株式会社農業総合研究所協力隊経験者は
同じ志を持つ「仲間」

  • グローバル人材の育成・確保

近頃、東京や大阪など都市部のスーパーマーケットで、生産者から直送された農産物を販売する「農家の直売所」コーナーを見掛けることが多い。この直売所事業を展開しているのが、創業8年で東証マザーズ上場を果たした株式会社農業総合研究所だ。新しい農産物の流通を目指す同社の理念に共感し、同社の求人に応募する青年海外協力隊の経験者が増えているという。協力隊経験者を採用して感じたこと、これからの事業展開の中で期待していることなどを、代表取締役社長の及川智正(おいかわ・ともまさ)さんに聞いた。

「流通」から日本の農業を変えたい

当社を簡単に説明するなら、ITを駆使し、クリエイティブに農産物流通を創造し続ける「農業×IT」ベンチャー企業です。農業の産業化、構造改革、時代に合った流通改革を実現し、ビジネスとして魅力ある農業を確立するために行っているのが「農家の直売所」事業です。イメージとしては、地方にある道の駅や農産物直売所の規模を小さくしたもので、東京や大阪など都市部のスーパーマーケットの一角で、生産者の顔が見える農産物を生活者に届けています。

生産者は全国71カ所にある当社の集荷場に農産物を持ち込み、自分で自由に価格を決め、当社と契約している全国約1,000店舗から出荷先を選びます。農産物は全国の物流センターから翌日には指定の店舗に届けられ、店頭に陳列される仕組みになっています。登録している生産者は、現在、約7,000人。契約店舗は関東に約500、関西に約400、その他の地域に約100店舗あります。いわば、農産物を都市部のスーパーマーケットで自由に販売するためのプラットフォームです。また、2015年には株式会社世界市場を設立し、日本の生産者と海外市場が直接受発注できる市場プラットフォームも運営しています。すでに海外の10店舗ほどに展開しており、日々、日本の野菜や果物を送っています。

私は農業大学を卒業しましたが、農業を仕事にしたいと本気で考えるようになったのは、日本の農業の未来をテーマにした卒業論文がきっかけです。農業は日本の礎の産業であるべきだと思っていた中で、農業人口の減少、後継者不足、耕作放棄地の増加、食料自給率の低下という厳しい現実を知り、誰かがなんとかしなければいけないと考えるようになりました。そして、結婚を機に妻の実家のある和歌山で農業を始めて見えてきたのは、一農家で農業を変えるのは難しいことでした。もっと農業を広く捉えたいと思い、販売現場を知るために大阪で八百屋もやりました。

しかし、どの産業でもそうですが、生産者は1円でも高く売りたいけれど、販売店は利益を出すために1円でも安く仕入れたいと考えます。生産者と販売者は、まるで水と油の関係です。そこで、日本の農業を変えるためには、水と油が交わるところ、つまり「流通」を変えなければならないと思うようになったのです。

もともと起業をするつもりはなかったのですが、私が思い描く農産物の流通を手掛ける会社が存在しなかったので、ならば自分でと思い、10年前に設立したのがこの会社です。資本金は50万円でしたが、世界で一番農業に熱いのは私だという自負がありましたし、生産現場と販売現場に携わった経験から誰よりも現場力があるという自信もありました。8年間という短期間で上場できたのも、農業をどうにかしたいという強い思いがあったからで、その思いに青年海外協力隊の経験者も共感してくれたからこそ、当社の求人に応募してくれるのではないかと思っています。

代表取締役社長 及川智正さん

農業総合研究所が全国のスーパーマーケットで展開する「農家の直売所」コーナー

日本の農業へ熱い思いを持つ協力隊経験者

これまでに採用した協力隊経験者は3人です。最初の1人は、ネパールの農村で野菜隊員をしていた男性です。生産者に選択肢がなく、農産物を売ってもわずかな売上げにしかならないネパールの農業の現場を見た彼は、農産物の価格と売り先を生産者が決められるという当社の仕組みに共感し応募してくれました。入社後は千葉県内の集荷場で生産者支援に当たっていましたが、その後、そこで知り合った農家の女性と結婚し、今では当社と取り引きする生産者として農業に携わっています。

2人目は家畜の飼育や農家のサポートを行う協力隊員としてマラウイに派遣されていた女性です。彼女は、たまたまそこで農業関係のJICA専門家と出会い、農業についてもっと勉強したいと考えるようになったそうです。彼女は現在、千葉の集荷場で生産者の開拓や支援に取り組んでいます。

3人目は、バヌアツでテレビ番組の制作を行う協力隊員として活動してきた女性です。大学で農業を学んだ彼女は、農業や環境、地方の問題などをもっと多くの人に知ってもらいたいと、テレビ番組の制作会社に入社したと聞いています。帰国後は、番組制作のノウハウを生かして日本の農業に貢献したいと、当社に入社しました。彼女は、自分自身がこの会社でどのようなことができるのかアピールするために、応募書類とともに自主的に制作した農家のプロモーションビデオを提出するなど、非常にバイタリティのある女性です。

協力隊のことは以前から知っていましたが、協力隊経験者を採用したいと思っていたわけではありませんし、協力隊の経験が採用の直接的な理由だったわけではありません。3人に共通しているのは、私と同じように、日本の農業をなんとかしたいという強い思いを持っていることです。

私が社員を採用する際に重視しているのは、大きな声であいさつする、悪いことをしないなど、小学校で習った当たり前のことをしっかりできる人であるということ。その上で、仕事を楽しめる人かどうかを基準にしています。当社の仕事にしてもマニュアルはありますが、基本的には、一人一人に課題を見つけてもらい、自分自身で解決策を考えてもらっています。仕事を楽しむ能力がなければ、なかなか主体的に業務に取り組むことはできません。協力隊に参加する人は自分の目標や目的に向かって多少の困難も楽しみながら進んで行く人だと思いますし、こうしたところが当社に合っているのではないでしょうか。

私は、もっと生産者の選択肢を増やしていきたいと考えています。価格も、売り先も、流通も、いろいろな選択肢を用意し、生産者が選択できる仕組みをつくっていくために、現場に優秀な人材をどんどん投入していく必要があります。農業経験の有無や仕事のスキルは関係ありません。求めているのは「社員」ではなく、私と同じように「日本の農業をどうにかしたい」という志を持つ「仲間」です。


※このインタビューは2017年10月に行われたものです。

PROFILE

株式会社農業総合研究所
設立:2007年
所在地:和歌山県和歌山市黒田17-4 シャンドフルーレ2F(本社)
事業内容:農家の直売所事業、農産物物流事業、農業コンサルティング事業
協力隊経験者:2人(2017年10月現在)
HP:http://www.nousouken.co.jp/
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