森永酪農販売株式会社酪農家の良きパートナーでありたい
協力隊経験者の
「聞く力」と「対応力」に期待

  • グローバル人材の育成・確保

森永酪農販売株式会社は、2006年に森永乳業株式会社から飼料販売事業を受け継ぐ形で創業し、全国に29の事業所を展開する飼料販売会社である。酪農を「楽農=楽しい酪農」にするために、飼養管理の面から酪農家たちをサポート。事業の要である営業職にはJICA海外協力隊経験者も多く採用されており、現在は5名が在籍している。協力隊経験者の特性や仕事ぶりについて、代表取締役社長の奥田和綱さんに話を伺った。

酪農家を支える次世代への期待
現場対応力が魅力の協力隊経験者

当社は創業以来、一貫して飼料の販売を行っています。従業員95人のうち、55人が営業担当。北は北海道から南は鹿児島まで、全国各地の支店・営業所で酪農家のお客様の悩みや課題に寄り添い、目標達成のためにさまざまなご提案を行っています。

私たちが一番大事にしていることは乳牛の健康です。国民の皆さんに搾りたての美味しい牛乳をたくさん飲んでいただくためには、健康な乳牛づくりが欠かせません。酪農家の方々がわくわくしながら楽しく牛舎に行けるような「楽農」を目指し、地域に合わせた飼料をご紹介しながら、飼養管理を通してお客様をサポートしています。

昨今はロシアによるウクライナ侵攻などで輸入飼料が高騰し、酪農を営む農家は大変苦しい状況にありますが、主軸の60代が現役で頑張る中、その下の世代でも農業高校や酪農学園大学などで勉強してきた若い酪農家たちが、親の代より規模を拡大したり、学校で勉強してきたことを自分の牧場に持ち帰ったりして、さまざまな挑戦をしています。当社にも、将来実家の牧場を継ぐ予定で入社してきた社員が、30歳になったのを機に神戸の実家の牧場に帰り、就農しました。

当社の営業にはJICA海外協力隊経験者が5人在籍しており、北海道、東北、関東、四国の各現場で頑張ってくれています。私はこれまで、協力隊の帰国報告会に何度か足を運び、多くの帰国隊員の方とお話をしてきました。その中で当社に興味をもってくれた方が連絡をくださったり、協力隊経験者向け求人を見て応募いただいた方もいます。

我々の仕事は、お客様の夢や希望、ご要望に合わせて、さまざまなご提案をしていくことが原則で、それ以外はあまり形がありません。お客様からは、「違う飼料を探してきてほしい」「もっと違うやり方はないか」「他の地域では、どんなふうにやっていて、それをうちが取り入れるためにはどうするのか」など、さまざまなご要望が寄せられます。

協力隊経験者の社員たちは、自分で業務を組み立てたり、計画を立てたりすることに慣れているのか、お客様の夢やご要望に合わせて、あの手この手で施策を講じたり、立案したりして、上手くご提案しているように思います。その対応力が魅力ですね。きっと海外の知らない土地に行って、初めて会う人々と一緒に事業を組み立て、現場を巻き込んで進めてきた経験があるからでしょう。すぐに本質やニーズを理解し、どのように話を通し、どうやって進めていくのがベストかを考えるのが上手です。そして、とても意欲的に取り組んでくれています。

さらに、彼らはお客様の話をよく聞くことができるという印象を受けます。酪農家のお客様は一軒一軒が社長さんなので、こだわりを持って経営されている方が多く、まずはそこを理解しなくてはいけません。お父さんとお母さんで意見が違ったり、お父さんと息子さんで方向性が違ったりすることもあります。協力隊も同じかもしれませんが、現場を見ながら、どうやってバランスをとるか。我々の仕事は日々調整です。

代表取締役社長の奥田和綱さん代表取締役社長の奥田和綱さん

酪農は日本の大事な産業
赴任先でのお付き合いは人生の財産

営業という仕事は、外に出てしまえば個人の力量によるところが大きく、それぞれが予定を組んでお客様を訪問し、用事を承ったり提案をしたりします。当社の雰囲気は少し協力隊に似ているのかもしれませんね。ただ、外から戻ると、同僚たちと「こういう提案をしよう」「ここをもう一回伝えたらどうだろう」など、相談やアドバイスを送り合いながら、和気あいあいと提案を作っていくような作業もいたします。

全国に仲間がいますので、誰かに聞くと「それならこの人が昔やっていたよ」と教えてもらえますし、「この問題ならこの人に助けてもらえるよ」と、土地勘のある先輩がアドバイスしてくれたりもします。しかし、現場ではやはり落ち込むこともあり、提案を受け入れてもらえなかった時や疲れてしまった時は、「そうだ、あの人のところでコーヒーを一杯もらって、もう一回頑張ろう」と思えるお客様を、社員それぞれが何軒か持っているのです。

つまり、赴任先でどれだけそういうお付き合いができるか、人生を豊かにしてくれる人間関係をどれだけ築けるかが、この仕事の醍醐味なのではないでしょうか。人とのつながりは一生の宝であり財産になります。大事にしてほしいと思いますね。

かく言う私も、初任地であった北海道の別海町で、ある酪農家の子どもたちに算数を教える代わりに、夕飯を食べさせてもらっていました。当時は独身でしたので、仕事が終わっても夕飯がなく、それを見越した酪農家の方から、「大学を出ているなら、小学校の算数は教えられるよな?」と言われ、仕事のあと夜7時半ごろから二人の小学生に勉強を教え、お客様が牧場から上がってきて、夕飯となる9時頃まで家庭教師をして、ご飯をごちそうになって帰る生活をしていました。あれから30年。久しぶりに手紙を書いてみたら、お返事をいただき、やはり嬉しかったですね。今は息子さんが牧場を継いで、お父さんは手伝っています。

酪農は都市部ではなく地方で行われる農業で、特に北海道などには酪農がなければ町が成り立たないような地域もあります。酪農は日本の大事な産業であり、酪農家はそこにいてくださるだけでありがたい存在です。私たちが美味しい牛乳やヨーグルトをいただけているのは、酪農家の方々が日夜一生懸命仕事をしてくれているからであり、彼らの大事な資産である乳牛が健康でいられるようサポートするのが我々の使命です。酪農の現場を知る者として、酪農家と消費者をつなぐという大事な役割も含め、今後も日本の酪農を支え、酪農振興への貢献に力を入れてまいります。

JICAボランティア経験者から

関西支店 徳島営業所 所長 豊田泰洋さん
(ブータン/家畜飼育/2013年度派遣)

協力隊で学んだ「傾聴」の大切さ

当社には、「お客様の目線で、お客様と一緒に考え、行動し、お客様の良きパートナーとして、お客様とともに楽農をめざします」という企業理念があります。同じ土地に住み、同じものをみて、一緒にアイデアを出しながら、良きパートナーとして横に立ち、夢の実現を目指していこうというものです。これはJICA海外協力隊の隊員として学んだ、現地での取り組み姿勢と同じです。

私は29歳で協力隊に参加し、ブータンの天然資源研究開発センターの畜産部門で人工授精の指導や相談など、家畜の繁殖や管理に関する活動を行いました。

同僚たちは優秀で、留学経験者もいたのですが、人事異動や人員不足などにより、やりたいことがなかなか上手くいきませんでした。自分が提案、提言したことに対しての反応も薄く、物事がうまく進むことはほとんどゼロに近かったと思います。今思えば、日本での経験が活かせる活動だったので、若さゆえの熱意も相まって「こうした方が絶対にいいですよ」など、相手に押し付けるような姿勢が多かったと思います。ボランティアとして相手の意見を聞き、どこまでなら自分の提案を聞いてくれるのかを見極めて一緒にできればよかったのですが、なかなかそうなれず、苦労しました。

そんな苦い経験をした協力隊でしたが、そこで学んだことが今の仕事にとても役立っています。それは「傾聴」です。相手のことを思ってまずは聞く。聞いてから、一緒にどこまでできるかを考えて提案する。そういうスタンスが取れるようになりました。

当社の営業は、知らない土地に行くことが大前提です。協力隊時代もそうでしたが、知らない土地に行ってまず何をするかというと、地元の方と話すにはどんな話題が必要で、相手のフィールドに入ったらどう反応するのが正解かを掴むことです。最初こそ、牛の健康や1日あたりの配合飼料の量などのお話から始まりますが、そのうち世間話や地域の話、そして趣味の話へと広がっていきます。お客様によって、機械が好きな方もいれば、ひたすら酪農行政の話をする方、YouTubeや世界情勢が好きな方もいらして、それぞれに合わせたお話をすることも仕事の一部だと思っています。そう考えられるようになったのも、ボランティア経験があったからであり、コミュニケーション能力は協力隊経験者の一つの強みではないかと思います。

ブータンで家畜飼育隊員として活動した豊田さんブータンで家畜飼育隊員として活動した
豊田さん

厳しい酪農業界
それでも将来につながる提案を

北海道から徳島県に来て約2年。担当するお客様は28軒ほどで、1ヶ月の訪問件数は80~90件。週に1~2回訪問するお客様もいれば、毎朝、同じ時間に営業所に来られる方もいらっしゃいます。皆さんは徳島が好きで、自分たちの地元を愛していますから、私たちのような外部からきた人間が、いきなり上から目線であれこれ提案しても受け入れていただけるわけがありません。だからこそ、一緒にお茶を飲む時間は大切にしています。そんな中、当社の商品を拡販したお客様で、かなり経営難に陥って困っていらした方がいました。餌を変えて一緒に取り組んだ結果、徐々に改善していき、「豊田くんと一緒にやってきて、これだけプラスになったよ」と言っていただけた時は嬉しかったですね。お客様からご相談を受けるということは、かなりの信頼関係ができているのかなと思います。

今年はウクライナ情勢や急激な円安による物価の高騰で、輸入飼料の価格が上がりました。いつもの夏であれば、牛が夏バテで乳量が上がらないといったお悩みが多いのですが、今年はそれに加えてコスト削減をどうするか、経営を成り立たせるにはどうしていくかというご相談がかなり増えています。

私たちは、もちろん安価な餌のご提案もさせていただくのですが、いま経済的に厳しいからと言ってそれを続けていると、来年、再来年には牛の健康がどんどん悪くなっていく可能性があります。多少コストがかかっても、健康に飼っていた方が病気も少ないし、乳量も出てきます。おいしい牛乳を作っていただくには、やはり乳牛の健康が一番大事ですから、そのあたりのバランスを取りながら、なるべく将来につながるようなご提案をさせていただいています。

最近、日本の酪農現場に東南アジアの方が増えています。ベトナム、カンボジア、ラオス、中国の方もいます。元JICA職員や協力隊経験者で酪農に従事している方もいらっしゃって、自分が派遣されていた国の人を実習生で雇いたいという声も聞きます。今後そういう出会いが増えていったら楽しそうです。

実は、定年後にもう一度海外でボランティアをしたいという夢があります。できれば今の仕事に関連する酪農や家畜飼育の仕事で、JICAシニア海外協力隊に参加できたらと思っています。

最後に、現役の協力隊員たちにお伝えしたいことがあります。海外にいると日本のことに疎くなり、帰国後はまた最初から就職活動をしなければならないのかと心配になる人もいるかもしれません。しかし、当社のように、協力隊経験を評価してくれる「サポーター宣言企業」が、実はたくさんあることを知ってください。

※このインタビューは、2022年8月に行われたものです。

関西支店徳島営業所所長の豊田泰洋さん関西支店徳島営業所所長の豊田泰洋さん

PROFILE

森永酪農販売株式会社
設立:2006年
所在地:東京都港区芝浦3丁目13-8
事業概要:飼料販売事業、受精卵事業、乳牛育成受託事業
協力隊経験者:5人(2022年8月現在)
HP:https://www.mo-rakunouhanbai.com/
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