公益財団法人太平洋人材交流センター開発途上国の人材育成と発展に貢献
どんなことにも真摯に取り組む姿勢と
向上心に期待

  • グローバル人材の育成・確保

モノやお金、技術を渡すだけが開発途上国への経済協力ではない。その国の人たちが企業や行政機関を自主的に運営し、発展していくことが重要だ。そのために何よりも必要なのは、現場のリーダーとなる人材の育成である。1980年代後半、関西の経済界からそうした声が出始め、1990年に財団法人太平洋人材交流センター(以下PREX、2011年に公益財団に移行)が大阪に設立された。PREXの主な事業は、各国の行政官や企業幹部を対象とした、企業経営やリーダー育成、中小企業振興、貿易・投資促進などの研修の実施。これまで156の国と地域から、累計19,000名以上が参加している。1991年の新卒採用1期生である国際交流部部長の瀬戸口恵美子さんに、JICA海外協力隊経験者への期待について話を伺った。

世界中の人たちから感謝される仕事
求められるオールマイティーな能力

私は、いわゆるバブル入社組です。当時、就職先はいくらでも選択肢がありましたが、どうもしっくりきませんでした。大学で先進国と開発途上国の経済格差問題について学んでいたこともあり、一般企業で働くことに興味が持てなかったのかもしれません。その時に知ったのが、設立されたばかりのPREXです。研修による人材育成で開発途上国の発展に貢献できること、産声を上げたばかりのPREXの歴史を作っていけることに魅力を感じ、採用試験を受けました。

コロナ禍により、現在は研修のほぼすべてがオンラインで実施されていますが、以前は年間20~30件の対面研修を行っていました。参加者の国籍は、アジア・太平洋諸国だけでなくアフリカ、中南米、中央アジア、東欧などです。研修期間は2~6週間のプログラムになっており、平均1ヶ月は日本に滞在して学んでいただきます。研修1件あたりに参加者は10名前後、研修後には同窓会などを企画し、人的ネットワークも構築しています。

研修運営は、準備期間も含めると1研修あたり4ヶ月ほどの時間がかかる仕事です。2~3名のチームで動かすため、複数の研修をかけ持ちするスタッフもいます。多い場合、年間5件の研修を担当します。私は管理職なのでチームに入ることは少ないのですが、過去に100件近くの研修を担いました。それぞれに大変さと喜びがあり、すべてが自信につながっています。

この仕事の良さは、新しい人との出会いが多く、研修が終わった時に参加者から「ありがとう」と言ってもらえることです。数ヶ月おきに、世界中の多くの人たちから感謝される職業は、世の中に少ないのではないでしょうか。

PREXで働くために一番必要なことは、やはり開発途上国の人たちに対する想いです。彼らの国の発展に貢献したいという、純粋な気持ちがベースになければ続けられません。研修対象となる国や人は日々変わっていきます。研修内容も常に改善して発展させていく必要があり、「次はこんなことをやってみよう」と新しいものを生み出していく意識も不可欠です。

JICAからも研修案件を受託しています。案件目標はあらかじめ決まっているものの、講師や講義テーマなどの具体的な部分はPREXで企画・提案しなければなりません。例えば、中小企業育成に関する研修であれば、日本の中小企業育成に関する政策の内容、歴史的な経緯、現状と成果など、ある程度の知識の素地がなければ効果的な研修を立案できません。日々、アンテナを張り巡らせながら勉強することが必要な仕事です。

また、国内のさまざまな企業に参加者の研修を受け入れていただいているのですが、経営者に受入を依頼することも私たちの仕事です。まずは電話で受け入れのお願いをするのですが、人材派遣会社の営業だと思われ、早々に切られてしまうこともあります。PREXの事業を効果的に説明できるよう、自分なりに話術も磨かなければなりません。PREXのスタッフは、学びの場を提供するファシリテーターです。研修が始まれば、半日ずつ研修先をアレンジしていきます。たくさんの人の希望を聞きながら調整することが好きな人に向いている仕事なのかもしれません。

国際交流部部長の瀬戸口恵美子さん国際交流部部長の瀬戸口恵美子さん

自身の中に「柱」を持って
更に頼りになるメンバーとして

JICA海外協力隊の経験者を採用したのは、2013年が最初です。PREXでは、海外に興味がある方を新卒から育てていたため、中途採用の方がこの組織にうまく馴染むことが出来るか、不安がありました。しかし、協力隊経験者の方は海外とのコミュニケーションにも壁がなく、新しい業務にも臆することなく「何でもやります」という姿勢が素晴らしかったです。初めて協力隊経験者で採用したこの方は、ご本人の都合で3年弱で退職されましたが、こうした人材の魅力に惹かれ、2019年には2名の協力隊経験者を採用しました。今では頼りになる中心メンバーになっています。

2020年に採用した佐賀千紘さんも3年目になり、今ではさまざまな業務を任せています。例えば、ベトナムに進出している日系企業のリーダーを目指す職員を育てる「ベトナム人リーダー育成研修」は、PREXが毎年行っている重要な事業ですが、この研修は佐賀さんが中心となって運営しています。

佐賀さんは先日、大学からSDGsをテーマにした学生講義の依頼を請けてきました。以前は食品メーカーの営業職として活躍していた佐賀さんですから、こうして自分なりのネットワークを使って企画を立ち上げ、仕事にしていくことも得意ではないかと私は見ています。

私が現在の部署に配属された時、上司から「自分の強みを見つけて育てなさい」と言われました。アジアについてはすでに詳しい職員がいたため、中央アジア諸国に注目しました。旧ソビエト連邦の崩壊があり、中央アジアや東欧の国々に日本が援助を行う、新しい流れがあったからです。プライベート旅行でウズベキスタンを訪問したのを足掛かりに、ロシア語圏を自分の「柱」に育てたことは、仕事をする上で大きな財産となっています。

3年目というのは、ようやく仕事の全体像が理解できる時期だと思います。開発途上国への想い、行動力、コミュニケーション能力などは十分に持っている佐賀さん。今後は、「この分野は私が一番知っています」と自信を持って言える「柱」を、一つずつ作っていってもらいたいですね。

JICAボランティア経験者から

国際交流部 佐賀千紘さん
(エチオピア/コミュニティ開発/2017年度派遣)

高校生時代からの憧れ
現地で学んだ知識の大切さ

高校生の頃、JICA海外協力隊の募集ポスターを見て、アフリカの子どもたちの眼差しに惹かれました。その頃から協力隊が憧れになり、大学3年生の時にはフィリピンの孤児院でボランティアを体験しました。新卒で入社した食品メーカーでの営業職は、性格的にも向いていたと思いますが、協力隊への夢が諦められず4年後に退職。すぐに合格する自信がなかったため、ベトナムやフィリピン、オーストラリアでボランティア活動や英語研修を2年ほど行った後、協力隊を受験しました。

派遣されたエチオピアでの活動は、JICAの技術プロジェクト「飲料水用ロープポンプの普及による地方給水衛生・生活改善プロジェクト」によってエチオピア国内の村々に設置されている、ロープポンプ(注1)の利用状況を調査することでした。設置後に壊れても直されず、使われないポンプがあったため、その理由を調べて改善策を提言するのが私の任務でした。

調査を通じて、修理材料の不足、材料供給網の不整備、修理技術者の不足などが判明し、コミュニティレベルで修理を行えるようになることが、ポンプの持続的な活用に不可欠と感じました。そこで、行政機関やJICAなどから予算を得て、村人たちを対象としたロープポンプの実践修理研修を企画。しかし、村人の参加者は2人だけで成果を上げられず、残念な結果となりました。悔しさと心残りな、痛い経験でした。

成果を上げられなかったのは、エチオピアの人たちの意識が低いことが原因ではありません。私が適切なアプローチ方法を知らずに、「これをすればいい」と勢いだけで企画したことが問題でした。材料や供給網に関する課題も、専門家の間では以前から指摘されていたことが判明。手探りで行動する前にまずはリサーチして、知識として蓄えておくべきだったのです。これ以降、知識の大切さを痛感し、現在も働きながら通信制大学院で学んでいます。修士論文のテーマは「住民はなぜロープポンプを直さなかったのか」。あの時の私に教えてあげるつもりで執筆を進めています。

エチオピアでコミュニティ開発隊員として活動した佐賀さんエチオピアでコミュニティ開発隊員として活動した佐賀さん

使命感ではなく近所付き合いの感覚
同じ地球に住んでいる人同士で仲良く暮らしたい

エチオピアでの2年間を振り返ると、私が何かしたことよりも、村の人たちに教えてもらったことのほうが多かったと思います。水が足りなくても、分け合い、助け合って生きていくことを教えてもらいました。ご近所さんが食事を分けてくれたりするなど、地域の優しさを感じたのは大切な思い出です。

就職先としてPREXに興味を持ったのは、エチオピアでの経験が影響しています。ロープポンプの調査の際、予算も車もない、ただのボランティアでしかない私は、すべての人から協力を得られたわけではありません。しかし、日本での研修経験を持つ公務員の方は協力的で、私の活動を支えてくれました。開発途上国から研修員を日本に招くことが、後になって国を超えたパートナーシップを構築し得ると知った体験です。

JICA海外協力隊でエチオピアに2年間滞在したことで、アフリカを一つの大陸ではなく、特徴のある地域ごとに見られるようになりました。例えば、エチオピアでは9月に長期休みを取る慣習があるほか、宗教上の大切な休日もあります。仕事として研修に参加していても、参加者ごとの事情や気持ちを考えることは必要です。各国の人たちと接する時に、そうした事情や気持ちを自分事として身近に感じられることは、この仕事にも役立っていると感じています。

より良い研修を作るためには、やはり知識が必要です。現在、ベトナム人リーダー育成の他に、中小企業振興、貿易・投資促進、観光振興に関する研修も担当していますが、どの分野も知っておくべきことばかりで苦労しています。しかし、知識の大切さは協力隊時代に身に染みていますから、焦らずに毎日勉強しています。

PREXでもさまざまな国の人と関わっていますが、「貢献したい」「助けたい」という使命感みたいなものは私にはありません。同じ地球に住んでいる“ご近所さん”という感覚で、あるものは分け合いながら、一緒に仲良く暮らせたらいい、そんな思いで働いています。こうした気持ちになれたのも、エチオピアのご近所さんたちのおかげですね。

※このインタビューは、2022年10月に行われたものです。

注1:浅い地下水を古タイヤ等の丸い円盤とロープを使って安全かつ清潔にくみ上げる簡易井戸のこと

国際交流部の佐賀千紘さん国際交流部の佐賀千紘さん

PROFILE

公益財団法人太平洋人材交流センター
設立:1990年
所在地:大阪府大阪市天王寺区上本町8-2-6 大阪国際交流センター2階
事業概要:
・開発途上国の行政官や経営者を対象とする研修事業
・海外からの留学生を対象とする研修事業
・日本企業で働く外国人社員を対象とした研修事業
・人的ネットワーク構築事業
・SDGsの実現とダイバーシティへの貢献事業
・関西企業の国際化支援事業
協力隊経験者:1人(2022年10月現在)
HP:https://www.prex-hrd.or.jp/
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