静岡県教育委員会JICAボランティアの経験が、
「頼もしい教員」を育ててくれる

  • グローバル人材の育成・確保
  • 研究・教育プログラムの強化

視野の拡大を期待して教員の現職参加を推奨

当県では、教員が目指すべき姿を「頼もしい」という言葉で表現しています。具体的には、「教育活動への深い理解と熱意」、「専門領域への精通」、「広い視野」、「心身の健全」といった資質を備えることで、児童・生徒に信頼される教員像をイメージしています。 教職員研修の体系も、こうした教員の養成につながるよう「JICAボランティアへの現職参加」を「特別研修」のひとつと位置づけ、これを奨励しています。開発途上国での活動や異文化体験によって「広い視野」を中心とする幅広い資質の向上が期待できるからです。毎年、「現職教員特別参加制度」によって5人程度の教員が協力隊に参加しており、現在も11人が派遣中です。 さらに、当教育委員会ではJICAボランティア経験者の採用も積極的に行っており、教員採用試験では平成22年度からJICAボランティア経験者に対して筆記試験の一部を課題作文に替える特別措置を設けています。現在までに、この枠で21人が採用されています。

静岡県教育委員会 教育長
安倍 徹さん

子どもの心の内を察する力

JICAボランティアを経験した教員の働きぶりを見ていると、異文化社会でボランティア活動に取り組む経験は、実際、日本では得られないさまざまな気づきや学びがあり、教員としての資質を高めてくれるものだと実感します。特に私が重要だと考えているのは、「子どもの心の内を察する力」が養われる点です。

 教員というのは普段、いわば「強い立場」に置かれています。何かを「教える」人間だからです。ところが、ボランティアは派遣国で現地社会のマイノリティとして「弱い立場」に置かれます。その土地の言葉も文化もよくわからないという心細さや孤独を体験することにより、「弱い立場」に置かれた人間の内面をより深く理解できるようになります。これは教員として働く者にとって非常に貴重な体験です。児童・生徒は誰でも多かれ少なかれ孤独や不安、悩みを抱えており、そうした心の内を察することは、教員が彼らから信頼されるための大前提だからです。

 当県の場合、浜松市や富士市を中心に、ブラジル人やペルー人など外国人の児童・生徒が大勢います。彼らは当然、日本人の子ども以上に心細さを抱えているため、教員には子どもたちの心の内を察する力がより強く求められます。

 もちろん、外国人の児童・生徒に対応するうえで、JICAボランティアの経験で培われる語学力や異文化についての知識などもおおいに生きてきます。子どもたちは日本語への慣れも早いのですが、保護者の方々は日本語がほとんどわからないという方が大半です。そういうなかで、「子どもの体調が悪くなった」「子どもが給食の献立を嫌がって食べない」といった話を保護者に伝えなければならないような状況での対応能力は、JICAボランティアを経験した教員とそうでない教員とでは、格段の差があります。

教員研修ではJICAボランティアの体験談の発表も

JICAボランティアに現職参加した当県の教員のなかには、帰国後、地域活動に積極的に携わっている人もいます。これは、JICAボランティア経験で養われた行動力のひとつの表れではないかと思います。たとえば、ある女性の高校教諭は、地域のボランティアグループによる途上国支援活動に協力しようと、勤務先の学校の生徒たちに募金活動を呼びかけたりしています。このように、教員が学校の中で仕事をするだけにとどまらず、地域に出て、教員以外の人たちとともに社会貢献活動などに取り組むというのは、教え子たちに非常に良い影響を与えます。そういう教員の姿を見て、子どもの視野が広がり、地域社会に積極的にかかわっていこうという意欲などにつながっていくからです。

 一方、JICAボランティアを経験した教員は、同僚の教員たちにも良い刺激を与えてくれます。すべての教員がJICAボランティアに参加するというのは難しいですが、参加した教員が周りにいるならば、その人から学ぶことができます。そのため、当県では教職経験5年の教員を対象にした研修のなかで、JICAボランティアを経験した教員に体験談を話してもらうコマを設けたりもしています。これは同時に、JICAボランティアへの現職参加を希望する教員が増えることを狙ったプログラムでもあります。

 以上のように、JICAボランティア経験は「頼もしい教員」の養成にさまざまな形でつながると評価していますので、当教育委員会では今後、これまで以上に現職参加や経験者の採用の規模を拡大していきたいと考えています。

PROFILE

静岡県教育委員会
所在地:静岡県静岡市葵区追手町9-6
公立学校の教員数:27,281名(2012年5月現在)
協力隊現職教員特別参加制度経験者数:37名(2013年2月末現在)

HP:http://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/
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