国土防災技術株式会社協力隊経験者を新しい取り組みの原動力に

  • グローバル人材の育成・確保

国土防災技術株式会社は1966年の創業以来、一貫して防災に特化したコンサルティング業務を行ってきた。その分野は、地滑り、河川砂防、森林など多岐にわたる。近年、ソフト面での防災対策に注目が集まる中で、地域防災に関する業務にも取り組み始めている。こうした新しい分野へ業務を拡大していく上で活躍が期待されているのが元青年海外協力隊員たちだ。協力隊経験者を採用した狙い、期待することなどを、国際部コミュニティ防災課長の中村清美(なかむら・きよみ)さんに聞いた。

防災対策はハードとソフトの時代へ

当社が、コミュニティ防災のコンサルティング業務を始めた背景には、2001年に施行された土砂災害防止法があります。これは、1999年に広島市で発生し、30名以上が死亡・行方不明となった土砂災害がきっかけとなって制定された法律です。その中身は、土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害の恐れのある区域について危険の周知、警戒避難体制の整備、住宅等の新規開発の抑制、既存住宅の移転促進などのソフト対策を推進するというものです。

それまでの防災対策がハード面の対策を重視しているのに対し、土砂災害防止法はソフト対策を重視していることが大きな特徴です。それに伴い、ハード対策を目的としたコンサルティングが中心だった当社も、2002年度以降はソフト対策にも取り組み、行政機関からソフト対策のコンサルティング業務を受注することも増えていきました。当社が行うソフト対策のコンサルティング業務の代表的なものに、住民に災害の危険を周知するためのハザードマップ作成や、警戒避難体制の整備などを行政が推進する上で必要となる基礎調査があります。

この基礎調査を進める中で感じたのは、ハザードマップや警戒避難体制などの情報を住民に提供しても、住民がそれを理解していなければ、避難行動に移してもらうのは難しいということです。被災者を減らすためには、行政などから必要な情報が提供すると同時に、住民の意識も向上させる取り組みを行うことが必要ではないかと感じました。そこで、災害時の避難行動を共助の視点で考える防災教育の教材「避難行動訓練EVAG」を開発しました。

EVAGは、ロールプレイとシミュレーションにより避難行動を疑似体験することで、「自助」と「共助」の必要性と重要性を理解してもらうことを狙ったものです。学校やコミュニティで活用してもらうことで、災害が起きたときにどのように行動すればよいのかを理解してもらい、地域防災力の向上につなげていきたいと考えています。行政機関にとっては、災害が起きたときに、住民がどのような事情を抱え、どのような避難行動をとるのかを理解するツールにもなっています。EVAGを開発したことで、当社の技術者がコミュニティに入り込んでワークショップを開くなど、住民の方々と直接やり取りすることも増えていきました。

国際部コミュニティ防災課長の
中村 清美さん

3年後、5年後に貢献できる人材に

協力隊経験者の採用を考えるようになったのは、ちょうどその頃です。当社のスタッフはハード対策を専門とする理工学系の技術者が多く、もともとソフト対策は得意分野ではありません。加えて、方言や生活習慣が異なる地方の住民の方々とコミュニケーションを取ることは、まさに異文化との遭遇であり、柔軟に対応できる人材も今後、必要になってくると考えました。

協力隊経験者の採用を会社に提案したのは、実は私でした。前職が佐賀県の協力隊を育てる会の事務局を兼ねていた国際協力関係の団体だったこともあり、協力隊員にコミュニケーションスキルや柔軟なマインドを持った人材が多くいることは知っていました。また、政府開発援助(ODA)の現場で活躍する開発コンサルティング企業が協力隊経験者を多く採用していることも聞いていましたので、当社が求める人材にもふさわしいのではないかと考えました。また、国内でのソフト対策のみならず、日本の防災対策が海外から注目され、当社としても海外展開を視野に入れるようになっていたということもありました。

最初に協力隊経験者を採用したのは2015年でした。以来、現在まで4人を採用しており、7月にはさらに1人を採用する予定です。この5人が活動していた国は、ベトナム、コスタリカ、ウガンダ、ソロモンとバラバラです。採用に当たっては、どこで活動したかではなく、防災に対して彼らがどのようにアプローチしていけるかが重要だと考えています。ですので、技術的な専門知識を持っているかではなく、社会学や開発学、コミュニティ研究など、どのような教育的バックグラウンドを持っているか、学んできたことを防災にどう生かしていけるのか、そして、本人がそういう意識をしっかりと持っているかを面接で確認しました。

地域の人々に寄り添い、地域社会の中に溶け込んで活動をしてきた協力隊の人たちは、これまでの当社スタッフにはない、高いコミュニケーション能力を持っています。防災は特殊な分野ですので、即戦力として活躍できるとは思っていません。しかし、一方であらゆる分野で防災の主流化が求められています。彼らに期待しているのは、3年後、5年後に会社に貢献してくれることです。これから海外展開をしていこうという会社ですから、先行する他社と同じことをやっていても勝ち残ることはできません。彼らには、まずは一人一人が「これだけは人に負けない」という得意分野と広い視野を持って活躍してもらいたいと思います。

当社は2017年4月に国際部を新設しました。協力隊経験者には、国内で実績を積んで自分の軸となるものをしっかりと身に付けてもらい、将来的にはそれを当社が取り組む新しい防災事業分野で生かしていってほしいと考えています。

JICAボランティア経験者から

国際部 海外協力課 係長 白井大介さん(兵庫県出身)
協力隊は国際協力への第一歩

大学卒業後、一度は就職したのですが、社会学を勉強し直したいと思い、アメリカのワシントンにある大学院に留学しました。ワシントンという土地柄、国際機関で働く人や近郊の大学院で学ぶ日本人と会う機会も多く、開発途上国で国際協力関連のプロジェクトやソーシャルビジネスに携わっていた人と話すこともありました。もともと国際協力に関心はあったのですが、彼らと交流する中で刺激を受け、自分もこの世界で働きたいという思いを強くしました。とはいえ、私には国際協力の実務経験はありません。そこで、経験を積むための一つの手段として参加したのが協力隊でした。

応募に当たって私は、大学院の研究対象が紛争国の行政だったこともあり、行政側から途上国を見てみたいと考えていました。また、距離的にも近いアジアに行きたいと思っていたところ、ベトナムで行政サービスという職種の募集がありました。選考試験を経て派遣されたのは、ベトナムの計画投資省中央経済研究所でした。

しかし、赴任して分かったのは、中央経済研究所は研究機関というよりも海外からの援助受入機関という位置付けだったということです。カウンターパートは協力隊の派遣を日本からの「モノ」や「カネ」といった援助とセットだと思っていたようです。ところが実際はそうではなかったため、私に対する失望は大きいものでした。また、配属先は国の機関ということで機密情報も扱っていることから、外国人である私はカウンターパートである職員とは部屋が違い、コミュニケーションをとるのにも苦労するような環境でした。協力隊は赴任してから6ヵ月目までに活動計画をつくることになっているのですが、なかなか方向性が見えない状況が続いたのです。

こうした中で、いったい自分に何ができるのかを考え、配属先とJICAに提案したのが、JICAがベトナムで実施しているプロジェクトの調査です。私の配属先がJICAの支援を受けて農村調査をしていきたいという意向を持っていたので、実際に動いているプロジェクトの情報を相手国側の視点に立って整理しておけば、将来、調査内容を考えていく際に役立つのではないかかと考えたのです。2年間の任期中、配属先である中央経済研究所が独自に行っていた調査にも参加する機会に恵まれたほか、JICAなどが実施していた9つのプロジェクトを調査し、その成果を報告書として残すことができました。

開発調査を終え配属先の職員や調査関係者と「打ち上げ」の食事会に参加する白井さん(写真前列右から3人目)

JICAの技術協力が行われていたビズップ・ヌイバ国立公園で森林レンジャーの巡回に同行調査する白井さん(写真中央)

今は将来に備え知識を蓄積する時

帰国後、JICAの国際協力キャリア総合情報サイト「PARTNER」で当社のことを知りました。私は就職活動をする中で、求人が多く将来的に海外に行ける可能性も高いことから、漠然とインフラ関連の会社で働きたいと考えていました。当社の業務である防災分野の仕事は非常にマニアックで、工学的な知識のない自分には難しいと思う反面、社会科学の知識を使える部分もあるのではないかと思いました。

現在、私が携わっている仕事は2つあります。1つは、地理情報システム(GIS:Geographic Information Systems)の開発です。GISは、さまざまな手法を用いて地形解析から潜在的に危険な斜面を割り出し、危険度評価などに活用するものです。行政が防災対策を進める上で基本となるデータを提供するためのもので、現在、先輩からノウハウを学びつつ、楽しみながら仕事に取り組んでいます。

もう1つの柱は、2017年6月から動き出した内閣府の「多様な主体の連携促進事業調査業務(連携訓練の調査・実施及びボランティア交流会)」の事務局業務です。自然災害が起きたときに、行政と防災ボランティアを取り持つ中間支援組織をどう整備していくかについて、関係者と共に議論を進めていく予定です。

国際部はこの4月に立ち上がったばかりで、協力隊経験者である私たちが具体的に何をするかはまだ見えていません。しかし、先が見えない状況の中でどうしていくかを考えることは、赴任した先で情報を取集しながら課題を見つけ、計画を考える協力隊の活動とよく似ているように思います。私は技術者ではありませんが、当社が持つ防災に関する知的ストックを理解し吸収していくことで、今後、海外でのソフト対策、コミュニティ防災にどのように応用していけるかを考えることはできるはずです。そのためにも、会社の先輩から多くを学んでいきたいと考えています。

※このインタビューは2017年6月に行われたものです。

PROFILE

国土防災技術株式会社
設立:1966年
所在地:東京都港区虎ノ門3丁目18番5号(本社)
事業内容:建設コンサルタント、地質調査、測量など
協力隊経験者:5人(2017年7月現在)
HP:http://www.jce.co.jp/index.html

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