株式会社日水コン国内外の壁を超え、地域に根差す。
発展途上国の上下水道事業をリードする
「株式会社日水コン」

  • グローバル人材の育成・確保

2030年には110兆円を超えるといわれている世界の水ビジネス市場。しかし、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において「2030年までにすべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」と改めて宣言しなければならないように、世界にはまだまだ衛生的な水へのアクセスが困難な人々が多い。株式会社日水コン(以下日水コン)は、創業後60年以上にわたり開発途上国の上下水道事業に対する技術援助をリードしてきた、水の総合コンサルタントのパイオニアだ。世界の水インフラの発展に貢献するためには、「国内外の壁」を超えて「地域に根差す」というマインドが欠かせないという。そんな業界のリーディング・カンパニーに勤務する、3名のJICA海外協力隊経験者に話を伺った。

日水コンでは、これまで多数のJICA海外協力隊の経験者が、海外部門を中心に活躍してきた。水インフラは地域の特性に応じて整備・維持していく必要がある。現地を肌で知り現地語をマスターしている協力隊経験者は、海外事業はもとより国内事業にも欠かせない戦力となっている。


まずはJICA海外協力隊に参加したきっかけや現地での活動などお聞かせください。

下水道事業部九州・広島下水道部九州技術課主任 大嶋義章さん
(エチオピア/理科教育/2013年度派遣)

協力隊は中学生の時に知り、興味を持ちました。応募要件を満たした高専在学中に一度挑戦したのですが合格出来ず、社会人になって再挑戦して合格しました。エチオピアでの主な活動は、学校教員の理科実験を補佐することと周辺校の理科教師に実験授業の方法を教えることでした。実験器具がなかったので苦労しましたが、ペットボトルやストローなど、現地で身近にある物を代用していました。

下水道事業部九州・広島下水道部九州技術課主任の大嶋義章さん下水道事業部九州・広島下水道部九州技術課主任の大嶋義章さん

海外事業部海外水道部長 川村哲司さん
(パプアニューギニア/水質検査/1995年度派遣)

同級生が協力隊のPRビデオに出たことが強く印象に残り、自分も行ってみたいと思ったのが参加のきっかけです。修士課程修了後、パプアニューギニアに派遣されました。主な活動は環境調査。小規模金採掘の現場の周辺流域における、健康被害を含めた水銀汚染の実態調査などをしていました。

海外事業部海外水道部長の川村哲司さん海外事業部海外水道部長の川村哲司さん

機電事業部顧問 高田幸一さん
(マラウイ/水質検査/1989年度派遣)

学生の頃は海外に行きたいという気持ちは全くなく、大学卒業後は水質検査や水処理施設の管理を行っている会社に就職しました。親友が協力隊に行きたいというので、私も試しにと説明会に参加してみました。JICAの話を聞くうちに自分のスキルが開発途上国の発展に役立てられることが分かり、応募を決意しました。合格後、当時勤めていた会社は退職して参加しました。

機電事業部顧問の高田幸一さん機電事業部顧問の高田幸一さん






高田さんと大嶋さんとでは派遣時期に30年ほどの開きがあるのですね。では、入社のきっかけや現在のお仕事について聞かせてください。

高田

今年の3月まで執行役員として機電事業部長を務めておりましたが、現在は顧問をしています。入社以来30年、何度か海外へ出たこともありますが、業務の中心は国内です。私は協力隊から帰国後、工事管理の手伝いで沖縄に数ヶ月いたことがあります。その時、現地で飲み会に誘ってくれたのが当社の大先輩。その縁で入社することになりました。

大嶋

エチオピア赴任中に、調査に来ていた当社の一団と話をする機会がありました。帰国後、挨拶を兼ねて会社訪問したのがきっかけで入社しました。3年前に九州・広島下水道部に異動し、現在は技術課主任として九州沖縄地方の下水道事業に関わっています。以前、海外事業部にいた時は、川村さんと一緒に何度か海外出張に行ったことがあります。

川村

私は今年の3月までスリランカにいました。現在は、海外事業部水道部部長として各国の水道関連プロジェクトに関わっています。当社のフィールドは、カンボジアやインドネシアなど東南アジアが主ですが、私はこれまで中東や中南米を担当することが多く、またここ数年は東アフリカが多くなりました。入社のきっかけは、大学の先生に勧められて学会で協力隊での活動内容を発表したことです。それを聞いていた当社の関係者に声をかけられ、面接を受けることになりました。




御社は60年以上も開発途上国の上下水道事業に関わっておられますが、みなさんが派遣されていた当時、派遣国の上下水道事情はどうでしたか。

高田

30年前になりますが、当時のマラウイでも蛇口をひねれば水が出ました。ちゃんと処理されているかと聞かれると何とも言えませんが、下水道も整備されていましたよ。アフリカ諸国は植民地の名残もあり、思いのほかインフラが整備されています。ただ、壊れた時に現地の技術力では修理が難しく、持続可能でないことが課題だと思いました。

マラウイで水質検査隊員として活動した高田さんマラウイで水質検査隊員として活動した
高田さん

川村

パプアニューギニアの都市部における水事情も悪くありませんでした。都市部はイギリスやオーストラリアの援助が入っていて、都市部における水インフラは当時から比較的きちんと整備されていたと思います。自宅の水道水の残留塩素を計測したところ、適正値に近い値が検出されました。水圧も十分で衛生管理もしっかりなされていると分かったので、気にせずに飲用していましたね。

大嶋

エチオピアの場合、首都はインフラ全般が整っていたのですが、停電や断水は頻繁に発生しました。ある時、道路工事で誤って水道管を切断したという事故が起こり、3ヶ月ぐらい水が出ないこともありましたね。雨が降ると頻繁に道路が冠水するなど、土木インフラは整っているようで不完全という印象でした。また、通信インフラも良くなかったですね。通信会社が国営企業の1社しかなく、競争が起きないためかインターネットがとても遅く、料金も高い。選挙やワールドカップがあった時は、急にFacebookにアクセス出来なくなったこともありました。




インターネットというと、川村さんや高田さんの隊員時代はなかったのでは。

川村

なかったですね。電話はありましたが、無線が主流でした。近隣の協力隊員の家にJICAから貸与された無線機が設置されており、そこに集まってJICA事務所や隊員同士と連絡を取り合っていました。

高田

私は電話も無線もありませんでしたよ。唯一、近くの郵便局に電話があって、どうしても連絡を取らなくてはならない時だけ利用していました。この30年で、協力隊の通信インフラはずいぶんと変化したことが分かりますね。




「物事を広く捉え、活動的かつ柔軟な対応が出来る。それは、活動を通じて自らの専門性を高めながら、日々の困難な課題に立ち向かってきたからに他ならない」日水コンでは、協力隊経験者をこうしたイメージで評価している。開発コンサルタント(以下開発コンサル)として国内外で活躍する彼らに、JICA海外協力隊経験は何をもたらしたのだろうか。

開発コンサルとして活躍する中で、こんなところに協力隊経験が活かされていると思うことを教えてください。

大嶋

協力隊は、相談できる同期や先輩が近くにいたとしても、基本的にはひとりで動かないといけません。開発コンサルもプロジェクト初期は同じですから、自ら考えて行動してきた経験は活かされていると思います。協力隊でも開発コンサルでも、現地に入ってしまえば言葉や習慣が異なる中、ゼロから人間関係を構築していかなければなりません。だからでしょうか、今でも他社の開発コンサルの方と一緒に仕事をしていると、「こういう人は協力隊に向いているだろうな」とつい思ってしまうことがありますよ。

エチオピアで理科教育隊員として活動した大嶋さんエチオピアで理科教育隊員として活動した
大嶋さん

川村

私の場合は、「諦め」が早いところですかね。ネガティブな意味ではなくて、「諦め」が早いということは、発想を素早く切り替えることができるという点に繋がってくると思います。制約条件があった場合でも、そこで文句を言って立ち止まるのは好きではありません。少しでも出来ることを見つけて動きたいですね。ただそうは言っても、協力隊時代はたくさん文句も言っていたと思います。うまくいかなかったこともありましたが、活動を通して色々と悩み、考え、動いてきたからこそ今があると思います。

高田

私は、こう見えて人見知りが激しく、決して外交的ではありません。仕事上、クライアントの前で話す機会が多いのですが、仕事でなければ絶対にやりません。どちらかと言えば、私自身は協力隊らしくないと以前から思っています。他の協力隊員を見ていると、良識を持って頑張っている方が実に多い。それに比べると自分は“普通”だなと思っています。

大嶋

高田さんのお話で気づいたのですが、協力隊員は自分だけは“普通”だと言う方が多いですよね。“普通”とは何でしょうかね。私の場合、協力隊を経験したことで自分の中の“普通”の範囲が少し広がった気がしています。

高田

派遣前訓練をしている時、ある方が「自分を変わった人間だと思っていたが、協力隊の中にいると“普通”に思えた」と言っていたことを思い出しました。今思うと、私の場合「自分は協力隊らしくない」という点こそが「協力隊らしさ」だったのかな。

川村

協力隊に限らず、自分ですべきこと・出来ることを見つけて行動している方を見ていると、これまでに色々と苦労し、それを克服しようと努力した経験をされたのだろうなと想像します。大嶋さんと海外出張に行った時に感じたのですが、常に自分で問題解決しようという姿勢を持って仕事に臨んでいる。実に協力隊らしいなと思いましたね。




異文化の中で悩みながら現地の人たちと活動してきたことで、自分や相手のことを深く知ることが出来て、結果的に開発コンサルに欠かせない行動力や課題解決力が育まれた、ということなのですね。川村さんと大嶋さんは頻繁に海外へ出かけていらっしゃいますが、協力隊の時と比べて違いを感じることはありますか。

川村

開発コンサルは報酬をいただいているので、予算や期日などの制約条件の中で決められた成果を残さなければいけません。一方で協力隊はボランティアであり、予算が無いなら無いなりに違う形で活動する道も自身で選べる立場だと思います。気持ちの上での違いは、開発コンサルをしていると時々楽しむ余裕を忘れてしまうことでしょうか。

パプアニューギニアで水質検査隊員として活動した川村哲司さんパプアニューギニアで水質検査隊員として活動した川村哲司さん

大嶋

川村さんと出張に行った時、ホテルの水が出る、出ないで盛り上がりましたよね。誰かの部屋で水が出るようになると、別の誰かの部屋で出なくなってしまう。その時、不便なことで文句を言い合うのではなく、その状況を楽しめる人たちが開発コンサルだと思いました。その点では、協力隊も開発コンサルも同じ価値観を共有することが出来る人間であると言えますね。




拡大する世界の水ビジネス市場に立ち向かうため、日水コンでは「自らの限界を定めず成長することに常に意欲を示す人材」を求めている。協力隊経験を活かして水インフラの最前線で活躍する彼らが今思うこと、これから期待することとは何か。

長く水ビジネスに関わりながら、世界と日本の社会変化を見てこられた皆さんに伺います。現在、海外のフィールドから日本を見て気になることはありますか。

高田

開発コンサルを目指す人であれば、一生懸命やって何かを残したいというのは誰でも思うこと。でも、目に見えるような大きな成果を残すことは実に難しい。インターネットによって世界が身近になったのは良いことですが、それによって何らかの過信が生まれているような気がします。日本の若者たちをきちんと育てていくことが、今はとても重要だと感じています。

川村

海外で感じるのは、現地の人々の日本に対する評価が概して高いことです。約束や時間も守るし、勤勉で成果品の質も高く、誠実に対応してくれるとの印象を持っていただいていると感じます。これは先輩方の積み重ねのおかげであると思いますし、こうした真面目さと誠実さを貫いて日本に対する信頼を維持していく必要があると感じています。国内の成長も頭打ちになり、これまで以上に海外に打って出ることを考えていかないといけない時代ですから、若い人たちが閉塞感を感じず、活躍の場を外に広げ易くするためにも、自分自身いい加減な仕事をして日本の信頼を落としてはいけないと思っています。

大嶋

日本は島国なので、海を越えないとほかの国を知ることができません。その点で、日本に協力隊という仕組みがあること自体がとても貴重ではないでしょうか。極端な例ですが、現地の子どもと遊ぶだけでも国際交流です。経験したことは自分にとっての真実になりますから、国際協力という言葉に萎縮しないことが大事だと思います。




貴重なお話をありがとうございました。最後に、これからJICA海外協力隊や開発コンサルを目指す人に向けてメッセージをお願いします。

大嶋

協力隊も開発コンサルも、相手の話を聞いて課題を汲み取り、解決策を探していくのが役目です。コミュニケーション力を磨くならば、協力隊は非常に良い経験になります。また、開発コンサルを目指す場合には、その経験は高い信頼に繋がります。何事もやってみなければ分かりませんから、悩んでいるなら飛び込んでみることをお勧めします。

川村

苦労したことはやがて自分にとってプラスになり、苦しんでいる相手の気持ちが少しでも分かるようになると思います。自分を無理に作ったり飾ったりする必要はなく、自分の思考やパーソナリティなど素の自分を大切に、自分の気持ちに正直にやっていくことが大切だと思います。

高田

若い頃は、開発途上国での経験を軽んじたり、無駄だと思ったりすることもあるでしょう。しかし、それは間違いです。20代の2年間は長いですが、60歳を過ぎるとたったの30分の1。僅かな期間が大きな成長をもたらしてくれます。若い人たちには自信を持って、さまざまなことにチャレンジしてもらいたいです。

※このインタビューは、2022年10月に行われたものです。

PROFILE

株式会社日水コン
設立:1959年
所在地:東京都新宿区西新宿6-22-1(新宿スクエアタワー)
事業概要:
① 国内及び海外における次に掲げる事業の企画、調査、研究、計画、設計、工事監理及び施設の運転、管理、診断、水質検査並びにこれらに係る経済・財務分析、その他のコンサルティング
・上水道、下水道及び工業用水道
・治水、利水及び河川、湖沼、沿岸海域に係る環境管理
・産業廃水、廃棄物等の処理
・建築、都市開発及び地域開発
・農業開発
・エネルギー関連
② ①に関連する情報処理システムの開発・販売・貸与・運用・保守・人材派遣
③ 建築・土木・各種プラント工事の請負・施工・監理
④ ①~③に関連する資機材の調達・販売・リース・賃貸及びこれらに係る古物の販売・賃貸
⑤ ①~④に附帯関連する一切の業務
協力隊経験者:3人(2022年10月現在)
HP:https://www.nissuicon.co.jp/
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