株式会社新興出版社啓林館青年海外協力隊をとおして
自社の技術を途上国の方々に

  • 開発途上国へのビジネス展開
  • 研究・教育プログラムの強化

研修事業への協力

当社は「啓林館」「新興出版社」「文研出版」という3つの出版ブランドを設け、それぞれのもとで教科書、参考書、児童書の出版を行っています。1946年の創業以来、一貫して理数系科目を専門としており、現在は小学校の算数と理科、生活科の教科書を広くご採択いただき、中学校の数学と理科の教科書がいずれもトップシェアを占めるなど、高いご評価をいただけるまでになっています。また、今年からは当社の多目的ルームを子どもたちの学習スペースに開放したり、ICTルームを学校教員の会合や研修に使っていただいたりと、「地域への還元・貢献」や「教育活動への支援」を目的とした社会貢献活動にも力を入れ始めています。

 当社の教科書をお書きいただいている大学の先生のなかには、JICA事業に専門家などとして参画されている方もいらっしゃいます。そうした縁から、近年、当社が持つカリキュラム分析や教科書づくりの技術を通じてJICA事業にご協力させていただく機会が増えてきました。

 その最初のケースは、2008~2009年に実施されたJICAのプロジェクト研究「生徒中心の授業の実践と系統性に配慮した理数科教材作成」です。これは、ケニアの初等教育における理科のカリキュラムや教科書の分析を行い、教員研修用教材や生徒用教材を立案する研究でしたが、当社はコンサルタントとして関わらせていただきました。以後、技術協力プロジェクトの一環で途上国の教育行政担当者や教員の方々が日本で研修を受ける際に、カリキュラム分析や教科書づくりのノウハウについてご説明する機会をたびたびいただいてきました。

 こうした役目をお引き受けさせていただいているのは、「途上国の人材育成を支援する」というJICAの使命に賛同しているからにほかなりません。しかし一方で、私どもも受講者の方々との話を通じて、各国の教育事情などを知り、それによって教科書や教材の制作について学ばせていただくことも少なくありません。たとえば、教科書や教材が「教科横断的」であることは、子どもの理解にとって大切なことですが、各教科の役割が確立されている日本では、これがおろそかになりがちです。ところが、JICAの研修の受講者に見せていただいたその国の算数の教科書のなかには、理科や家庭科の要素が濃く入り込んでいる例もあります。そうして、日本の教科書や教材にある課題に気づくこともありました。JICAの研修へのご協力は、途上国の理数科教育関係者の方々といわば相互に高め合う場ともなっているのです。

代表取締役社長
佐藤 徹哉さん

日本の算数教育を世界に

研修事業でのご協力のほかに、今年は小学校算数の教科書の英訳本を青年海外協力隊の2カ所の訓練所と約50カ所の在外事務所に寄贈させていただきました。理数科教育分野の活動に取り組む青年海外協力隊員の方々にご活用いただきたいと願っての取り組みです。今年2月に英訳本が完成した際、販売するだけでなく、これを国際協力のなかでも役立てていただこうということになったのですが、各国の教育の「現場」に入って活動される青年海外協力隊の方々こそ、有意義にご活用いただけるだろうと考えたわけです。英訳に携わった先生方にも、「途上国の方々に日本の算数教育をよく知っていただくいいきっかけになる」との後押しをいただき、無償での寄贈が実現しました。

 算数という教科は、いくつもある教科のなかでも特に「系統性」が重要な教科ではないかと思います。たとえば、算数には「数と計算」や「図形」といった「領域」がありますが、それぞれ単純な事柄から複雑な事柄へと一つ一つステップを踏みながら進まなければ理解が定着しない。さらに、各領域の間にも密接な関連がありますから、すべての領域を並行して学んでいく必要もある。他の先進国と比べると、日本はこうした「系統性」を踏まえた算数教育がより徹底されており、当然、教科書にもそれが反映されています。これは日本が持ついわば一つの文化であり、理数科を専門としている当社としては、この文化を他国に広めていきたいという思いがあります。そこから出発したのが、英訳本を出版する事業でした。

 以上のような背景がありますので、青年海外協力隊の方々には、当社の英訳本を参照しながら、「系統性」を大切にする日本の算数教育のすばらしさを改めて確認し、それを派遣国の先生や子どもたちに伝えていただければうれしい限りです。

 当社の黎明期というのは、教科書の発行者が国から民間へと移行した時期です。そういう時代にあって、平日は学校で授業を持つ先生方が毎週末、当社に集まり、「いい教科書をつくりたい」との思いで、朝から晩まで寝食忘れて執筆に取り組んでくださいました。当社のノウハウは、そうした先生方の情熱を土台とさせていただきながら築いていったものです。私どものこの貴重な財産を活用して広く世界に向けた社会貢献ができるというのは、非常にうれしいことです。一民間企業にできることには限りがあるとは思いますが、今後もJICAの力をお借りしながら、さまざまな形で当社のノウハウをそれを必要とする方々へと届けていきたいと考えています。

寄贈した英訳教科書『わくわく算数』

PROFILE

株式会社新興出版社啓林館
設立:1946年(1949年に法人設立)
本社所在地:大阪市天王寺区大道4-3-25
事業内容:教科書、自習書、児童書などの発行
社員数:約250名(2013年7月現在)

HP:http://www.shinko-keirin.co.jp/
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