一般社団法人日本森林技術協会「つまずき」を乗り越えた経験が
国際協力の現場で生きる

  • グローバル人材の育成・確保

一般社団法人日本森林技術協会は、森林・林業に関する科学技術の発展、技術者の育成などに取り組むとともに、国内外で各種調査や研究開発、コンサルティング事業などを展開。同協会は、近年、青年海外協力隊経験者を積極的に採用している。彼らへの期待やその活躍ぶりを、国際協力グループの松本淳一郎(まつもと・じゅんいちろう)さんに伺った。

国内外で活躍する技術者集団

当協会は、林業技術者の地位向上、自己研鑽などを目的に1921年に創立された組織で、林野庁、都道府県、大学、研究機関の方などを含む全国の森林・林業関係者、約4,000人の会員を技術面でサポートしています。また、並行して国内外でコンサルタント業務も行っていますが、全体に占める国際協力業務の割合が年々高まってきており、それに伴い青年海外協力隊経験者の採用も増えています。

私自身も協力隊経験者で、セネガルで森林保全活動をしていました。帰国して当協会に就職したのは、もう25年前になりますが、当協会はそれ以前、30年以上も前から協力隊出身者を採用しています。現在は12人の協力隊経験者が在籍し、その多くが事業部の国際協力グループに所属しています。彼らが隊員として派遣されていた地域は、アフリカが7人、アジアが2人、南米が3人と多地域に跨り、職種は森林や自然環境関連が多かったのですが、最近はコミュニティ開発など、直接、森林・林業に関係のない職種だった人も増えてきています。

協力隊経験者の採用はJICAの「PARTNER」サイトを活用しているほか、青年海外協力隊事務局が主催する帰国隊員と民間企業との交流会にも参加して、当協会を知ってもらう機会をつくっています。また、当協会が事業を実施する開発途上国で活動中の隊員の方と知り合い、帰国後すぐ採用につながったケースもありました。

国際協力業務の大半はJICAからの受注案件で、現在、約10件を実施しています。最近はアフリカ地域が多く、中部アフリカ森林協議会(COMIFAC)や南部アフリカ開発共同体(SADC)を支援する地域アプローチ・プロジェクトのほか、コンゴ民主共和国、ガボン、ボツワナ、モザンビークなどでは二国間協力のプロジェクトに携わっています。また、アジアではベトナムやインドネシアのプロジェクトにも取り組んでいます。事業内容は、かつてのような植林や参加型自然資源管理のプロジェクトは減っており、気候変動対策の一つである「REDD+」(注1)に関連した森林モニタリング・システムの構築・強化を中心に、森林や泥炭地の火災防止、生物多様性保全などのプロジェクトが多くなっています。

事業部国際協力グループ主任技師の松本淳一郎さん

協力隊で「納得解」を導き出した強み

国際協力業務に初めて従事すると、最初に必ずつまずくポイントがあります。それは、現地の人との文化や価値観などの違いからくる戸惑いです。協力隊を経験した人は、この違いを受け入れ、試行錯誤しながら、何らかの「納得解」を導き出してきた人たちです。この経験は、さまざまな角度から状況を把握し解決策を検討する能力となり、国際協力業務の土台となるので、それを身に付けているのは心強い限りです。また、協力隊として、開発途上国の人々のためにと純粋な気持ちで情熱を傾け活動したことを自分の原点として持てることは、ビジネスを超えた価値を生み出すことが求められる現代にあって、非常に重要だと思っています。

当協会の強みは、国内業務と国際業務の両方があることです。職員は、国内で導入された新しい技術をOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で身に付ける機会があり、その技術や経験を海外でも生かすことができます。また、国内業務では事業ごとに複数の有識者で構成される委員会を立ち上げ、それぞれの課題を検討することも多いので、各分野の第一人者といわれるような方々とのネットワークが自然にできます。こうした国内での取り組みを通じて、常に最新の情報や技術を途上国に移転することが可能で、日本らしい国際協力ができる組織ではないかと自負しています。

私自身、現地で行き詰まって日本に相談すると、すぐさま話がつながって、その分野の第一人者から助言をいただいたことがありました。このように、一個人の能力に留まらず、組織としてさまざまなことを提供できることも、当会の強みの一つだと思います。

最近では、採用の際に職種にそれほどこだわることはありません。入職後、OJTで技術を身に付けてもらう機会がありますし、当協会自体が事業として林業技士や森林情報士などの資格認定に関連する研修や講習会を開催し、技術者を養成したりしています。

近ごろ、国際社会で長年にわたって議論・検討されてきた「REDD+」のメカニズムがようやくほぼ合意され、具体的な取り組みや活動が始まっています。生態系を活用した防災・減災を目指す「Eco-DRR」(注2)のような新しい取り組みも広がりつつあります。当協会としても、さらにチャレンジしていくため、国際協力業務を担える協力隊経験者を積極的に採用していきたいと考えています。

JICAボランティア経験者から

事業部 国際協力グループ 専門技師 橋口秀実(はしぐち・ほづみ)さん
(2005年度派遣/ベトナム/植林)

協力隊活動はコンサルタントの仕事に
通じるものがある

同僚の言葉が活動の支えに

東京の郊外で近所の雑木林を遊び場にして育ち、小さいころから自然に親しんでいました。大学時代はちょうど地球温暖化に関する議論が世界的に高まっていた時期で、農学部で森林や草原、農地から二酸化炭素がどれだけ放出されているかといった「炭素循環」を学んでいました。在学中にNGOのワークショップでインドに行き、経済的に決して裕福とはいえない暮らしをしている人々と接する中で、自分の職業に誇りを持ち堂々と生きている姿に衝撃を受けました。着ている洋服にこだわったり、便利な環境に住んでいるにもかかわらず、もっといろいろなものが欲しいと思ったり、「モノ」に価値を見いだしている自分が、なんとなく恥ずかしく思えました。

就職活動の時期を迎えたちょうどその頃、電車の中で青年海外協力隊の募集ポスターが目に留まり、こういう道も良いのではないかと思い、応募しました。

合格して、ベトナムのメコンデルタにある森林科学研究所の地方試験場に派遣されました。土壌の酸性度が高く農作物がなかなか育たない場所で、住民の生活水準の向上を目指す「メコンデルタ酸性硫酸塩土壌開発計画」というJICAプロジェクトのフォローアップの一環として植林をするはずでしたが、行ってみたらもうすでに木は植わっている状態でした。

JICAのプロジェクトとしては、現地の人たちによって植林が進められたのは想定以上の成果として喜ばれるものですが、それでは私は何をやればいいのだろうかと考えました。ちょうどJICAのプロジェクトで初期に植えた木が一斉に市場に出回る時期を迎え、材木の値段が下がっていました。そこで、付加価値をつけ高く売れるようにと、炭づくりのほか、建材や家具として利用できないものかと、地域の人たちと木材加工に取り組みました。また、植林を仕事とする人たちが出荷できるようになるまでの7〜8年間、どうやって生計を立てるかという問題があったので、酸性の強い土でも植えられるイモなどの農作物を紹介したり、有機肥料を作り土壌改良の仕方を伝えたりと、農業指導にも取り組みました。

職場である研究所には電気も水も通っていましたが、周囲は上下水道も電気もない環境でした。私はベトナム人の同僚と同じ長屋に住み込んで寝食を共にし、一緒に植林や木材加工の研究をする生活をしていました。活動していた地域はJICAのプロジェクトサイトで、日本のスタディツアーを受け入れていたことなどもあって、人の出入りが多いところでした。そんなある日、同僚から「おまえはまだ若いけれども、長くここにいて俺たちと一緒に仕事をしてくれるから本当にうれしいよ」と言われたことがありました。2年間、辛いこともありましたが、その言葉が心の支えになりました。

地域住民に農業指導をする協力隊時代の橋口さん(写真右端)

これからも途上国と関わっていきたい

現地ではベトナム語で活動していたため、英語はあまり得意ではありませんでした。そこで帰国後、英語をきちんと習得し、この分野の専門家として海外のプロジェクトで働きたいと考え、フィリピン大学の大学院に留学して森林政策を学びました。協力隊に行く前は、森林に関わる仕事は技術的なことが中心になると思っていましたが、実際はそうではありませんでした。森林を守る、育てる、管理するということは、そこに住んでいる人々とどのように協力していくかという視点が想像以上に重要だということに気付かされました。林業分野で国際協力に取り組む団体はいくつかあり、当協会の存在は知っていましたが、帰国後に就職活動をしている時にたまたまJICAの「PARTNER」サイトで求人を見つけて応募したのが、3年前になります。

就職してからしばらくは、先輩職員のサポートでいろいろな海外プロジェクトに関わりながら、国内の業務や技術的な勉強をしていました。去年ぐらいから隊員時代を過ごしたベトナムのプロジェクトを担当するようになり、年の半分は現地にいる生活です。プロジェクトでは、ベトナムにタブレットを使った新しい森林調査の方法を提案しています。もともと日本で確立されていた技術を最新のものにアップデートして、ベトナムに持っていっています。ITの世界は日進月歩なので、ベースとなる技術は変わらないものの、数年前に日本で使われていたものよりも開発途上国で採用されるものの方が、スペック的には逆に高いということが少なくありません。

仕事は本当に充実しています。現地の人たちといろいろ議論しながら切磋琢磨して最終的に良いものを作り上げていくのがコンサルタントの醍醐味です。受注したプロジェクトであっても、プロジェクトの目標に向かってどのような方法で取り組んでいくか、どのようにまとめていくかは、コンサルタントの腕の見せ所です。そういう意味では、協力隊の活動に通じるところがあると感じています。

「自分が現地に行くことによって、そこに暮らす人たちの生活が改善されたり、彼らが幸せだと感じる瞬間が増えたりすればうれしい」という思いは、昔も今も変わりません。協力隊で培った経験を踏まえ、森林・林業のコンサルタントとして、今後も途上国に関わっていければと考えています。

※このインタビューは2017年10月に行われたものです。

注1:開発途上国の森林の減少や劣化を防ぐことで気候変動を抑制する国際的なメカニズム。
注2:森林など生態系を活用した防災・減災への取り組み。

ベトナムの森林保全関連プロジェクトで活躍する橋口さん(写真左)

PROFILE

一般社団法人日本森林技術協会
創立:1921年
所在地:東京都千代田区六番町7番地
事業内容:森林技術の普及・奨励、各種調査・研究開発等のコンサルティング業務
協力隊経験者:12人(2017年10月現在)
HP:http://www.jafta.or.jp/contents/home/
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