チュカ県との最後の連携事業-ミシン修理メンテナンス研修

私たちが設立支援したファブラボCSTは、ブータン南東部に位置する唯一のファブラボとして、この地域の経済・社会の課題に対するソリューションの提供を強く意識して、活動を行ってきました。とりわけチュカ県は、ファブラボのあるインド国境の町プンツォリンと、首都ティンプーを南北につなぐ国道が縦貫する南東部の有力県であり、県庁が打ち出すエコツーリズム推進や農村企業家の育成と、ファブラボの活動がどう寄り添うかが問われてきました。

プロジェクトでは、ファブラボCSTの発足以降、チュカ県経済開発担当官(EDO)や地元企業家ネットワーク「Entrepreneurs of Chhukha」(以下、EOC)との協力関係を強めてきました。7月の世界ファブラボ会議(FAB23)の際には、「ファブ・ブータンチャレンジ」でCSTに訪れた外国人ものづくり愛好家グループとEOCとの交流機会を設けたほか、EOCの要請を受け、農村在住で右手に麻痺を抱える女性縫製家の自宅を訪ねてミシン操作を楽にする自助具のデザイン実装を試みました。

チュカ県庁との間では、長年EDOが課題と認識していた国道沿線の露店のリデザインを試みる「ハイウェイマーケットアウトレット・メイカソン」を10月に共催し、そこで提案されたアイデアに県庁が予算をつけ、実際に露店を実装していただくというシナリオを描くことができました。また、EDOによる県内巡回の中で特定された、県内カムジ集落に住む障害者女性向けの自助具のニーズも、11月に入って専門家がCST学生有志とともに集落を訪ね、実際の生活を観察し、短期間で作ることが可能な自助具についてはすでに出力し、ご本人にお届けしています。同時に、この訪問で立ち寄ったカムジ・セントラルスクールの障害児特別教育(SEN)ルーム向け教具も1台製作し、別途先生にお届けしました。

こうして途切れることなく小さく続けられてきたチュカ県での活動ですが、今秋、EDOから相談を受けていた課題がもう1つありました。それは、県内農村部に配備されたミシンの修理とメンテナンスでした。

ブータンでは、農村部での収入向上を目的として、政府助成金と優遇金利での銀行融資を組み合わせ、ミシンが村落企業家向けに供与されました。チュカ県内でも、20人の候補者が選定され、ミシンをはじめとした縫製に必要な備品が供与されました。それと同時に行われた技能研修では、主にミシンの操作の習得に重点が置かれました。使用開始初期の段階では、操作を行うのが精一杯という利用者が大勢いたようです。

しかし、利用が進むにつれて、現場からはミシンの不具合について指摘する声が寄せられるようになりました。そこで、ミシンの不具合に現場で即時対応できるよう、さらには不具合を未然に防ぐための日々の機械の維持管理に利用者一人ひとりが配慮できるよう、ミシン利用者を集めて集中研修を行いたい―――これがチュカEDOからの要望でした。

ファブラボCSTにも現在、電動ミシンが3台ありますので、修理メンテナンスは共通の課題と認識していました。また、ファブラボにはデジタル刺繍ミシンや、アクセサリー作りにも活用できる3Dプリンターなどがあり、ミシン利用者の創作の幅を広げられる可能性があります。そこで、プロジェクトでは、研修参加者にファブラボまで来てもらう日を設け、ファブラボの設置機材の活用についても利用者に宣伝することで、県とファブラボの両者にとってもメリットがあると判断し、研修実施を支援することにしました。

研修は、11月13日、県南部の高原都市ゲドゥにあるカルマ縫製研修センターで始まりました。国政選挙に伴う大衆動員イベント開催自粛期間中ではありましたが、チュカ県庁の働きかけにより、開催の許可を得ることができました。20人が参加し、現在県内で利用されている手動、電動のあらゆるミシンのメカニズムと日々のメンテナンスのポイント、考えられる不具合とその対処法について、実践を交えながら研修は進められました。

17日には、受講者全員がバスでCSTを訪れ、ファブラボCSTの施設を見学し、デジタル刺繍ミシンの操作や、電動ミシンの操作とメンテナンス方法について指導を受けました。受講者の中には、プンツォリンやカムジなど、ファブラボからほど近い事業者もおり、「ミシン以外の機械の操作についても教えてほしい」との声が寄せられ、私たちにとってもよい宣伝の機会となりました。この日、CSTは秋学期期末試験直前だったため、学生利用者の研修参加が困難なタイミングでした。しかし、私たちファブラボCSTのスタッフにとっては、修理メンテナンス方法についてこれまでの受講者からその学びを聴く機会ともなりました。

そして、研修は週末も使って続けられ、22日に最終日を迎えました。この日はゲドゥのカルマ縫製研修センターで修了証書授与式が開かれ、地域の主要な来賓とともに、ファブラボCSTからは山田浩司専門家が出席し、修了を祝いました。

手動ミシンも修理メンテナンス研修の対象(写真/Karma Zangmo)

手動ミシンも修理メンテナンス研修の対象(写真/Karma Zangmo)

ファブラボ訪問時は電動ミシンで修理メンテナンスのポイントを学んだ(写真/山田浩司)

ファブラボ訪問時は電動ミシンで修理メンテナンスのポイントを学んだ(写真/山田浩司)

デジタル刺繍ミシンの操作を見守る研修参加者(写真/山田浩司)

デジタル刺繍ミシンの操作を見守る研修参加者(写真/山田浩司)

修了式は地域の来賓の参列の下で行われた(写真/山田浩司)

修了式は地域の来賓の参列の下で行われた(写真/山田浩司)

修了証書を手に、修了を祝う来賓と研修受講者(写真/Sangay Thinley)

修了証書を手に、修了を祝う来賓と研修受講者(写真/Sangay Thinley)

関連リンク

「プロトタイプと社会実装のギャップを埋める試み~ハイウェイアウトレット・メイカソン」
https://www.jica.go.jp/oda/project/1900281/news/1520949_45018.html