スイス公文学園高等部グローバル人材の育成者に求められる
「異文化衝突」の経験

  • グローバル人材の育成・確保
  • 開発途上国へのビジネス展開
  • 研究・教育プログラムの強化

国際教育に必要な「生身の経験」

スイスに校舎を構える本校は、1990年に学校法人公文学園が設立した日本人のための高校です。日本の「在外教育施設」の認定を受け、日本のカリキュラムに沿った教育を行っていますが、理念は「グローバルな視点に立って思考し、行動できる人材の育成」。これに基づき、「国際教育」「英語教育」「人間的成長」の3つを柱とした教育を行っています。

 2013年6月現在、183人の生徒数に対して教員は31人。その半数は米国や英国、カナダ、ニュージーランドなど英語圏の出身であり、それにより高いレベルの「国際教育」や「英語教育」が実現できているのではないかと思います。毎年、卒業生の約30パーセントは英語圏を中心とする日本以外の国の大学に進学しています。一方、「人間的成長」については、全寮制を生かした細やかな生徒指導などにより、生徒の社会性や自立性の育成に力を入れています。

 各国の教員が集まっていることから、学校の中は「グローバル村」の様相となっています。本校としては、いわば「国際教育の生きた教材」ともいうべきこの環境を上手に生かし、外国人教員との交流のなかで生徒たちに「異文化」についての理解を深めさせたいと考えています。生徒が日本人教員に持ち込んでくる相談事の半分は、文化や価値観の違いからくる外国人教員への不満です。外国人教員との間でそうした「異文化衝突」を経験している生徒がいたときに、日本人教員が「外国人教員とどのように理解し合うか」を適切に指導することができれば、その生徒の異文化についての理解は進みます。本校では現在、4人のJICAボランティア経験者が教員を務めていますが、彼ら自身が途上国で暮らした経験に立って行う「外国人教員とどのように理解し合うか」についての指導の力は、さすがだと思わされます。

 たとえば、よくある相談事のひとつは、生徒が校則違反をしたときの対応についてです。生徒はやむを得ない事情があって校則違反をすることもある。その場合、日本の一般の学校だったら、どういう事情で違反をしたのかを斟酌し、「今回だけは見逃す。次からはしないように」と説諭して終わりにすることもあります。ところが欧米の教員は、生徒に「すべての事柄は結果を伴う(Everything has consequences.)」と理解させる姿勢がスタンダード。「あなたも大変だったでしょう。しかしルール違反はルール違反です」と言って、容赦なく罰則を与える。すると、生徒からは「普通はあんなやり方はしないですよ!」という不満の言葉が出てくるわけです。

 生徒がこのようにして外国人教員に対して文化の違いによる不満を感じたときこそ、「異文化理解」について学ばせるチャンスにほかなりません。彼らが口にするこの「普通」とは何なのか、それは「日本の普通」にすぎないのではないか。それに気づかせるような対応ができるかどうか、相談を受けた教員の力が問われるところです。その点、JICAボランティア経験者はそれをこなす力が備わっている。外国人教員のやり方に不満を持つ生徒に対して、異文化間の衝突を乗り越え、その教員との相互理解に進むための方法を生徒が自分の頭で考え抜くためのファシリテーションを行うことができる。

 このような指導は、「異文化理解とはこういうもの」と頭でわかっているだけではできません。自分自身が異文化の人間のやり方に対して怒りを感じ、相手にきちんと自分の考えを伝えようと踏ん張った「生身の経験」があって初めて、外国人教員と文化のギャップで悩む生徒たちの心がわかるのです。途上国に赴いて2年間、現地の人と一緒に仕事をしていれば、異文化衝突の連続でしょう。JICAボランティア経験者はそうした「生身の経験」を持つ人材だからこそ、異文化理解の指導について着任時から安心感があるのだと思います。また、この点こそ、JICAボランティア経験者を本校の教員に積極的に招いてきた理由でもあります。

 もちろん、JICAボランティア経験者は、多くの日本人が知らない途上国の文化についてたくさんの情報を持っていますから、そうした話題を授業で提供すれば、生徒は食いついてきます。たとえば、アフリカで理数科教師として活動したある教員は、「アフリカの田舎の人たちは、周囲に自然の景色しかないから、『直線』という概念がわからないんだよ」といった話をしていました。こうした話は、生徒にとって非常に興味深い。しかし、異文化理解というのは、アフリカの文化を模造紙にまとめて説明すれば一丁上がりというものではないでしょう。外国の文化に関する情報を持つことは、生徒にとってあくまで異文化理解の「導入」にすぎません。JICAボランティア経験者が生徒に与えることのできるより深いレベルの異文化理解というのは、外国人との衝突をどう乗り越え、どう相互理解にまで進むかについての知恵にほかならないのだと思います。

校長
渡邉 博司さん

外国人と働く力

本校では当然、日本人教員と外国人教員との間にも異文化衝突は存在します。先ほど申し上げた「校則違反」の例一つとっても、「日本の学校ではあんなやり方はしないのに」と感じる日本人教員もいるはずです。そうした文化のギャップに対応する力を持っていなければ、ここで教員の仕事は務まりません。なかには、「異文化ストレス」によって行き詰まってしまう日本人教員もいます。

 その点、JICAボランティア経験者は外国人と働く力はまったく問題がない。「あなたは間違っている」と決めつけることなく、相手の話をじっくり聞いたうえで対応策を考える。そういう、外国人と働くうえでの基本ができている。本校で教員を務めるJICAボランティア経験者のうち、古い人ではすでに20年ほどのキャリアになります。彼以降、気がついたら日本人教員の3分の1近くがJICAボランティア経験者になっていた。彼らは外国人と働く力がそれだけ強いということなのだと思います。その意味で、JICAボランティアという制度が日本人の国際化に果たす役割は非常に大きいのではないでしょうか。

 日本の学校のなかでは先陣を切って「英語教育」や「国際教育」を実践してきた本校ですが、現在は日本国内でもこれらに力を入れる学校は増えています。そんななか、本校では新たなプログラムを導入するなどして、「国際教育」や「英語教育」に関するさらなる独自性を打ち出していきたいと考えています。そこで期待するのは、JICAボランティアを経験された方々の力。「異文化の人たちとどう理解し合うか」について、自らの「生身の経験」に立って生徒への指導ができるJICAボランティア経験者が、さらに本校の教員に加わり、グローバル人材の育成にその力を発揮していただきたいと考えています。

PROFILE

スイス公文学園高等部
創業:1990年
所在地:スイス連邦ヴォー州レザン
生徒数:183名(2013年6月現在)
協力隊経験者教員:4名(2013年6月現在)

HP:http://www.kumon.ac.jp/klas/
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