日本電気株式会社協力隊参加で培った「物事を多面的に
捉える力」が技術開発にも役立つ

  • グローバル人材の育成・確保
  • CSR活動

イノベーション(革新)こそNECの"DNA"

日本電気株式会社(以下、NEC)は、1899年に日本初の外国資本との合弁会社として設立された。創業当時から「顧客満足(CS)」を第一に考え、世界に通用する優れた製品の提供に尽力する一方で、社員が働きやすい職場環境づくりやグローバルな人材育成にも注力してきた。創立100周年を迎えた1999年からは、世界各地の社員がボランティア活動などを通して地域に貢献する運動も毎年実施。

 「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」の実現に向けて邁進し続ける同社の企業風土に支えられ、協力隊に参加した大野岳夫さん(平成16年度派遣/ニジェール/コンピューター技師)を訪ねた。

キャリアを生かしながら自らの視野も広げられる協力隊

「父が大学で途上国からのJICA研修員を受け入れる仕事をしていたため、10代の頃から国際協力を身近に感じていました」と大野さんは話す。海外への興味から、学生時代は途上国を含め、多くの国々を旅した。大学院卒業後は、エンジニアとして同社に入社。電子商取引や情報配信など、ネット関連のサービス企画および技術開発に携わった。社会人になってからも、大野さんは休みを利用して海外へ足を運び、異文化を少しでも肌で感じるようにした。旅行をしながら途上国でのネット事情が著しく発展していく様子は、エンジニアである大野さんの関心を誘った。また、途上国の人々の逞しさや力強いエネルギーに深く魅了された。
 そうした中で、大野さんが一段と強く海外を意識する出来事が起きたのは、大野さんが社会人になって3年目のことだった。全世界を震撼させたアメリカ同時多発テロ、それが大野さんにある気づきをもたらしたのだ。「中東を始め、多くの国々から情報が発信される中、各国の見解が大きく異なることに驚きました。そして一つの物事に対していろいろな見方が世の中にあるということに気づかされたんです。エンジニアとして途上国におけるIT事情の知見をもっと広めたいと思いました」。入社して5年、30代を目前にした大野さんは、「キャリアを生かしながら視野を広げてみたい」との思いが強まり、協力隊へ応募。一次試験に合格した大野さんは、そのときに初めて、協力隊に参加する意向があることを直属の上司に伝えた。「正直なことを言うと、上司は困惑した様子でしたね」と大野さんは当時を振り返る。最終的には協力隊参加のために設けられている休職制度(協力隊参加休職制度)の利用が認められ、大野さんは現職のままニジェールへと旅立つが、当時の上司の困惑は、大野さんが現場でそれだけ必要とされていた証であったともいえる。

 「以前、現職で参加した社員が帰国後に退職してしまったことがあったらしく、上司は私もそうなるのではと危惧していたようです。でも私の場合は、日本とは何もかもが異なるアフリカの地で見聞を広めた後、それを生かしながら帰国後に会社でやりたいことがたくさんありました。だからこそ現職のまま参加したかったんです」と大野さんは話す。

「現地での活動においては、2年という限られた時間の中で、自分の離任後も確実に何かを残せるように心がけました」と話す大野さん。

企業の宝となる生活者視点を協力隊経験が育む

NECでは「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」をNECグループビジョン2017として掲げ、様々な事業活動に取り組んでいる。このビジョンの実現に向けて、コンプライアンスの徹底を前提に、事業活動をとおして社会や地球が抱えるさまざまな課題の解決に貢献することが同社のCSR経営のポリシーであり、そのためにグループ社員が共有し実践する価値観と行動原理として示したものが「NECグループバリュー」である。4つの価値基準があり、そのひとつに「ベタープロダクト・ベターサービス」がある。その中により良い製品とサービスを提供するために必要なこととして「生活者視点で考える」との一文がある。

 NECのCSR推進部長で、CS推進室長と社会貢献室長も兼務している鈴木均さんは、自身もビジネスマンとして長期にわたり北アフリカなどの途上国で仕事をした経験がある。そんな鈴木さんは大野さんの協力隊参加について次のように話す。「私たちの仕事は、一言で言えば、NECの情報通信を中心とする技術とノウハウで良い社会インフラを作っていくことにあります。それを考えたときに、『生活者視点』で物事を考えることは大変重要になります。優れた製品やサービスは、いつでも生活者視点から生まれると言っても過言ではありません。そうした意味において、大野さんのように異国の地へ赴き、現地の人々の輪の中に飛び込み、そこから見えてくるものとは、まさに『生活者視点』から見えたものです。そう考えると、大野さんが2年にわたりニジェールで積んだ経験は本人のみならず、会社にとっても大変貴重なものであると言えます。つまり、社員が持つ様々なバックグラウンドは、それ自体が社の宝なのです」。

 また、同社では、CSR経営の実践の中で優先度が高い7つのテーマを掲げており、その中の一つに「すべての人がデジタル社会の恩恵を享受」とある。「大野さんのニジェールでの活動は、まさしくこのテーマに取り組んだものと言えますね」と鈴木さんは語る。

「社員の協力隊参加は、社としての社会貢献の一環であると同時に、自身の能力開発にもつながる」と鈴木さん。

インターネットの開通が現地にもたらしたもの

大野さんが赴任した先は、ニジェールの首都ニアメにある工業大学。同大学で大野さんは、コンピューター関連授業の実施と、学内LANおよびインターネット常時接続実現に向けた調査、設計、構築作業に取り組んだ。

 大野さんは、学生たちの意欲を高めるために、彼らがコンピューターに触れる機会をより多く持てるような授業を心がけた。学生たちは教えたものを次々と習得していき、その貪欲に学ぼうとする姿勢に圧倒される毎日だったという。そんな中で、学生たちが切望していたもの、それはインターネットだった。ニジェールでは専門書の入手が困難で、技術経験者もほとんどいない。その学ぶ意欲に応えられる、知識を得る手段がそこには無く、自分も含め、同僚の先生たちも、学生たちもとても歯がゆい思いでした」と大野さんは語る。

 赴任当初は、月々のプロバイダ料金が6万円と高額だったため、大学が費用を工面できずなかなか実現しなかったが、ニジェールでも価格競争が次第に活発化し、1年半ほどの間に月々のプロバイダ料金が2万円にまで下がり、ついに大学がGoサインを出した。いつでも学内LANをインターネットにつなげられるよう準備していた大野さんは、すぐにインターネット接続を実現させた。「職員も学生たちも、直ぐにインターネットの魅力に取りつかれていました」と大野さんは笑う。遠方にいる親戚とスカイプで話をする者、毎日のニュースのチェックや調べものにインターネットを利用する者、待ちに待ったインターネットの開通によって、それぞれのモチベーションは確実に上がったと大野さんは実感。また、大学としては、インターネットを用いた企業向けの研修が可能となり、研修生を募るようになった。研修を実施することで大学側は利益を出せるようになり、プロバイダ費用はもちろんのこと、パソコンのメンテナンス等に必要な経費もまかなえるようになった。「離任直前ではありましたが、資金の面で一つのサイクルができあがったことは本当に良かったと思います。自分が離任したあとに、経費が工面できないという理由で、すべてが元に戻ってしまうことほど悲しいことはありませんから」と大野さんは話す。

派遣先の工業大学で学生に指導をする大野さん。「砂が水を吸うように、知識を身につけていく様子に驚いた」と大野さんは話す。

協力隊で学んだことが今の仕事を充実させている

「会社から離れて過ごした2年間で学んだことはたくさんあります。そして、そのどれもが今の仕事を充実させることに役立っていると思います」と大野さんは断言する。技術開発に携わる大野さんにとって何よりも役立っていること、それは、自社の技術や製品を第三者の視点で捉えられるようになったことだ。「どこの企業でも、社員は自社の技術や製品には自信と誇りを持っています。でも、それはともすると独りよがりになるリスクがある。そんなときに、第三者の視点を持つことは、とても大切なことだと思うんです。たとえば、自社製品が完成したときに、社内の人間が全員満足だったとします。でも、そこで『もし自分がお客さんだったら、こうしてほしい、ああしてほしい』と意見する人間が1人でもいれば、その製品はさらに良くなる可能性があります。協力隊の経験を通して、物事を多面的に見る癖がついたのかもしれませんね」と大野さん。

 また、大野さんは帰国後に、NECから協力隊に参加した人たちのネットワークを作り、まとめ役としても活躍している。「経験者の存在は心強いものです。これから協力隊への参加を考えている社員の相談に乗ったり、これから帰ってくる人に対しては、復職後に活躍している協力隊OB・OGから、社内のどこで協力隊の経験を生かせるのかアドバイスをすることもあります。帰国後に簡単に会社を辞めてほしくないんです。協力隊参加休暇制度は、社会貢献をしながら自分自身をも磨き、その経験を何らかの形で会社に還元できて初めて成立しているのですから。また、グループ会社の中には、まだ協力隊参加休暇制度が導入されていないところもあるので、そうしたところに対しても、必要に応じてお手伝いをしていければと考えています」と大野さんは抱負を語る。

 NECはこれまでに、計28人が現職のまま協力隊に参加。そして、2011年3月には2人が、また同年6月からは1人が、現職参加の協力隊員として世界各地で活動を開始することになっている。同社は創立100周年を迎えた1999年に、全世界NECグループ社員参加型コミュニティ貢献活動として、「NEC Make-a-Difference Drive(MDD)運動」を開始した。この運動の展開において、“Think Globally, Act Locally”との言葉を使用しているが、これは協力隊の活動にも相通じるものがあると言えるだろう。

PROFILE

日本電気株式会社
NECは、「人と地球にやさしい情報社会をイノベーションで実現するグローバルリーディングカンパニー」となることを目指し、これを2008年に制定した「NECグループビジョン2017」に掲げています。この実現に向けて、お客さまをはじめとするステークホルダーのみなさまと協働し、事業活動をとおして社会が抱えるさまざまな課題の解決に貢献していきます。それがNECの実践する「CSR経営」です。

NECが長年にわたって培ってきたITとネットワークの技術の融合によって、途上国を含めた世界中の人々が、行政サービス・教育・医療・セキュリティなどのさまざまな分野でICT(情報通信技術)を活用した多様なサービスをいつでも自由に、かつ安全に利用できるICTインフラの整備に貢献いたします。また、CO2排出の少ないICTサービスの提供や電気自動車用リチウムイオン電池などの環境・エネルギー事業の拡大などによって気候変動などの環境問題の解決にも貢献いたします。
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