ヤマト運輸株式会社「グローバル研修」の一つとして
協力隊参加を推進

  • グローバル人材の育成・確保

「創業100周年を迎える2019年までにアジアNO.1の流通・生活支援ソリューションプロバイダーヘ」 こうした目標を掲げる「宅急便」など輸送大手のヤマト運輸株式会社は、グローバル展開を担う若手社員を育成するため、2014年からJICAの民間連携ボランティア制度を利用して、これまで3人の社員を青年海外協力隊として送り出している。人事戦略部人材開発課長の長谷部恵(はせべ・めぐみ)さんに、同社が求めるグローバル人材像や協力隊参加の狙い、今後の計画などについて聞いた。

充実した派遣前訓練

当社は現在、上海、香港、シンガポール、マレーシアに事業拠点を設立し、宅急便事業を展開しています。アジアでは、「TA-Q-BIN」として、日本生まれの高品質で細やかなサービスが定着つつあります。

ヤマトグループは、創業100周年を迎える2019年に向けた中・長期計画を2011年に策定し、その中で「アジアNO.1の流通・生活支援ソリューションプロバイダー」になることを掲げています。生活支援とは、例えば過疎地に暮らすお客様の買い物支援や見守りサービスのことで、宅急便を集配するセールスドライバーが「流通」だけでなく、お客様の「生活」そのものを支えるお手伝いをしていこうというものです。こうした国内での取り組みを踏まえて、海外でも各国のニーズに合わせてお客様に生活全体の利便性や安全、安心を提供していきたいと考えています。また当社では、海外と日本との間でモノの行き来が増え続けている今、アジアと日本を一つの経済圏と捉え、よりシームレスな物流を確立するため国際物流に精通した人材を育成していくことが急務となっています。

このような背景から、当社はグローバルに活躍できる若手人材を育成するため、2014年に「グローバル研修」の一つとして、当社の現地法人に半年間派遣する海外トレーニー制度を開始しました。ちょうど同時期にJICAから民間連携ボランティア制度を紹介いただき、当部担当者が福島県二本松市と長野県駒ケ根市にある協力隊の派遣前訓練を行っている訓練所を訪問、2014年にはインドネシアとカンボジア、2015年にはタイで実際に隊員が活動している現場を視察させていただきました。

そこで分かったことは、派遣前訓練、現地での活動サポート体制のどれをとっても、とても充実しているということでした。特に派遣前訓練は、語学研修をはじめ、それぞれの国やエリアでの生活や活動に必要な知識を集中的に学べるとても内容の濃いものでした。そして「これは是非、当社の「グローバル研修」の一環として利用させてもらいたい」ということになったのです。

JICAとの話し合いの中で、当社はアジアでの事業拡大を目指していることもあり、派遣先は東南アジア、派遣期間は1年という希望を伝えました。派遣期間は最長2年まで設定できたのですが、限られた時間の中で活動の成果を挙げることを学んでもらいたいと考え、1年間にしました。派遣する社員は、将来、海外事業にかかわりたいという意思のある社員と面談を行い、当時入社4年目だった広瀬徹(ひろせ・とおる)さんに決定しました。

人事戦略部人材開発課長
長谷部 恵さん

帰国後は国際物流の現場に

広瀬さんは2014年10月にインドネシアの南スラウェシ州にあるマカッサルに派遣されました。地域の環境管理事務所に所属し、家庭から出る資源ゴミを小学校に集めて現金化する「ゴミ銀行」というシステムを現地NGOと協力して導入するなど、環境教育の普及に取り組みました。赴任中は毎月、活動の報告を受けていたのですが、時を追うごとに現地での生活にも慣れ、活動が前に進んでいく様子が伝わってきました。また、広瀬さんは特技の柔道を生かして、小学生に柔道を教えるなど、充実した時間を過ごしたようです。

環境管理事務所からも、彼の派遣期間を延長して活動を続けてほしいというレターをいただきました。残念ながら、制度上希望には応えられなかったのですが、彼の活動が高い評価を受けたことに、とてもうれしく思いました。

広瀬さんは、協力隊に参加する前は法人のお客様向けの営業や、中部エリアの営業実績管理、販促活動などを行っていました。帰国後はグループ会社のヤマトグローバルロジスティクスジャパンで、法人のお客様のお荷物の輸出入手続きを行う貿易事務や、お荷物をより安全に発送するための作業を担当してもらっています。将来海外で活躍するためには、通関手続きなど国際物流の知識や実践の経験が重要になってくるためです。そしていつか、広瀬さんが思い入れの強いインドネシアを始め、グローバルに活躍する日がくるのを期待しているところです。

小学校でゴミの分別の大切さなど環境教育に取り組む広瀬さん(写真正面左)

コミュニケーション能力こそ協力隊の魅力

広瀬さんに続き、2015年には武内沙織(たけうち・さおり)さんと、森本大生(もりもと・だいき)さんの2人が協力隊に参加しています。武内さんは2015年9月からタイ北部ラムプーン県のウモーン町役場にある地球温暖化学習センターで、来訪者に環境問題の現状を伝えたり、現地の小中学校で日本の環境問題に対する取り組みを紹介したりするなど、啓発活動を行っています。森本さんは2015年10月からインドネシアのジョグジャカルタ特別州政府文化観光局に派遣され、観光資源の掘り起こしや観光客の誘致に取り組んでいます。

2015年10月、私はタイへ視察に行く機会があり、武内さんの活動を直接見ることができました。赴任後まだ間もない時期だったにもかかわらず、市長も参加する集会で武内さんがタイ語で環境問題に対する取り組みを説明する姿を目の当たりにし、とても頼もしく思いました。また、同僚の自宅に招かれて食事をすることもあると聞き、家族ぐるみで温かく迎えてもらっていることが分かり安心しました。

当社は、「グローバル研修」の一つとして青年海外協力隊を活用しているのですが、協力隊への参加を通して期待していることは、語学力そのものより、真のコミュニケーション能力が養われることです。日本で暮らしていては理解しにくい他国の人々の考え方や生活習慣に根差した文化を理解した上で現地の人々からニーズを探っていく、あるいは事業を行っていく上で現地の関係省庁や民間企業と協議や調整を行っていくためには、コミュニケーション能力が重要だと考えているからです。その国の地域社会に入り込み、意見やニーズをくみ上げ、各方面との調整を図りながら活動を前進させていく協力隊は、そうした能力を身に付ける貴重な場だと感じています。

近年、アジアではテレビやインターネットによるモノの販売が急速に拡大しています。これまで現地にはなかった当社の宅配サービスをシンガポールやマレーシアで提供しており、今後はそれを他の東南アジアの国々にも広げていきたいと考えています。生活支援サービスに関しても、各国のニーズを探りながら、どのような可能性があるのか検討しているところです。

今後もヤマトグループとして、グローバル事業の展開に向けた人材の育成を加速させるため、積極的に社員を青年海外協力隊として東南アジアに派遣していきたいと考えています。

PROFILE

ヤマト運輸株式会社
創業:1919年11月
所在地:東京都中央区銀座2-16-10
事業内容:「宅急便」など各種輸送に関わる事業
従業員:159,844人(2015年3月15日現在)
協力隊経験者:3人(2016年2月現在)
HP:http://www.kuronekoyamato.co.jp/top.html
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