住友化学株式会社新たな部署の立ち上げに青年海外協力隊OBのグローバルな力が必要でした

  • グローバル人材の育成・確保
  • 開発途上国へのビジネス展開
  • CSR活動
  • 開発途上国への物品提供

"ジャパニーズ・テクノロージ・メイド・イン・アフリカ"

昨年、業務を拡大したベクターコントロール事業部は全21名で構成しており、そのうち6名が青年海外協力隊OBです。事業部を立ち上げる時に優秀なメンバーを集めようとした結果、自然とそのような形態になりました。

 弊社の求める「困難に挑戦する強い意志と異文化圏で協働できる柔軟性と調整力」を兼ね備えている人が協力隊経験者に多く、私も大きく期待を寄せています。弊社では1969年という早い時期から協力隊経験者の採用をしており、農薬事業の技術的な要員として活躍していました。現在、関連会社も含め20名強の青年海外協力隊OBがおりますが、80年代に採用されたメンバーも今回の事業で再徴集しています。日本を離れて現地に出て行ったバイタリティを生かして、この事業のメインエンジンとして動いていただきたくて集めました。また、経験者が従事していることは他社からもリスペクトされているようです。

 彼らは、若いときに海外ボランティアで自らが率先して動いた経験をベースにこの事業部で仕事をしており、現地の人たちの生きがいにも繋がるような進め方をしています。体験しているのと、机上でしか学んでいないのとでは大きく違っていて、私も羨ましく思います。

 任せた仕事は彼らが率先してやってくれますし、あまり心配はしていません。ただ、年齢層が少し高めなので無理するなよと言っていますが(笑)。事業部は昨年の10月にできたばかりで、今年の1月にメンバーに入ってきた協力隊経験者もいますので、まだ評価するまでには至っていませんが、現地での土地勘とか言葉とかは染み付いていて、青年海外協力隊の経験で培われたコミュニケーション能力を生かせる場で働いてもらっていると思います。

 事業部は相当にチャレンジングなことをやっています。オリセットネット(蚊帳)は、WHOPES(世界保健機関殺虫剤評価スキーム)に合格しており、アフリカ支援、技術無償供与、生産拠点拡大を目指しています。日本ではなく現地に生産工場を置くことで、CSRの観点からみて、現地の経済発展、雇用拡大、貧困削減にも繋がってるのではと考えています。国連が掲げた「新世紀開発ゴール」では、感染症やエイズ、結核の蔓延を防止するという課題があり、マラリアについては蚊帳が非常に重要だと言われています。

 西アフリカではフランス語、東アフリカでは英語中心ですが、青年海外協力隊経験によりスワヒリ語を話せるスタッフも2人いますし、単純なコミュニケーションにしろ、距離感をスッと縮めるというか、そういう言葉を使えるので、一瞬で輪に入っていけます。現場が好きな人たちが、議論を重ねて、この事業をより良くしています。

 たぶん青年海外協力隊に行かれた方は「いま実行したい」という意識が高いと感じます。チャレンジングな仕事に対して失敗を恐れない人材が多いですね。蚊帳は欧米の会社で競合が多く、私どものシェアは3割程度です。だからこそ、営業が果たす役割が大きく、理系的な知識も駆使し論理的にアプローチすることが必要です。

 "ジャパニーズ・テクノロージ・メイド・イン・アフリカ"というものをテーマに掲げています。アフリカでも高い品質が保持できるよう、技術支援もしっかり行なっています。成果をどんどん上げていけるメンバーだと自負していますので、これからJICAボランティアを希望される方は弊社の松下と中西の経験談を参考にしていただければと思います。

※ オリセットネット - 感染予防のために防虫剤を練り込んだ蚊帳

ベクターコントロール事業部長
水野 達男さん

 

JICAボランティア経験者から(1)

3年9ヶ月のつらくも楽しい活動は今の仕事で生かされています

小さい頃から、1度日本を離れて世界を見たいと漠然と思っていました。しかし、家は裕福でなかったため、自力でどうしたら海外に出られるかを考えていました。高校生の時に、青年海外協力隊のことを知ってからは、その活動で海外に出ようと決めました。大学では土壌環境学を専攻していたので、応募する時には農業関連の職種を探し、大学卒業と同時に青年海外協力隊に参加しました。2年の任期を終えて、追加で1年9カ月赴任し、合計3年9カ月行ってきました。

 任地であるタンザニア北部ヴィクトリア湖の湖畔の町に住む家はありましたが、プロジェクトの現場まで距離があったため、大半はテント生活をしていました。水道も電気もなく、キャンプのような自炊生活です。最初のうちは警戒していた近くの人々も、数か月後には食べ物を持ってきてくれたりして、コミュニティに溶け込めたのが良い思い出です。私たち日本人の方が絶対的に裕福なのに、たくさん出来たからと言って作物を分けてくれる、その気持ちがありがたかったのを覚えています。ウガンダとの戦争直後だったので、もちろん危険なこともありましたが、人と人のつながり、人の温かさに触れることができました。

 帰国後は海外出張が多く海外でもチャレンジしている住友化学を選び、入社して2年目からは協力隊の経験を生かしています。担当の仕事はマラリアを防ぐ仕事。私はタンザニアに派遣中、マラリアに6回かかったこともあり、そして子どもや抵抗力の弱い妊婦さんが何人かなくなるのを目の当たりにしてきました。こんな簡単に人が死んでしまうなんて…。何とかしたいという思いが、いまの仕事に生きています。去年12月にオリセットネットの部署に異動して以来、当面はこの製品の普及に注力したいと思っており、やりがいを感じています。

 私は今も協力隊時代の仲間と会っています。協力隊のおかげで一生つきあえる友人とアウトドアの楽しみを得ることができました。いつか、センチメンタルジャーニーじゃないですが、現地にみんなで行ってみたいと思っています。協力隊の経験は必ず社会で生かせるので、若い人で悩んでいる人がいるなら真剣に参加する方向で考えてみてはどうでしょうか?

ベクターコントロール事業部 マーケティング部長
松下 敏明さん
(昭和54年度派遣/タンザニア/土壌肥料)

JICAボランティア経験者から(2)

定年したらシニア海外ボランティアで、また現地の人々を励ましたい

ベクターコントロール事業部 技術開発部チームリーダー
中西 健一さん
(昭和56年度派遣/ケニア/土壌肥料)

大学では農学部農芸化学科で土壌肥料学を専攻し、海外農業研究会というサークルに入っていました。理由は夏休みに西表島に行けるからという安易な理由でした。そのサークルの先輩が協力隊の活動を終え帰国され、現地での活動を聞いて、何となく私も行きたいなと思いました。大学院に進学することになっていましたが、協力隊の試験に合格してしまい、今しかできないことをしよう!と一念発起して参加を決意。しかし、任務は現地の農業に携わる人が通う単科大学(専門学校)の講師で、自分のレベル不足に非常に不安を感じ、そのため、1次隊で参加する予定だったのを3カ月遅らせてもらって、技術補完研修を受け、それから参加したため、2次隊で派遣されました。2年間、協力隊の活動をして、帰国後は、同じサークルの大先輩で、且つJOCVのOBが住友化学に勤務されておられ、その方から誘いがあり、面接試験を経て、入社することが出来ました。

 現地に派遣されてからは英語との戦い。もともと英語が出来ず、さらに日本人スタッフが多かったため、英語は上達せず、講義のシナリオを作って、それを暗記して教えても、生徒が首をかしげていることが多く、結局、授業の最後に配布する英文資料で、何とか理解してもらいました。ただ、化学実験などの実習では、生徒たちが目を輝かせることも多く、研究熱心な生徒もいて、教え甲斐を感じました。

 現地でマラリアに1度かかったことがあります。赴任して最初の3週間、現地訓練として、田舎の大家族の家でホームステイをした際、感染したと思われ、勤務開始からわずか一週間ほどたったある夕方、突然、すごく寒気を感じ、ガタガタ震えた後、高熱が出ました。翌朝には、熱が下がっており、赴任したばかりで、軟弱なやつと思われたくなかったので、何もなかったふりをしていました。3日おきにそれを2回繰り返しましたが、2回目の朝には、起き上がれず、専門家の方が様子を見に来られ、マラリアであることを教えられ、あわてて治療薬を飲みました。

 そんな経験がこの会社での仕事に生きています。いま販売しているオリセットネットを普及させるために、マラリアの怖さ、アフリカの現状を知っていることが、非常に重要になっていると思います。オリセットネットをもっともっと普及させて、マラリアに感染する人々の数を減らしていきたいです。そして、定年後はシニア海外ボランティアも視野に入れています。風が日本より合うような気がします。いま若い人は、安定志向の人が多いようですが、日本と違う 異文化の地域で、挑戦し、経験することに燃えてみるのもいいのではないですか。

※2011年8月29日読売新聞朝刊に掲載されたコチラの記事もご覧ください。
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※2012年1月18日に掲載された「JICAトピックス:住友化学との連携でタイに防虫蚊帳を供与」もコチラからご覧ください。

PROFILE

住友化学株式会社 ベクターコントロール事業部
CSRのシンボルになる事業へ

以前は当社でも、日本で製品を作って現地で売るという枠組みのビジネスが中心でしたが、今ではグローバリゼーションのあり方が変化し、現地で作って現地で売るという展開が主流になりつつあります。それと同時に、企業の社会的貢献(CSR)ということ、つまりはコアとなる事業を通じた社会貢献が強く求められています。そうした意味では、住友化学の殺虫剤の技術を生かしたオリセット事業において、アジアやアフリカで数千人の雇用を実現し、事業内容が世界保健機構、ユニセフなどの国際機関や各地域での保健事業にも役立っているという当事業部でのビジネスは当社のCSRのシンボルとなりつつある、非常にやりがいのある事業です。事業部員一丸となって、ここ数年で生産体制も大きく拡充し、アフリカを中心に1億張以上の普及をめざしていきたいと思っています。その際に、6名の青年海外協力隊経験者が事業部のエンジンとして他の社員にも好影響を与えるとともに、必ずや大きな成果を出してくれると確信しています。
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