辻プラスチック株式会社ソーラー事業はじめ高い技術力で新分野に
協力隊×留学生で
アフリカビジネスを継続させる

  • グローバル人材の育成・確保

辻プラスチック株式会社は1968年創業、プラスチック成形では老舗の企業である。2016年、ケニアで行われた「第6回アフリカ開発会議」(TICAD Ⅵ)に参加したことで、自社の技術がアフリカにおける社会課題の解決に役立つことを知り、ビジネスとして成り立たせることを目指して新たな事業をスタートさせた。ソーラー充電器などを開発し、現地利用者負担が少ないビジネスモデルの構築に成功。また、現地人材の積極的な活用を通じて現地ニーズを的確に把握し、アフリカでの事業をますます充実化させている。技術者でもある取締役の辻喜勝さんに、アフリカ事業のキーパーソンについて話を伺った。

自社の技術が社会課題の解決に
協力隊経験者の採用で広がる可能性

当社はプラスチック成形をメインとした会社ですが、2000年頃からほかの事業にもチャレンジを始めました。その一つがアフリカでのソーラー事業です。きっかけは、大阪電気通信大学の教授と共同で研究開発した、道路鋲です。これは道路に埋め込み、夜になると自動的に点滅してドライバーに注意喚起を行うという商品で、一つ一つに太陽光パネルと蓄電装置が入っています。普通のバッテリーは3年ほどしかもちませんが、この道路鋲には弊社の特殊な技術が使われており、電池の代わりになるキャパシタは20年以上の耐久性があります。警察など行政からの関心も高く、順調に売り上げを伸ばしていましたが、やはり国内需要には限りがあり、今後の事業展開を悩んでいました。

ある時、ケニアから大使館経由で依頼をいただき、弊社の道路鋲のサンプルを送ったところ、「第6回アフリカ開発会議」(TICAD Ⅵ)にて安全対策のプレゼンテーションをして欲しいと、国土交通省からオファーをいただきました。社名のブランド化に向けて国際会議に参加するのも良い経験になるのではと、その程度の感覚だったというのが正直なところです。まさか現地にニーズがあるとは思いませんでしたが、せっかくケニアまで来たのだからと現地の道路公団に道路鋲を売り込んでみたところ、そのままODAで機材を供与することになりました。

その後、JICAの中小企業海外展開支援事業(注1)「自発光道路鋲を活用した夜間の交通安全対策にかかる案件化調査」に採択され、タンザニアで調査を行いました。しかし、中国が作った道路に日本の道路鋲を埋めるのは政治的にかなり難しく、また、工事を担当する現地のビジネスパートナー選びも難航。そんな時、現地の人たちから「道路よりもまず私たちの家に電気をつけてくれ」と懇願され、自社技術で電気や水の問題を解決できるのではないかと閃いたのです。

当社は半導体の洗浄に必要な超純水も事業化しており、水についてもある程度の専門知識を持っていました。自社のソーラー電気技術と水の浄化システムを組み合わせることで、アフリカの人たちを助けたい。そんな想いで知人に相談したところ、「アフリカ事情も分からずに飛び込むのはリスクが大きい」「JICA海外協力隊の経験者がいるといいのでは」とアドバイスされました。実はこの時まで、私は協力隊を知りませんでした。

「一人でアフリカ出張に行ける人」という条件で求人を出したところ、周りから「そんな人はいない」と笑われましたが、すぐに地元出身の協力隊経験者から電話がありました。それが林佐紀さんとの出会いです。林さんはアフリカ愛に満ち溢れた人で、どの国にも興味があり、調査に行く時はその国の協力隊員などからさまざまな情報を収集しているようです。現地で活動している協力隊員とつながり、アフリカ中にネットワークを持っているところが魅力です。

取締役の辻喜勝さん取締役の辻喜勝さん

アフリカ留学生を育成
ビジネスパートナーとして起業をサポート

ソーラー事業のアフリカ展開に際し、協力隊経験者の採用と同じくらい大事なのが、現地のローカルパートナーです。少し時間はかかりますが、ABEイニシアティブ(注2)で来日している留学生に将来パートナーになってもらうことが、当社のような中小企業にとっては負担が少ないと考えました。たまたま、ウガンダの電力省で働いているABEイニシアティブ留学生がおり、現地のパイロットプロジェクトをサポートしてもらうことになりました。担当者はもちろん林さんです。

彼女にとって初めてのウガンダでしたが、ネットワークを駆使し、協力隊員の活動する村でパイロットプロジェクトの実施に成功。電気のない暮らしをする人たちに、一世帯一個ずつ充電式のランタンを配ったところ、とても感謝されたとか。従来の灯油ランプは燃料費がかかっていたため、その分を子どもの教育費に回せるという相乗効果も確認できました。

現在、当社で現地の方を受け入れ、長期インターン留学生として活動した3名が、セネガル、ニジェール、ブルキナファソでそれぞれ起業し、ビジネスパートナーになっています。セネガルの首都では、水道水の水質が悪く、ほとんどの人が水道水を浄化した「浄化水」を購入しています。インターン生とともに事業展開を検討した結果、今年7月に浄化水の販売店をオープンさせました。10リットル60円の売値は他社と比べて大幅に安く、しかも私たちの浄化装置は大腸菌などの菌を100%除去できるので安心です。さらに、装置のフィルター交換が競合他社は2週間に1回のところ、弊社はフィルターを毎日洗浄するプログラムを兼ね備えているため、5年ぐらい交換する必要がありません。また、自社のソーラーシステムで動きますからバッテリーも必要なし。現地では大変好評で、難民キャンプからもオファーが来ています。

自社技術が実際に役立ち、開発途上国の人たちが喜んでくれるのは本当に嬉しいことです。かつ、これが一時的な支援ではなく継続できるビジネスとして成り立っていくことを目指しているのが、他社さんとは違うところでしょうか。私は技術者ですから、アフリカで「トヨタの車は壊れなくていいね」と評判が高いように、弊社製品も「この日本製品はいいね」と言われる日が来ることを、心より願っています。

JICAボランティア経験者から

海外部 主任 林佐紀さん
(ニジェール/体育/2009年度派遣)

協力隊は人生のターニングポイント
アフリカに恩返しを誓う

高校時代の教員にJICA海外協力隊に参加された方がおり、考え方がワールドワイドで魅力的でした。私は子どもの頃からスポーツに熱心で、自身の核を作っていると感じるほどでしたから、スポーツをあまり知らない子どもたちに勝つ喜びや負ける悔しさなど、スポーツから学べるものを伝えたいという気持ちがありました。大学卒業後、中学校の体育教員を経て協力隊に参加しました。

派遣されたのは西アフリカのニジェールで、現地の中学生に体育を教えました。アフリカはサッカーが盛んで、授業でも人気がありました。ある時、生徒たちから「ボールをパンパンに膨らませると足が痛くなるからやめてほしい」と言われ、ハッとしました。私は毎回良かれと思って、空気をたくさん入れたボールを子どもたちに渡していたのです。気づけば、靴を履いているのは自分だけ。子どもたちは皆、裸足やサンダルで通学していたのです。なんて自分本位だったのだろうと、とても反省した思い出があります。

アフリカでの活動を振り返ると、自分が出来たことは少なかったのですが、現地の人々からは目に見えない大切なものをたくさんいただきました。生活が苦しくても食べ物を分け合い、お互い助け合って生きる人たちは、決して不幸には見えません。挨拶を大事にしていて、近しい人とはとことん親密な関わりを持つところも新鮮で、人としての温かさを感じました。アフリカで過ごした日々は、私にとって間違いなく人生のターニングポイントとなりました。いつかアフリカに恩返しをしたい、今後は彼らが成長できるよう、ボランティアという立場ではなく、対等なビジネスパートナーとして何かできたらいいなと考えるようになりました。

帰国後、協力隊訓練所で4年ほど勤務した後、アフリカに関わりをもつ商社で営業職に就いていました。そんな時、弊社がアフリカ事業の担当者を募集していることを知るとともに、自分の故郷でアフリカと関りある企業があることにいたく感動。製造業は初めてでしたが、商社と違って自分の手で作り上げた商品を売ることに魅力を感じ、また求人条件が「一人でアフリカ出張に行ける人」でしたから、とてもワクワクして応募の電話をしたことを覚えています。

ニジェールで体育隊員として活動した林さんニジェールで体育隊員として活動した林さん

協力隊ネットワークを駆使して
アフリカ全制覇へ

入社して4年になりますが、会社が私に期待しているのは、協力隊のネットワークです。ウガンダに初めて訪問した時も、同期隊員がJICAスタッフとして現地にいるとか、OB会を通じて派遣中の現役隊員とコンタクトが取れるなど、協力隊ならではのネットワークが役立ちました。協力隊の人たちはどこかで繋がっており、会社もそうした繋がりを評価していると思っています。

今、アフリカでは携帯電話の普及率が急増しています。電気のない地方でも携帯電話を持っている人は多く、単なるコミュニケーションツールでなく、お金を支払うために必要不可欠な所持品になっています。そうした地域には、携帯電話を充電する専門店があり、弊社のビジネスパートナーも西アフリカ3ヶ国でソーラー電気を使ったビジネスを始めました。今では、ソーラー充電器をサブスクリプション方式で貸し出し、それと組み合わせてLED ランタンを購入していただくなど、それぞれの国に適したビジネスが成り立つようになってきています。灯油ランプから日本のLED ランプに変わると、人々の生活もガラッと変わるので、皆さんとても喜んでくれています。

私の夢は、自分で作った製品をニジェールで販売すること。2011年に協力隊から帰国して以来、再訪することが叶いませんでしたが、ようやく来年1月に訪問できそうです。その時は、ニジェールの皆さんの前でソーラー充電器を組み立て、製品を説明して、それを使ってもらう。その様子を見ることが出来たら、こんなに嬉しいことはありません。恩返しの第一歩になるかなと思います。しかし、アフリカへの恩返しはまだ始まったばかりです。なぜなら、アフリカは54ヶ国もありますから。

※このインタビューは、2022年10月に行われたものです。

注1:民間企業が有する優れた技術や製品、アイディアを用いて、開発途上国が抱える課題の解決と企業の海外展開、ひいては日本経済の活性化も兼ねて実現することを目指す事業。企業の企画提案をJICAが採択し、双方間で業務委託契約を締結し実施する。現在は「中小企業・SDGsビジネス支援事業」と改称され、①ニーズ確認調査、②ビジネス化実証事業、③普及・実証・ビジネス化事業のメニューがある。
注2:アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)。アフリカの産業人材育成と日本企業のアフリカビジネスをサポートする「水先案内人」の育成を目的として、アフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するプログラムのこと。

海外部主任の林佐紀さん海外部主任の林佐紀さん

PROFILE

辻プラスチック株式会社
設立:1988年(創業1968年)
所在地:滋賀県東近江市五個荘奥町160番地
事業概要:熱可塑性樹脂の射出成形
アルミフレーム安全柵の設計製作
ソーラーアプリケーション(自発光道路鋲、ソーラー電源システム)
水浄化装置
協力隊経験者:1人(2022年10月現在)
HP:https://www.tsuji-pla.co.jp/
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