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【番外編】オンラインセミナー参加レポート:JICAアフリカ広報 学生レポーター 井上遼大さん(明治大学4年)

2022年8月8日

2022年7月16日、AFPBB Newsおよび学術団体 十大学合同セミナー協力のもと「激変する世界の中で人間の安全保障をアフリカから考えてみよう」と題して、オンラインセミナーが実施されました。

本セミナーは、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻など、激変する世界において、次世代の担い手である若者を対象に、日本も含めた国際課題に鋭い目を向け、知り、考え、さらに同世代に伝えていってほしいとの思いから立ち上げた「世界とつながろうプロジェクト 2022JICA×AFPBB News」の一環として実施されたもの。

「人間の安全保障」をテーマに、アフリカにおける紛争、テロ、JICAが実施してきた問題解決の取り組みなどについて、慶應大学法学部教授 杉木明子氏、JICA緒方貞子平和開発研究所副所長 牧野耕司氏、また南スーダン出身のJICA長期研修員 カミス氏が登壇し、講演、ディスカッションが行われました。

今回は、Special Report toward TICAD8 の番外編として、2022年3月に実施したオンラインセミナー「私たち若者と開発途上国における貧困問題について」の課題にてJICA賞を受賞し「JICAアフリカ広報 学生レポーター」に任命された明治大学4年の井上遼大さんに、参加レポートを書いて頂きました。井上さんの素直な目線で書かれた力強いメッセージを是非ご覧ください。

JICAアフリカ広報学生レポーター 井上遼大さんからの参加レポート

私にとってアフリカは遠い。アフリカで起きている内戦、飢餓や貧困といった問題は「可哀そう」ではあるが、他人事で、どうにもできない気がする。なぜそう感じてしまうのだろうか。
私はこのセミナーを通じて、それは私がアフリカのことを知らないからだと結論づける。

ロシアによるウクライナ侵略で発生したウクライナ難民が多くの先進諸国で積極的に受け入れられる一方、アフガニスタンやパレスチナ、シリア難民はそういった扱いを受けることが出来ていなかった、という問題提起をよく目にする。なぜこの違いが生まれるのか。アフガニスタンやシリアは遠いから、ウクライナは近いから?そんなことはないだろう。アフガニスタンやシリア、パレスチナは中東の国々で、東欧に位置するウクライナよりは確かに積極的受け入れ国である西欧から少しだけ遠い。しかし、まさに日本に住む私にとっては、どちらも空の向こう側だ。それでも、「ウクライナ避難民」への私の共感と日本政府からの支援は手厚い。時々、ウクライナの報道に強い感情を感じながら、シリアの報道を目にしていた自分を振り返り、冷めた気持ちになることがある。おそらく、ロシアによるウクライナ侵略は構造が明白で、報道やSNS等での議論も二項対立的でわかりやすいものがほとんどだ。ゆえに、私はウクライナで起きていることをよく知っている(つもりで)いるから、共感できる。一方で、シリアで起きていることはあまり知らない。

同じようにアフリカで起きていることを私はあまり知らない。私は知らないことに関する想像は苦手だ。

私は「アフリカで問題に直面している人々は可哀そう」だと感じていた。それゆえ、セミナーで内戦がもたらす問題、コロナ禍がもたらす問題、気候変動がもたらす問題、食料危機がもたらす問題、宗教・伝統がもたらす問題、インフラの未整備がもたらす問題…などなどが紹介され、自分が有していた「可哀そう」なイメージが強化されると同時に、あまりに複合的で多層的に問題が所在していることに絶望を感じてしまった。

一方で、セミナーでアフリカではビジネスリーダーの多くが未来を楽観視しているお話、モバイルマネーが普及しているお話、問題に在来知や外来知を組み合わせて立ち向かっている人々がたくさんいるお話、そして何よりアフリカの人々の生き生きとして楽しそうな様子が紹介され、驚いてしまった。これは私が従来持っていたアフリカに対する可哀そうなイメージからはかけ離れていた。絶望はどこかへいってしまった。

ここで私はアフリカのどの国で、どんな問題が、どんな人々にとって、どういう風に可哀そうなのか、具体的なイメージを有していなかったことに気付いた。

私はアフリカを遠ざけ、あまりにも知ろうとしていなかった。

ウクライナ難民に対する感じ方の違いが浮き彫りにした、私が知っていることに支配される存在であるという事実は、アフリカの諸問題に立ち向かう可能性を失わせたように見える。しかし、逆に考えることもできる。私がアフリカのことを知りさえすれば、アフリカの人々に共感することができる。そして、その共感の輪を広げれば、(大げさかもしれないが)アフリカの問題に今まで以上にコミットしようというムーブメントを世界で起こすことが出来るかもしれないのだ。

本セミナーの中心に据えられる概念である「人間の安全保障」は個人に焦点を合わせ、人々の命・暮らし・尊厳を守るため、様々な脅威に対する弾力性のある強い社会をつくることを目指す。弾力性(レジリエンス)とは、人々にとっての脅威が起きたとき、言い換えると社会が下向きの力を受けたときに、それが上向きに戻ることができるような力強さのことを言う。「人間の安全保障」では、基本的なアプローチとして保護というトップダウンアプローチと、エンパワメントというボトムアップアプローチを組み合わせる。

私は今回のセミナーを通じて「人間の安全保障」がその視点を個人にあわせて、彼らにとっての脅威に彼らと共に取り組もうという姿勢を基本とする一方で、そのアプローチとしてはボトムアップ・トップダウンの両方を組み合わせる点に魅力を感じた。開発がトップダウンアプローチを取ってきて個人のニーズと向き合えず失敗したことは良く知られている。逆に、視点を立場の弱い人々に合わせるとボトムアップ一辺倒になりがちで、その実現性が十分ではなくなることもある。セミナーで指摘されていたように、すべての個人のニーズを同時に満たすことは大変困難だが、それを理想として掲げ個人のニーズと向き合い続け、それらを実現するための現実的なアプローチを諦めずに模索し続けるところに、「人間の安全保障」の特長があると感じた。

現地でのボトムアップアプローチを取るためにも、トップダウンアプローチの主体となる政府を動かすためにも、私はアフリカの人々と同じように諦めない姿勢で知り続けなければならない。確かにアフリカの問題は複合的だが、それは他人事ではないかもしれないし、どうにかなるかもしれない。そんな想いを胸に、立ち向かっている人々の姿は魅力的だった。

本セミナーはこんな些細な気づきを私にもたらしてくれた。
知らないあなたにこそ、セミナーの視聴を強くお勧めしたい。

【画像】

緒方貞子平和開発研究所 牧野耕司 副所長による問題提起「今日の人間の安全保障とアフリカ」と題した発表の様子