プロジェクト終了後を見すえて~ローコスト自助具ワークショップ開催

11月2日から4日までの3日間、プロジェクトでは、ファブラボCSTにおいて、「現地で入手可能な材料を使ったローコストの自助具」に関するワークショップの開催を支援しました。このワークショップには、ファブラボのある王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)の工科大学生18人が参加し、インド・ケララ州から招へいしたアシーク・ハイダー・アリ博士(トラバンコール・リハCEO)の指導の下、主に木工機械を用いた自助具の試作に取り組みました。

このワークショップは、10月初旬にインド・チェンナイで開催されたインドの自助具技術の展示会「EMPOWER(エンパワー)カンファレンス」に出席した後、ケララ州トリバンドラムにある国立言語聴覚研究所(NISH)を訪れたプロジェクトマネージャーのカルマ・ケザンCST講師が、アシーク博士の取組みに注目し、急遽実現させたものです。招へいに関する博士との連絡調整や参加者募集、ロジスティクスのほとんどは、カルマ・ケザン先生のリードで行われました。

初日は、人の動作のメカニズムの理解に多くの時間がさかれ、さらに自助具設計に必要な対象者の対象部位の寸法をどのように取るかなど、デザインに関する要点の確認が行われました。工科大学の学生は、人の体の各部位の動きについて学ぶ機会が少ないので、この講義は貴重な体験となりました。2日目になると、段ボールを用いたプロトタイプの作成に時間がさかれ、実際にその自助具がどのように動作するのかの確認が行われました。また、この日には、ファブラボCSTの保有する材料の在庫の確認も行われ、調達が必要な資材については、夕方にプンツォリン市内に出かけて金物店などで調達が行われました。そして3日目は、これらの資材とファブラボの木工機械を用いて、実寸大のプロトタイプの製作が行われました。

これらの取組みを通じて、私たちは、ローコスト自助具の製作に取り組むにあたって、ファブラボで常備していないといけない資機材の在庫が、想像以上に広範で、しかも地元で調達可能なものが多いということを学びました。また、これまでは3Dプリンタにより出力するカスタマイズ自助具に注目することが多かった私たちの自助具技術の想定でしたが、木材を用いた自助具製作という新たな可能性を知ることもできました。アシーク博士からは、「時間をかけずにアジャイルに作れ」とアドバイスされました。作ってみてフィッティングし、合わないポイントを微修正する――このプロセスを3回程度繰り返せば、その利用者に最適な自助具に到達することができるだろうと博士は言います。

プロジェクトでは、2022年6月の渡辺智暁短期専門家によるニーズ調査において「地元障害児特別教育指定校(SENスクール)でのカスタマイズ自助具」へのファブラボの貢献可能性を見い出し、その後、2023年3月の林園子・濱中直樹短期専門家(ファブラボ品川)の招へい、7月のファブ・ブータン・チャレンジ、そして10月のEMPOWERカンファレンス参加、ファブラボブータンネットワーク会合に至るまで、「自助具技術」がファブラボCSTにおける取組重点分野として育つプロセスを支援してきました。ここでは、プロジェクトマネージャーのカルマ・ケザン先生が強力なリーダーシップを発揮し、周囲を巻き込んでこのアジェンダを推進してきました。

CSTでは、建築、土木、電気通信といった学科において、自助具技術をカリキュラムに取り込むことが可能と見られています。特に電気通信工学科や計装制御工学科では、昨年度の4年生が卒業製作でゾンカ語点字学習機を試作し、今期の4年生がオープンソースの点字印刷機や片手だけを用いるキーボードなどの卒業製作に取り組む動きがあります。

ファブラボの学内設立を目的としたこのプロジェクトは12月で終了しますが、工学教育における自助具技術の取り込みは、全国に先駆けてCSTのリードで今後も推進されていくことが期待されます。

【関連リンク】

「カトマンズ・チェンナイ視察旅行で見てきたもの」
https://www.jica.go.jp/oda/project/1900281/news/1520449_45018.html

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全盲の場合にどのような挙動になるのかを観察する(写真/山田浩司)

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椅子をデザインする場合の採寸の仕方を指導するアシーク博士(写真/山田浩司)

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段ボールからでき上がった高齢者リクライニングシートの小型模型(写真/Karma Kelzang Eudon)

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段ボールを使った模型作りの要諦を講義するアシーク博士(写真/Karma Kelzang Eudon)

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腕のリハビリ器具の段ボール模型(写真/Karma Kelzang Eudon)

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実寸大のリハビリ器具を木工機械を用いて製作する(写真/Karma Kelzang Eudon)

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高齢者向けリクライニングシートの試作(写真/Karma Kelzang Eudon)

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通常ステンレスパイプで作られる歩行補助器も、塩ビパイプで試作(写真/Karma Kelzang Eudon)

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アシーク博士とワークショップ参加者(写真/Ashique Hyder Ali)