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イベントレポート:TICAD8に向けて-複合的危機を乗り超える、アフリカの経済統合の推進

2022年9月26日

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左から、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)首席補佐官 ジェニファー・チリガ氏(モデレーター)、AUDA-NEPAD経済統合課長 トウェラ・ニレンダ・ジェレ氏、JICA理事 中村俊之氏、アフリカ開発銀行(AfDB)リードエコノミスト ジョージ・カララチ氏、国連開発計画(UNDP)南アフリカ常駐代表 アヨデレ・オデュソラ氏

アフリカの経済統合により、将来的には世界最大の経済市場を生み出すともいわれる「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」。しかし、コロナ禍などによる世界的な不確実性の高まり、ロシア・ウクライナ危機の中での食糧不足とインフレは、アフリカの成長と経済統合を遅らせてしまう恐れもあります。2022年8月27日、28日にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)を前に、6月21日に南アフリカで開発分野の主要関係者が集まり、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)を促進するための方法を議論しました。

対面とオンラインのハイブリッド形式で行われたこのシンポジウムは、国際協力機構(JICA)、アフリカ開発銀行(AfDB)、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)、国連開発計画(UNDP)の共同主催で実現しました。

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左:駐南アフリカ共和国特命全権大使 丸山則夫氏

駐南アフリカ共和国特命全権大使 丸山則夫氏は、基調講演にて「TICADはアフリカの持続的かつ包括的な開発に焦点を当てる場であり、人間の安全保障を構築するためにはオーナーシップとパートナーシップが重要」と話しました。日本は数十年にわたり、政府開発援助(ODA)と民間投資の両面において、アフリカの積極的なパートナーであったことに言及し、今回のTICAD8の3つの柱である「経済」「社会」「平和と安定」を紹介したうえで、カーボンニュートラルに向けたエネルギー・トランジションなどの分野で、日本がアフリカと協力できると述べました。

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AUDA-NEPAD経済統合課長 トウェラ・ニレンダ・ジェレ氏

AUDA-NEPAD経済統合課長 トウェラ・ニレンダ・ジェレ氏は「12億人を擁する単一市場の創設を目指すAfCFTAは、国内総生産(GDP)の合計が2兆5千億ドルにものぼる世界最大の経済市場となる可能性を秘めている」と言います。しかし、そのためには、アフリカ大陸内での人、モノ、サービス、資本の移動を容易にする「高度な持続可能性を持ち、質の高い、回復力のあるインフラの建設を通じて、市場機会を開放することが必要」と主張しました。

レジリエンス(強靭性)の構築と中小企業

UNDP南アフリカ常駐代表のアヨデレ・オデュソラ氏は、「アフリカは、国レベルでも大陸レベルでも、経済運営において構造的な弱点があるため、グローバルショックに対して脆弱です」と述べました。これは、貧困、所得格差、失業という現在進行中の「三重の開発課題」に対する脅威となるものです。

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UNDP南アフリカ常駐代表 アヨデレ・オデュソラ氏

オデュソラ氏は、アフリカ諸国が自分たちで生産できる食糧を輸入し、それを世界に輸出しているという経済構造上の問題を指摘したうえで、「アフリカがより強靭になるためには依存症候群から脱却しなければならない」と述べました。

同氏はまた、アフリカは農業、金属、石油・ガスなどの「一次産品の輸出国」としてのサイクルから脱却するよう努力すべきであり、付加価値をつけることが富と雇用を生み出すことになる、とも指摘しました。同氏は、アフリカは現在のGDPの3倍近い3.7兆ドルを生み出すことができると考えています。

また、「アフリカ大陸をより魅力的な投資先にするためには、投資環境におけるリスクに対処することが重要」とも付け加えました。特に、年間860億ドルと推定される不正な資金の流れを止める必要があると言います。

ジェレ氏はオデュソラ氏の指摘を受けて、中小企業(SMEs)の重要な役割を強調しました。アフリカでは、中小企業が必要とされる商品やサービスを生産できるようにするなど、中小企業が成長するための政策を検討する必要があると言うのです。同氏は「デジタル化、市場や金融へのアクセスといった分野の問題を解決することを含め、強靭な新興企業のエコシステムを構築することが、持続可能な貿易を生み出すことにつながります」と言います。また、「AfCFTAの恩恵を最大限享受するためには、新興の中小企業の勢いを失わないようにすることが必須であり、我々の責務でもあります」と述べました。

オデュソラ氏は、中小企業はアフリカの「成長と発展の原動力」であり、UNDPは中小企業と大企業をつなぐサプライ開発プログラムを大陸全体で推進していることを話しました。しかし、「中小企業の70%が創業3周年を迎える前に閉鎖してしまうという逆風が吹いている」と述べ、UNDPはこれに対し、小規模起業家の能力を高め、彼らを金融機関につなぎ、市場アクセスを提供する「若者起業家行動ハブ」を開発したと補足しました。

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AfDBリードエコノミスト ジョージ・カララチ氏

AfDBのリードエコノミストであるジョージ・カララチ氏は「パンデミック後の世界のためにインフラを考えることも重要であり、その中でEコマースは成長市場だと考えている」と言います。しかし、Eコマースを安全に行うには、安全なエネルギー源の上に、強靭性のある情報通信技術(ICT)インフラとデータアクセスを構築することが重要になります。

経済統合には人的資本の構築も必要

また、組織同士の統合や協力、人的資本の構築をいかにして行うかについても議論されました。オデュソラ氏は「1+1が2より大きくなる相乗効果生み出すことが重要です。人を中心に据えて、プロセス全体の始まりと終わりを確実にすることが大切です」と述べました。

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JICA理事 中村俊之氏

JICA理事 中村俊之氏は、「誰一人取り残さない」という意味の「人間の安全保障」の重視がJICAの中核的な理念であることを話しました。同氏は「レジリエンスの構築には、関係者の長期的なコミットメントが必要です。ケニアとガーナの医療研究機関に対するJICAの資金・技術協力の取り組みは、アフリカ疾病対策センター(アフリカCDC)の下で、コロナ対策に関する大陸内のネットワーク構築につながりました」と言います。また、JICAは、AUDA-NEPADとともに、アフリカの企業がマスクやその他の必需品を生産できるよう、支援を行っています。

また、ロシア・ウクライナ紛争による食糧不足の中で、JICAが長年アフリカ諸国や国際機関等と取り組んできた、アフリカの米生産量の倍増を目指すイニシアティブ「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD:Coalition for African Rice Development)」に対する関心が高まっています。

カララチ氏は、強固な制度を構築する必要性を強調するとともに、「非常に厳格な制度」ではなく「適切なインセンティブ」があれば、投資家はより惹きつけられると指摘しました。また、AfDBが100億ドルでコロナウイルス対策施設を設立し、世界中に輸出できるワクチン製造の可能性があることを紹介しました。

カララチ氏は、南アフリカの若者の3人に2人が失業しているというデータを示し、アフリカのコミュニティを活性化するためには、雇用を増やすことが重要であると説きました。また、「統合はモノやサービスだけでなく、文化的な統合も可能。多くの人々が国境を越えて生活し、同じ言語を話している」とも話しました。カララチ氏は、ポストコロナの時代にアフリカが「交渉のテーブルで発言できるようになるべき」と期待しています。

本シンポジウムの閉会式では、JICAとAUDA-NEPADが、OSBP(One-Stop Border Post、国境を越境する際の両国の手続きを統合することで、人やモノの効率的な移動を促す取り組み)のコンセプトを詳しく説明し、OSBPの運営に関するガイドラインOSBPソースブック第3版(注1)を公表しました。

本イベントを通じて、パネリストたちは、TICAD8がアフリカの地域経済統合をさらに進めるための議論を行う重要な機会になるとの見解を共有しました。TICAD期間中、官民の関係者がアフリカの開発課題に取り組みます。

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AUDA-NEPAD首席補佐官 ジェニファー・チリガ氏

(本記事は、2022年8月16日に英語で掲載した「Event Report:Towards TICAD8 - Advancing Africa's Economic Integration in the Post-Crisis Era」を和訳した記事になります)