報活動も重要です。近年は、SDGsを各企業の実態に合わせて実装するためのコンサルティングサービスも行っています。

このような多様な業務は、時代に合わせてその都度内容を変えていかなければなりません。例えば、私たちは本社とリサイクルプラントの所在地である愛知県豊川市内の小学校への廃棄物処理に関しての出張授業を行っているのですが、その際に配布する資料冊子は子どもたちだけでなく、親御さんの心にも響くような内容にしたいと考えています。時代背景が変われば、それを深掘りして、内容も見せ方も作り直す必要があります。柔軟性は必須なのです。

協力隊は日本の常識がまったく通じない環境で活動しなければなりません。柔軟性を養うには絶好の経験であり、髙橋さんもきちんと身に着けてきたと感じています。今、髙橋さんには様々な業務を同時並行で担ってもらっています。彼のいいところは、どんな業務も「やります」と気持ち良く引き受け、しかも自分なりに優先順位をつけて実行出来ることです。ですから、新しい仕事が彼のところにどんどん集まっていくのです。若いうちにたくさんの経験を積んでほしいですね。そして、近い将来に海外事業にも関わってもらいたいと考えています。海外事業では多種多様なストレスが生じます。ストレスを感じること自体は悪いことではないのですが、自分なりに克服する方法を知っていなければなりません。高橋さんはそのようなストレス耐性をも備えた人材ですから、大いに期待しています。

JICAボランティア経験者から

経営企画室 髙橋震峰さん
(パプアニューギニア/環境教育/2017年度派遣)

すべてを柔軟に受け入れられた2年間
社会人経験の無さが学びを増やす

大学1年生の時、カンボジアでのスタディーツアーでもの乞いの子どもたちを見かけ、大きなショックを受けました。これが国際協力の仕事に興味を持ったきっかけです。大学院に進んで開発経済を学ぶ道も考えましたが、まずは現場で活動することが大事だと思い、JICA海外協力隊に応募しました。

社会人経験がなく、数ヶ月間の研修を受けた以外は何のスキルもない状態でパプアニューギニアに行ったことは、私にとっては良かったと思います。なぜならば、経験が邪魔することなく、すべてを柔軟に受け入れることが出来たからです。多少の知識はあっても実務経験がない私は、何をするのも右往左往していました。それを見た現地の人たちが心配してくれ、自然とお互いの距離が縮まったんです。現地のことは現地の人のほうが良く分かっているのが当然ですから、私も変に強がったり、自分だけで解決しようとしたりせず、相手に頼るようにしました。大げさに言えば自分の弱みを相手に見せるわけですが、そうすることによって教える・教えられるといった上下の関係ではなく、現地の人と気持ちのうえで常にフラットな関係を保つことが出来るようになりました。

私は環境教育隊員として現地の市役所に配属され、ゴミ分別の啓発活動を行いました。しかし、分別の意識が日常的にない中で理解を広げるのは難しく、随分空回りしました。多くの人に関心を持ってもらう方法として、現地の同僚とマーケットに赴き、ゴミ分別の啓発を漫才形式で披露したのですが、これが大失敗。現地の人にはまったくウケません。業を煮やした同僚が「この国ではこうやるんだ」と演説形式に切り替え、なんとか窮地を脱しました。その後、外国人の私は現地語で歌を歌うなどして“つかみ”を担当。少しずつ同僚との息も合い始め、回を重ねるごとに聴衆が集まるようになりました。

良かれと思ってすることが、他人に不愉快な思いをさせてしまったり、時には不幸にさせてしまうこともあります。ゴミを分別して、缶のリサイクルに取り組もうとした時のことです。現場に行って調べてみると、ゴミ収集員が缶を独自に選り分けて売っていることが分かりました。そのお金は彼らの貴重な収入源でもあったのです。もし、私が調べもせず強引にリサイクルを始めたら、ゴミ収集員の収入を奪うことになっていたでしょう。社会やビジネスの構造は、国、地域によって異なります。それを踏まえた上での活動をすることが重要と学びました。

パプアニューギニアで環境教育隊員として活動した髙橋さんパプアニューギニアで環境教育隊員として活動した髙橋さん

ゴミは命に関わる問題
廃棄物処理の課題解決を目指して

開発途上国のゴミ処理は、廃棄物を分別せずに埋め立てるオープンダンピングという手法を用いているため、現金化できるものを拾って生計を立てる人たちが多くいます。そのため、危険な廃棄物に触れて怪我をしたり、病気になったりする人が後を絶ちません。ゴミ問題は命に関わる問題なのです。そんな現状を目の当たりにして、開発途上国の廃棄物処理問題の解決に携わりたいと考えるようになりました。帰国後の就職に際して、自身の目標を実現する仕事を探していた時に見つけたのが当社です。ウェブから履歴書を送ったところ、わずか2時間後にはたまたま東京出張中だった田畠室長から連絡をもらい、面談をしてもらいました。そして、事業概要を聞けば聞くほど、私が携わりたい環境教育も含めていろいろなことが自主的に出来る職場だと感じ、入社を決意しました。

小学校への出前授業にはじまり、当社における脱炭素等の取り組みを評価してもらうための自治体表彰の申請書類作成、JICA研修生の視察受け入れ準備、SDGsの実装支援サービスなど、入社後はさまざまな業務に関わらせていただいています。業務の中で大いに役立っていると感じるのは、協力隊で身に着けた多角的なものの見方です。いずれ海外事業に携わることになっても、自分自身や自国の常識に捉われず、第三者的な視点で物事を見ながら業務に励むことが出来ると思います。

※このインタビューは、2022年8月に行われたものです。

注1:民間企業が有する優れた技術や製品、アイディアを用いて、開発途上国が抱える課題の解決と企業の海外展開、ひいては日本経済の活性化も兼ねて実現することを目指す事業。企業の企画提案をJICAが採択し、双方間で業務委託契約を締結し実施する。現在は「中小企業・SDGsビジネス支援事業」と改称され、①ニーズ確認調査、②ビジネス化実証事業、③普及・実証・ビジネス化事業のメニューがある。

経営企画室にて務める髙橋震峰さん経営企画室にて務める髙橋震峰さん

PROFILE

加山興業株式会社
設立:1961年
所在地:愛知県豊川市南千両2丁目67
事業概要:産業廃棄物収集運搬業、産業廃棄物処分業、特別管理産業廃棄物収集運搬業、特別管理産業廃棄物処分業、一般廃棄物収集運搬業・処分業、解体業、自然エネルギー事業、環境機器用品販売事業、養蜂事業(ハチミツ販売)、環境啓発事業、SDGs実装支援・普及啓発事業
協力隊経験者:1人(2022年8月現在)
HP:https://www.kayama-k.co.jp/
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