エム・ヴイ・エム商事株式会社既存のやり方にとらわれず、
多様な価値観を受け入れる姿勢
食の未来を創造する農産物業界の
EXCELLENT COMPANY

  • グローバル人材の育成・確保

青果売り場で当たり前に見かける海外産の農作物。その一つ一つに発見と輸入の歴史がある。神戸に本社を置くエム・ヴィ・エム商事株式会社は、アメリカンチェリーやメキシコ産カボチャにいち早く目をつけ、その輸入に成功した青果物専門商社だ。1975年創業の同社の基本姿勢は、マーケットの需要に寄り添うこと。鮮度が良くて安全性も高い国産農作物へのニーズを受け、2001年以降はベビーリーフやブロッコリーの国産化の取り組みを本格化。現在、110億円ほどの同社売上高の約7割を国産品が占めている。北海道から沖縄に至るまでの国内生産地にはフィールドマン(注1)を配置。生産者だけでなく行政や種苗会社とも信頼関係を築きながら、より安全で健康的な美味しい野菜と果物を食卓に届けるべく、日夜奮闘している。同社の代表取締役社長・石田希世士さんにJICA海外協力隊経験者への期待について話を伺った。

現地に溶け込みながら貢献するスタンス
社の求める人物像と一致

JICA海外協力隊経験者に関心を持ったきっかけは、懇意にさせていただいているトキタ種苗株式会社(本社:埼玉県)が定期的に採用していたからです。話を聞いて、すぐに「いいな」と思いました。

弊社は農産物を扱う企業で、その産地は国内外問わず地方にあることがほとんどです。便利な都会に比べると厳しい生活環境で、商品を得るには心身ともにタフな人材が必要です。そんな現場で働く人材を求めている弊社からすれば、協力隊は新人研修を代わりにやってくれているようなものです。これまで、実際に何名かの協力隊経験者と面接をしましたが、好奇心が旺盛で、人との交流が根っから好きな方が多いと感じました。

職人気質が多い生産者と信頼関係を築くには、非常に時間がかかります。当然、上から目線のコミュニケーションでは信頼は得られません。開発途上国の現地に溶け込みながら、人々の信頼を得つつ貢献をしていくのが協力隊のスタンスだと、私は理解しています。その姿勢は、弊社が求める人物像と一致しているのです。

弊社では、2020年1月に真利一馬さんを採用しました。面接では、ケニアで悪戦苦闘しながらも充実した日々を送ってきたことが伝わってきました。日本食を海外に紹介する夢を持ちながらも、経験を積むために「何でもやります」という積極的な姿勢が素晴らしく、コミュニケーション能力も十分にあると思いました。

現在、彼は単身で宮古島に住み、「あしたの農業」という農業生産法人の運営を担っています。代表の方が高齢のため引退されたので、引き継いでもらう人材として彼を選びました。

宮古島に常駐している弊社のフィールドマンは彼だけです。生産者だけでなく、行政や種苗会社との交渉の場にも社の代表として出なければなりません。生産者の栽培履歴の管理や活用できる補助金の手続きだけでなく、生産の担い手を新規に募ったりする業務も彼一人でこなしています。普通の人ではなかなか務まらない、難しい仕事です。しかし、ケニアでの経験を活かして辛抱強く務めれば、おのずと自信と実績がついていくと期待しています。

代表取締役社長の石田希世士さん代表取締役社長の石田希世士さん

食の未来を創造していくための挑戦
協力隊経験は貴重な個人財産

私も海外からさまざまな影響を受けています。弊社に入社後、しばらくは創業者である父が健在だったため、アメリカ・アリゾナ州のサンダーバード大学のMBAコースに留学しました。当時、休暇を利用して南米チリなどを一人旅したものです。若い頃に海外のさまざまな文化や慣習に触れておいて良かったと、今でも思います。多様性を実感し、既存のやり方にとらわれない思考を養うことが出来たからです。

アメリカで独立心の強い人たちの生き方、働き方に影響を受け、弊社も出来るだけ風通しを良くしているつもりです。社員それぞれに出来るだけ権限を渡すようにして、自由度を高める努力をしています。稟議の仕組みはありますが、意思決定のスピードを妨げてはいません。自分で考えて、自分で動く。いわゆるサッカー型の人材の育成に努めています。

青果物の輸入からスタートした弊社ですが、現在は生産に直接携わる事業も少なくありません。今後は生産者と分業・協業して栽培する機会が増えていくことでしょう。例えば、夏場にカボチャを栽培している北海道では、種まきや収穫などの多くのマンパワーが必要な期間は弊社が担当させていただき、そのほかの期間は現地生産者に栽培管理を担っていただいています。収穫で圧倒的な力を発揮するのが、ハーベスターというニュージーランド製の半自動収穫機です。大規模で効率的な海外農業の知見を国内農業に活かすことも、弊社の重要な仕事なのです。

マーケットのニーズに応えて、海外からの農産物の輸入も引き続き行っています。前提となるのは多様な価値観を受け入れる姿勢であり、それには海外での経験が大いに役立ちます。特に農産物の産地は、開発途上国にあることが少なくありません。現地の人たちと2年間も生活を共にしながらボランティア活動に励んだ経験は、貴重な個人資産です。JICA海外協力隊の経験者で「食」に興味がある方は、ぜひ弊社の門を叩いて欲しいですね。

JICAボランティア経験者から

本社営業第二部 真利一馬さん
(ケニア/野菜栽培/2017年度派遣)

理想と現実のギャップ
悔し涙を飲んだ2年間

ありがたいことに私は、幸せに生まれて健康に育つことが出来ました。一方、食べ物も勉強する機会も得にくい国に生まれる人たちもいます。おこがましいことかもしれませんが、その不平等を少しでも正したいという想いを持っていました。

もともと兵庫県の出身で、県内の大学に進学したものの開発途上国に伝えられるようなスキルを見いだせず中退。東京農業大学に入学し直し、国際援助としての農業を学びました。卒業後、目標にしていたJICA海外協力隊に参加し、ケニアに派遣されました。

任地は乾燥に強いマメ科の植物ばかりを育てている地域で、JICAの支援による灌漑設備を利用し、オクラ、サツマイモ、トマトなどの野菜を育てる計画でした。しかし、種を購入して現地の人に栽培マニュアルと一緒に渡しても、灌漑設備は未完成で水が足りず、農薬もないため上手く育ちませんでした。野菜栽培と比べて水をあまり使わない畜産に目を向けたのは、2年間の活動の後半です。残念ながら帰国までに時間が足らず、活動の成果を見届けることは出来ませんでした。

ケニアでは、周囲から協力を得られない、アクションを起こそうにもインフラや安全上の問題から身動きが取れないなど、さまざまなハードルがありました。しかし、栽培場所を変えてみる、種苗会社の協力を仰ぐなど、別の発想をすることでハードルを越えることが出来たかもしれません。そう考えると悔しさと後悔が残り、今でも現地の活動が上手く行かずに焦る夢を時々見るほどです。

また、気になったのが現地の「食」についてです。ケニアの地方では、ウガリというトウモロコシの粉を練って固めたものを主食にし、ケールやスイスチャードなどの野菜をおかずにする食事が一般的です。しかし、ウガリだけに偏った食生活は、ケニアの人たちにとって栄養失調の原因の一つにもなっていました。私は、栄養バランスを考えた食事が取れるよう、首都に行く機会があればさまざまな食材を購入できましたが、現地の人たちは限られた食材しか手に入れることが出来なかったのです。

2年間で何も成し遂げられなかった悔しさを晴らしたい、生活環境によって満足な食事を得ることが出来ない人たちに貢献したい。JICA主催の帰国隊員と企業との交流会で弊社に出会い、強く興味を引かれたのはそうした想いがあったからです。

ケニアで野菜栽培隊員として活動した真利さんケニアで野菜栽培隊員として活動した真利さん

ケニアのリベンジを原動力に
持続可能な仕組みづくりを目指して

入社後は、神戸の本社でベビーリーフとカットリンゴの国内営業を1年間担当した後、宮古島の農業生産法人「あしたの農業」の運営を引き継ぐことになりました。生産者の栽培するカボチャを管理して、できるだけ良い値段で出荷することが私の役目です。

宮古島での最初の半年間は、倉庫のような場所で現地代表者の方との共同生活でした。宮古島は高温多湿の亜熱帯海洋性気候ですから、虫もいっぱいいます。しかし、ケニアでの生活を振り返ると大したことではありません。とにかく、あの2年間のリベンジがしたいという気持ちで、今も無我夢中で働いています。

沖縄の農業と言えばサトウキビの印象が強いのですが、実はそれ以外にも大きな可能性があります。特に宮古島は農業にとって「宝の島」と言えます。それは、冬でも温暖な気候を利用して、ほかの産地では栽培できない時期にカボチャなどを出荷することが出来るからです。冬から春にかけて、スーパーで国産カボチャが販売されていたら、その多くは沖縄県産だと思っていただいて間違いありません。

2022年現在、「あしたの農業」にカボチャを提供してくれている生産者は47名、作付面積でいうと40ヘクタールです。契約スーパーに直接販売することが出来るため、あらかじめ値段を決めて栽培が出来ますから、豊作でも値崩れはしません。また、カボチャを磨いて箱詰めする作業を省き、400キロ入るコンテナに搬入するだけで出荷が出来るようにもしています。磨き作業は神戸の選果場でまとめて行う仕組みです。こうした弊社ならではのシステムが、生産者の負担を軽減し、より良い営農の一助になっているという自負があります。

ケニアでのような失敗や諦めは二度としたくありません。あの時の経験から、さまざまな選択肢を常に用意しておくことが大事だと思っています。例えば、石垣島の生産者にもカボチャを作っていただくことで、宮古島のカボチャの出荷が薄くなる時期にも補充が出来て、安定した供給が可能になりつつあります。また、表面に傷がつき商品化には不適当なカボチャを宮古島の社会福祉法人に寄贈することで、社会貢献だけでなく「あしたの農業」の知名度向上に役立てています。そのほか、行政とも掛け合い、新規の就農者を紹介してもらう努力も始めています。こうしたことの積み重ねで、さまざまな可能性が広がっていくと思っています。

今でも開発途上国支援の気持ちも忘れてはいません。宮古島でさまざまな経験を積ませていただいているので、以前よりは多様な視点で物事が見えるようになりました。今後、もう一度チャンスがあるならば、開発途上国の農業を下支えするような仕事がしたいです。輸出入に頼らない、その国の中だけで完結するような持続可能な仕組みも、弊社ならば提供することが出来るのではないかと思っています。

※このインタビューは、2022年10月に行われたものです。

注1:高品質な農産物の生産・流通・情報といった、トータルシステムを支える存在。日々生産者を訪問して営農のサポートするほか、行政や農協、種苗会社との橋渡し役となり、安全で高品質な農産物づくりを支える。

本社営業第二部の真利一馬さん本社営業第二部の真利一馬さん

PROFILE

エム・ヴイ・エム商事株式会社
設立:1975年
所在地:兵庫県神戸市中央区港島南町4丁目6-7
事業概要:海外農産物の商品開発・マーケティング・売買・国内農産物の生産・マーケティング・販売
協力隊経験者:1人(2022年10月現在)
HP:https://www.mvm.co.jp/
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