認定特定非営利活動法人Teach For Japan教育の重要性を知る
JICA海外協力隊経験者と共に
日本の教育を変えていく

  • グローバル人材の育成・確保

認定NPO法人Teach For Japan(以下、TFJ)は、世界60か国以上に広がるTeach For Allというグローバルネットワークの加盟団体として、「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」というビジョンを掲げて活動している。今回、TFJの選考・研修担当である池田由紀さんに話を伺った。

毎年多くの協力隊経験者が参加
学び続け、変化を起こせる教員を輩出

TFJでは、教育に対して強い思いがあり、公教育を通じて社会課題を解決していきたい、教育改革に取り組んでいきたいという人たちを選考して一定期間研修を行った後、連携する自治体に教師(フェロー)として配置する「フェローシップ・プログラム」を実施しています。これまでの参加者数は200名以上で、関わった子どもたちの人数も2万名を超えました。年齢は新卒から50代半ばまでと幅広く、前職も大手企業や自営業から、海外勤務や留学経験がある方やTFJの現代表のように元アスリートだった方まで、多岐にわたります。

私もフェロー3期生として、2015年から奈良県の小学校に赴任しました。同期13人のうち協力隊経験者は3人いましたし、それ以降も毎年必ず数名はいますね。というのも、このフェローシップ・プログラムは、JICAボランティア事業と親和性が高いからだと思います。プログラムでは、様々なバックグラウンドの人と一緒に赴任前研修を受け、国内の色々な地域に配置されて2年間フェローとして活動します。赴任先がご自身のこれまで住んだことのない地域になることもありますが、協力隊出身の方はそういったことを不安に思うよりも楽しんでいる印象を受けます。知らない地域に飛び込んで、その地域を知りながら活動していくということに前向きな方が多いようです。途上国の現状を見てきたことで、教育や社会課題への関心が高いと言うのもTFJにフィットする理由だと思います。

現在、教員の数が足りないことが深刻な問題となっています。その結果、年度始めに担任が発表できない、教頭先生が授業をしなければならないなどの現状があります。TFJは、教員不足の解消のために始まった団体ではありませんが、まずはこの状況を少しでも改善するために、教員になる人を増やしていくことは重要だと考えています。一方で、単に教員の数が充足されればよいわけではなく、教育環境の在り方自体を変化させていくことこそが本当は重要であり、そこをしっかり捉えて活動していく必要があると考えています。

そのキーワードは「学習観」。「人は主体的に学ぶことができる」ということを理解しているつもりでも、それが教室にきちんと反映されているのかというと実際はなかなか難しく、結局、暗記や訓練のようなスタイルになってしまったり、テストの点数そのものが学力であると捉えられてしまったりしています。その現状を変化させていくために、「学び」や「学習者」の捉え方を、私たちが受けてきた教育に由来するような従来のものから転換させた人が学校現場にいくことが大事だと思いますし、そこは研修でも大切にしています。

TFJは、教員には「学び続ける力」「変化を起こす力」など、いくつかの資質能力をフェローにとって重要なものとして設定しています。時代がどんどん変わっていく中、教員に求められる力も変化し続けなくてはなりませんから、教員自身が自分で考え、学び続けることが非常に大事です。何をすべきか、何がしたくてこのプログラムに参加しているのかということに常に向き合い、主体的に変化を起こしていけるフェローになってほしいです。

しかし、実際は現場に赴任してから、たくさんの壁にぶつかります。そこで、TFJでは定期的に研修の機会を設けたり、同じビジョンを共有するコミュニティを発展させたりしていくことで、一人一人の悩みに寄り添い、対話を通じた支えになることを目指しています。そういったコミュニティが日本だけでなく世界に広がっていることが、TFJの一つの強みです。

選考・研修担当の池田由紀さん選考・研修担当の池田由紀さん

教員免許の有無にかかわらず
教育を志す人がしっかりキャリアパスを選べる世の中に

TFJは、教員免許の有無にかかわらずフェローを採用しているので、免許を持たない人には、自治体から臨時免許や特別免許を出していただきます。TFJの掲げるビジョンに共感し、協働できる自治体と連携していますが、多様な教員を活用していこうという国の方針はあるものの、まだ前例も少ない中で、判断に悩まれる自治体があるのも事実です。

2022年度は、16都府県42市区町村に教員が赴任中で、中には教員採用試験とフェローシップ・プログラムを同時に受けて、合格した自治体に赴任しながらプログラムに参加している人もいます。昨年からは、現職教員もプログラムに参加できる制度を新たにスタートさせました。また、石川県加賀市とはフェローシップ・プログラムを軸とした包括連携協定を締結し、学校を中心とした街づくりに向けて協働するなど、行政や企業など様々なセクターを巻き込みながら、教員の配置にとどまらない取り組みを模索しています。

教員になりたい、教育に携わりたいという人たちは、世の中にたくさんいます。人生100年時代といわれる中、教員免許の有無ではなく、キャリアの途中で教育を志したい人が、しっかり教育分野でのキャリアパスを選べる環境を作ることが大事です。そういう人たちが必要な準備をして現場に入れる環境をしっかり作りたい。そして将来は、国や自治体を巻き込んで、その道筋が当たり前になるような世の中にしていきたいです。

途上国の教育事情を知るJICA海外協力隊経験者からは「様々な社会課題を解決する鍵は教育にある」という声も聞かれます。今後もJICAの帰国隊員向け説明会への参加やPARTNERでの求人を通じて、同じ思いを共有するJICA海外協力隊経験者とのつながりを深めていければと考えています。

JICAボランティア経験者から

佐藤瞬さん
(ベリーズ/小学校教諭/2012年度派遣)

JICA海外協力隊と研究者
教育を見つめる二つの視点

小学生の頃から「先生」という職業に憧れていました。豊富な知識への羨望と、当時はうまく言語化できませんでしたが、教育こそが社会を変え、変革をもたらす根底にあるものではないか、という思いを抱いていました。

大学3年の時、フィリピンでの語学研修に参加し、巨大なゴミ山の近くにあるフリースクールを訪問しました。フィリピンの公用語はタガログ語ですが、そこでは英語を教えていて、月謝はたったの1ドル。それでも払えない家庭が多い貧困地域です。しかし、子どもたちが「将来はパイロットになりたい!」と夢を語るなど、英語を学習することで彼らの世界が広がっていく様子を見た時に、このまま日本で教員になることしか考えていなかった自分の視野の狭さを感じました。もっと目を向けなければならない課題があるのではないか―そんな思いから大学院で国際教育開発を学ぶことにしました。

しかし、その中で感じたのは、自分が「現実」をよく理解していないということだったのです。指導教官に相談するとJICA海外協力隊への参加をアドバイスされ、小学校教員の免許を持っていたこともあり、休学して参加することを決めました。

派遣された中米のベリーズでは、少数民族ガリフナが住む地域の民族学校で理数科の指導を担当。また、サマースクールでは、他の隊員と情操教育を行ったり、現地の教育省と連携して教員研修などを実施したりしました。ガリフナは、カリブ海沿岸から移住してきたアフリカ系の人々で、自分たちの文化や伝統を大切にしています。職員会議は英語ではなくガリフナ語で行うこともあり、教員が自分たちの職業に誇りを持っていることが分かりました。

私は、実際に教壇に立つことが初めてだったことに加え、英語力も足らず、自分の教育技術の無力さを強く感じました。2年間の成果を問われれば、微々たるものしか残せなかったという自覚があります。一方で、大学院を休学して参加することで得られたことも大きかったです。研究対象としてのガリフナは非常にユニークで、自らの伝統・文化を守り、育むために学校やミュージアムを設立し、ガリフナ語の辞書を作るなど、興味深い活動を知ることができたからです。自分がJICA海外協力隊と研究者という二つの視点を持って活動できたことは、非常に良かったですね。

ベリーズで小学校教諭隊員として活動した佐藤さんベリーズで小学校教諭隊員として活動した
佐藤さん

教員から教材開発へ
「探求」を通してより豊かな人生を

ベリーズ滞在中から、貧困と教育をテーマに持ちながら、自身の教育技術の乏しさに対する無力感をどう克服するか、それは日本の枠組みの中で実践した方が、その課題に対してより向き合えるのではないか、と考えました。そこからTFJを知り、帰国後フェローとして研修を受けた後、神奈川県川崎市の公立小学校に派遣されました。

その学校は、いわゆる教育困難校と呼ばれていました。学校への信頼が崩れてしまっており、子どもたちが大人への不信感を爆発させている中で、当初の2年間から延長して4年間勤めました。そこで、自分は教育技術を身につけたくて現場に立ったものの、学校で一番大事なことは技術ではなく、児童との信頼関係やクラスのもっている雰囲気であることに気づきました。

今は学校現場を離れ、子どもたちがより豊かな学びを紡いでいけるような教材を作りたいと、探究学習の教材づくりの会社に勤めています。例えば、中高生向けの企業探究コースは、生徒がインターンとして企業について学びながら、企業から出されたミッションに応えていくような構成です。中高生に対して事業性のあるプランを求めているのではなく、企業というリソースや強みをいかして、どんな未来を創り出したいのかを考えてほしいのです。そのことを通して、生徒たちの世界や自分を見る目が拡がったり、深まったりすることに近づけるといいなと思っています。

JICA海外協力隊に参加して良かったと思う点は、二つあります。一つは、世界を見る目が複眼になったこと。これまでは日本と欧米の視点でしか世界を見ることができませんでしたが、ベリーズという途上国の視点から見た時の想像力の幅が広がりました。

もう一つは、多文化共生の難しさに出会えたことです。ベリーズ国内は、地区ごとに民族の住む地域が区切られていて、混ざり合うことはありませんが、それぞれの民族が誇りを持っています。混血がどんどん進む中で、一国の中でも多様さへのアンテナが大切だと感じることができました。

この経験は、川崎市でのフェロー時代に活かされました。多くの公立小学校でも同様ですが、私が担当したクラスでも多様な児童がいました。その状況でどのように関わっていくのが良いのかというセンサーは、自分がベリーズでマイノリティだった経験があるからこそ感じられる部分でした。また、ラベルを貼られることへの憤りも理解できるようになりました。

他国から見る視点や多文化共生の難しさを理解することは、専門書から回答を探すのと自身の経験を通して辿り着いたものとでは大違いです。知識の蓄積だけでは限界があると思いますし、この身体を伴った経験ができることが、やはりJICA海外協力隊の魅力だと思います。また、その国の人のために、自分はどのように貢献できるのかと必死になり、相手も必死になる中で見えてくるものが魅力的ですね。その協力隊経験がもたらす世界の見え方の変容は、自分の人生の中で非常に大きなものとなり、現在につながっています。

※このインタビューは2022年4月に行われたものです。

フェローとして川崎市の公立小学校に派遣された佐藤瞬さんフェローとして川崎市の公立小学校に派遣された佐藤瞬さん

PROFILE

認定特定非営利活動法人(認定NPO法人) Teach For Japan
設立:2010年
所在地:東京都港区新橋6-18-3 中村ビル4階
事業概要:自治体への教員派遣事業
協力隊経験者:常時複数名在籍
HP:https://teachforjapan.org/
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