喜多機械産業株式會社気持ちを共有することが出来る社員とともに
徳島の自然を守り、
徳島を盛り上げていきたい

  • グローバル人材の育成・確保

この土地で暮らしながら世界中の発展に貢献し、その成果を地元にも還元したい。そんなグローカルな志を持つ人は、JICA海外協力隊の経験者に少なくない。徳島県の喜多機械産業株式会社は、建設機械のレンタル事業を中心に、100社を超える仕入れ先企業のネットワークを活かして幅広い分野に進出している企業。社長自らが先頭に立ち、「お客さんが喜ぶこと、徳島のためになることは何でもやる」という意気込みで走り続けている。地元を盛り上げるグローカル人材としての協力隊経験者について、代表取締役社長の喜多真一さんに話を伺った。

まず地域の自然があり、次に社会がある
企業活動はその土台の上で出来ること

「持続可能な開発目標(SDGs)」は写真に教えてもらいました。建設機械や土木資材のレンタル・販売事業を長年行っている弊社は、太陽光発電パネルの設置やメンテナンス、水処理システム、ユニットハウスの製造販売も手掛けています。これまで社員が安心して健康に働き続けられるよう職場環境づくりにも注力してきました。そういった点でSDGsの17の開発目標に当てはまる活動が多く、2017年頃から意識的に取り組むようになりました。

弊社は、私の曽祖父が大正15年に創業した会社です。私たちのような中小企業は、地域の自然環境を大前提として営業が出来ている、そんな実感があります。まず地域の自然があり、次に人と人が助け合う社会があり、その土台の上に企業活動があるのです。ほとんどの日本企業は同じような意識を潜在的に持っているのではないでしょうか。だからこそ現代を生き残れているのであり、SDGsはそれをより明確にするきっかけになると感じています。

県内には河川がたくさんあり、かつて小規模の水力発電を行っていた跡地を見つけることができます。現在は水利権の関係で国内での小水力発電は普及しにくい状況ですが、SDGsの流れで小水力発電が国内でも可能になるかもしれません。

10年以上前、弊社は徳島県の事業で小水力発電の実証実験を行いました。小さな水路を使った手作りの発電機と太陽光で発電した電気をエコハウスと称した仮設ハウスの電源として活用し、余った電気は電気自動車と電気自転車に蓄電するという試みでした。大型バスで地域の子どもたちにも見学してもらいました。当時としては先端的な試みだったと思っています。

そうした経験もあり、2013年にはJICAの中小企業海外展開新事業(注1)に採択され、フィリピンにおける「未電化地域開発普及・実証事業」に取り組みました。現地では、観光名所である滝を使った水力発電および飲料用水処理のシステムを3年がかりで整備。渡航の度に、期待もあり笑顔で出迎えてくれる現地の方々を目の当たりにして「絶対に喜ばせる!絶対に成功させる!」そう強く思いプロジェクトを遂行しました。電気が灯り、飲料水が出来た時の、あの笑顔は今でも鮮明に覚えています。「人を喜ばせるために全力を尽くす。これが仕事だ」そう感じました。

お客様からは、「機械が壊れて困った時にすぐに直してくれるのは喜多機械さんだけ」と言っていただいております。整備士を70名も抱えているのは、全国の同業他社と比べても珍しいのでは。私たちの技術力が、修理業務を通じて更に信頼を得ているわけですが、社員には「言われたことに応えるだけなく、お客様は何をすれば喜ぶのか常に考えよう」と伝えています。常識に捉われず、自分たちが持っている能力を最大限に発揮することで、地元・徳島の発展に貢献し、笑顔あふれ選ばれ続ける会社でありたいと思っています。

代表取締役社長の喜多真一さん代表取締役社長の喜多真一さん

“当たり前”にとらわれない幅の広い思考
違う方法を考えられる柔軟性

JICA海外協力隊の経験者である上西さんは、実は私の高校時代の先輩でもあります。行動力のある人材を求めていたので、私から猛烈にアプローチをして入社してもらいました。その際に、海外展開への想い、そして海外で経験したことを大好きな地元徳島に還元し、地域と共に成長していきたいという弊社のビジョンを伝え、その想いに共感してくれました。

幅広い事業を行っている弊社では、入社希望の方に「やりたいコトよりも、やりたい理由、やりたい想いを聞かせてください」と話しています。実際、仕事をするとイメージ通りとはいかないものです。社員全員と共有したいのは、故郷を想う気持ちや、自分自身をはじめ、家族や友人といった身近な人を大切にする気持ちです。海外営業の要員として入社した上西さんにも、現在は多種多様な業務に関わってもらっています。

協力隊での経験は国内の事業でも大いに役立ちます。上西さんは良い意味で空気を読みません。突っ走りがちな私にも遠慮せずに意見を言える。上西さんは日本の“当たり前”にとらわれない、幅の広い思考も持っています。「違う方法があるかも」と考えられる柔軟性は、私たちのような会社には必須です。お客様から「こんな商品が欲しい」と言われる前に、潜在ニーズを見つけ出し、お客様を驚かせるような提案をするのがプロでしょう。そのためには引き出しの多さと柔軟性が欠かせません。

上西さんには、経験豊富な営業本部長とともにすべての業務に関わってもらっており、ゆくゆくは弊社の経営にも関わってもらいたいと考えています。ただし、経営陣だからといって偉いわけではありません。スポーツで例えるならポジションが異なり役割が違うだけ。与えられたポジションで、能動的に考え、自発的に発言や行動することを求めています。そのためには自由な雰囲気の会社であることは必須であり、安全であり清潔であれば服装も自由ですし、ピアスやヒゲもOKです。上西さんのような、ベーシックな枠組みから飛び越えた、豊かな個性を持つ社員が活躍できるような職場環境を更に整えて、社会に貢献していきたいと思っています。

JICAボランティア経験者から

営業本部 係長 上西はるかさん
(ケニア/村落開発普及員/2013年度派遣)

モノが見えない数字のやりとりに疑問
誰かを幸せにする仕事を求めて

大学卒業後、徳島県内の地方銀行に就職しました。しかし、モノが見えない数字のやりとりが私にはしっくりこなくて、誰かを幸せにする仕事が出来ているのかどうか、分かりませんでした。学生時代は国際文化を学ぶゼミに所属、語学留学の経験もあったため、会社を辞めて海外生活を決めたのは25歳の時です。JICA海外協力隊は語学留学以上のものが得られるし、訓練や現地での生活面などのバックアップ体制もしっかりしていることから、参加を決めました。

派遣されたのは、東アフリカ・ケニアのナクル市にある、行政機関の農業事務所でした。しかし、行政でありながら予算不足で満足な活動は出来ておらず、私も最初の2~3ヶ月はオフィスで同僚とおしゃべりしたりするだけ。「このままではいけない」と、同じ地域に赴任していた教育分野の隊員と相談し、子ども向けの農業勉強会を開くアイディアを思いつきました。

ケニアの主要産業は農業と観光ですが、都市化が進むナクル市では農業の担い手が減っているという課題があったからです。現地の同僚とともに市内の小学校を訪問した結果、幸いなことに2つの小学校で農業クラブを発足させることに成功。最終的には、学校が所有する休眠地でスクマ(ケールの一種)やタマネギ、キャベツ、ニンジンを栽培し、子どもたちに野菜の販売体験をさせたりすることが出来ました。

このほか、日本の園芸手法のように腐葉土を入れた袋でスクマを育てるといった、低コストで農業を学びつつ家計の助けにもなる方法を提案したほか、口頭で行われていた農業指導をカリキュラム化させるため、農業事務所のインターン学生とともに教材づくりにも取り組みました。

農業クラブが今も続いているかは分かりません。2年間の活動だけで、現地の組織や社会の仕組みを変えるのは無理だと思っています。しかし、押し付けにならないように注意しながら、周囲のありとあらゆる人を巻き込んで必死に活動しました。「あんな日本人もいたな」「一緒に野菜を育てたな」と、誰か一人ぐらいは覚えてくれているはず。協力隊の意義はそこにあるのだと、私は思っています。

ケニアで村落開発普及員として活動した上西さん(前列中央)ケニアで村落開発普及員として活動した上西さん(前列中央)

協力隊で得た考え方
自由な職場環境で活かす

協力隊参加を経て思うのは、変われたのは現地の人ではなく私自身だということ。ちょっとしたことでは動じなくなり、やらない理由を考える暇があれば「どうしたらやれるか」を考えて行動する習慣が身につきました。また、「自身が経験したことはすべて自身のためになる」と思えるようになりました。

徳島から遠く離れて気づいたことがあります。開発途上国だけでなく、日本の地方にも活性化の必要性があることです。まさにグローカルな感覚が求められる今、地元生まれで海外経験のある私だからこそ、役立てることはあるのではないかと考えました。

帰国後、JICA四国の徳島デスク(注2)で勤務している際に弊社を知りました。地元の中小企業が海外事業も手掛けていることは嬉しい驚きで、事業を通じて大好きな地元にダイレクトに関わりながら貢献できると思い、入社を決意しました。

2018年に入社し、しばらくは開発営業部にて弊社の小水力発電や水処理技術を海外の政府などにPRする業務を担当しました。現在、これらの海外事業はストップしていますが、さまざまな業務に関わらせてもらう中で「海外にこだわる必要はない」と感じています。どうやら私は同じことだけを続けていくのが苦手なようで、むしろ型のない働き方が向いているのかもしれません。

弊社の喜多社長は非常に広い視野を持っており、新しい取り組みをどんどん進めています。採用にも積極的で、250名弱の社員のうち60名ほどは20代以下です。活気あふれる会社ですが、思い立ったらすぐ行動に移す社長のスピード感に戸惑う社員もいますので、その間をとりもつ役割が出来ればと思っています。

海外でなくとも新しい出会い、初めての経験は無数にあります。それを吸収するためには、一度はその状況を受け入れることが大切ではないでしょうか。「郷に入れば郷に従え」、文句を言っていても仕方ないので、とりあえずやってみること。協力隊で得た、そんな考え方を広げながら弊社に貢献していきたいと思っています。

※このインタビューは、2022年9月に行われたものです。

注1:民間企業が有する優れた技術や製品、アイディアを用いて、開発途上国が抱える課題の解決と企業の海外展開、ひいては日本経済の活性化も兼ねて実現することを目指す事業。企業の企画提案をJICAが採択し、双方間で業務委託契約を締結し実施する。現在は「中小企業・SDGsビジネス支援事業」と改称され、①ニーズ確認調査、②ビジネス化実証事業、③普及・実証・ビジネス化事業のメニューがある。
注2:地方自治体が実施する国際協力事業の活動拠点に配置される「地域のJICA窓口」のこと。47都道府県にあり、各地名を付けたデスクが呼称となっている。JICAスタッフである国際協力推進員が勤務し、JICA事業に対する支援、広報及び啓発活動の推進、自治体等が行う国際協力事業との連携促進等の業務を行っている。

営業本部係長の上西はるかさん営業本部係長の上西はるかさん

PROFILE

喜多機械産業株式會社
設立:1961年
所在地:徳島県徳島市庄町3-16
事業概要:建設機械・資材、林業・農業機械の販売、レンタル、修理
太陽光発電システムの設置及びメンテナンス
汚水処理プラント・濁水処理システム等、各種プラント構築
建設ソフトウェアの販売
ユニットハウスの製造、販売、レンタル
トレーニングマシンの販売、レンタル
協力隊経験者:1人(2022年9月現在)
HP:https://kitakikai.co.jp/
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