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イベントレポート:グローバル危機に直面する今、アフリカへの開発協力について問い直す

2022年9月26日

7月6日、フランス・パリで、アフリカ開発に関する有識者が集まり、新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻による食糧・エネルギー価格の高騰、気候変動などのグローバル危機に直面する中、アフリカへの開発協力はどう見直されるべきかについて、熱い議論を交わしました。

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左上から、国連開発計画(UNDP)アラブ局長代理サラ・プール氏(オンライン参加)、アフリカ開発銀行(AfDB)地域開発・統合・事業運営担当理事代行ヤシン・ファル氏(オンライン参加)。下段左から、経済協力開発機構(OECD)開発センター長のラングハイズル・アルナドッティル氏(モデレーター)、フランス開発庁(AFD)CEOのレミー・リウ氏、国際協力機構(JICA)上級審議役の加藤隆一氏、コロンビア大学教授ジャン・マリ・ゲーノ氏。

アフリカ開発銀行(AfDB)、フランス開発庁(AFD)、国連開発計画(UNDP)、コロンビア大学、国際協力機構(JICA)から集まった有識者たちは口をそろえてアフリカの開発協力の見直しの必要性に同意し、特に「レジリエンス(強靭性)」「アフリカ現地の人々のオーナーシップ」「連帯」を開発の中心に据える必要がある、と言います。

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駐フランス日本国大使 伊原純一氏

冒頭、駐フランス日本国大使の伊原純一氏が「アフリカの開発は、世界の安定と繁栄にとって重要なものです。JICAは、『人間中心の開発』『アフリカのオーナーシップの尊重』『日本の経験の活用』の3つを柱として、TICADの精神にふさわしい取り組みを行っています」と述べました。アフリカに持続的な成果をもたらし、より強靭な社会を構築するためには、アフリカのオーナーシップと国際的なパートナーシップが重要であることが強調されました。

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JICA理事長 田中明彦氏(スクリーン)

伊原氏に続き、JICA理事長の田中明彦氏が動画で講演を行いました。田中氏は、アフリカの将来において重要と考えられる「レジリエンス」「開発」「連帯」の3つのコンセプトについて、発言されました。

「私たちは将来の危機を避けることはできませんし、いつ起こるかを予測することもできません。しかし、外的なショックに耐え、負の影響を軽減し、より良い復興(build back better)のために危機に備えることはできます。」

また、田中氏は、誰もが恐怖と欠乏から解放され、尊厳のある生活を保障されることが重要であると人間の安全保障の重要性も指摘し、「個人、組織、社会を能力を高めることで、危機に備えるだけでなく、以前よりも強靭な社会を構築できるようになります」と述べました。

パネルディスカッションの冒頭、経済協力開発機構(OECD)開発センター長のアルナドッティル氏は、アフリカ連合(AU)とOECDによるAfrican Investment Observatory(AfIO)の活用も含めて、生産性の転換(productive transformation)、そしてアフリカのレジリエンス強化のために、アフリカのバリューチェーンの強化を支援する必要があると語りました。また同氏は、公正でグリーンなエネルギー転換に向けて、アフリカ諸国の協力の重要性を強調しました。また、アフリカ連合議長セネガル大統領 マッキー・サル氏とアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)による、アフリカの文脈に沿った対等な立場の国際的パートナーシップ構築に関する呼びにも触れ、OECD開発センターがDevelopment in Transition(開発の移行期)の取り組みを通じて、これを支援していることを紹介しました。

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左から、UNDPのプール氏、AfDBのファル氏

AfDB理事代行のファル氏は、「パンデミックはアフリカの10年にわたる経済成長を覆す恐れがある」と述べました。パンデミックにより、アフリカ大陸のGDPは過去20年間で最大の落ち込みを見せ、およそ1,650億ドルの損失を生み、3,000万人以上の雇用が失われ、2,600万人が極貧状態に陥りました。さらに、パンデミックから経済的な回復を始めると同時に、食糧危機が迫ってきました。

この危機に対して、開発パートナーはアフリカ諸国のニーズに応え、緊急支援を強化する必要に迫られています。たとえばAfDBは、アフリカの食糧生産を強化し、食糧安全保障を促進し、食糧危機に直面している国々を支援するために、15億ドルの投資を行いました。

ファル氏は「長期的な目標を見失わないようにすることが重要です。サプライチェーン、金融システム、その他の経済インフラにおける地域統合を促進することは、将来の混乱に対するレジリエンスを構築するのに役立つでしょう。そのためには、開発機関と中小企業を含む民間セクターとの強力なパートナーシップが必要です」と言います。

また、ファル氏は、地域統合はAfDBと日本が共有する優先事項であり、日本とのパートナーシップの多くは、民間部門の開発支援に基づいていることを指摘しました。

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コロンビア大学ゲーノ氏

コロンビア大学教授のゲーノ氏は「危機は社会の平和と市民制度を試すものです。紛争を予防するために、開発パートナーシップは、平和の社会的基盤を維持すると同時に、長期的なレジリエンス構築を追求していく必要があります」と述べました。

また、同氏は、平和維持の分野では、国際機関が現地のパートナーと共同で、活動を展開することが重要だ、とも言います。

ゲーノ氏は、「(国際的な組織が、現地が自ら課題解決できるようにする)『支援』ではなく、(既存の解決策をそのまま現地の課題の解決策として)『代用』を行ってしまうことが多い。これは私が『peacekeeping trap(平和維持の罠)』と呼んでいるものです。(こうした状況が続くと)国際社会が協力をやめた瞬間に、現地の崩壊を招く可能性があるのです」と問題点を示しました。

UNDPアラブ局長代理プール氏は、アラブ圏の北アフリカとアフリカの角も含むアフリカ大陸の気候変動への強靭性を高めることが、UNDPの最優先事項であると述べました。アフリカの気温は世界平均を上回るスピードで上昇しており、人口の40%以上がすでに干ばつなどによる災害にさらされています。

プール氏は、経済の多様化と代替エネルギーへの投資が、ポストコロナの回復と気候変動への強靭性を高めるための推進力となると述べました。アフリカでエネルギーを確保するには、2018年から2050年の間に1.5兆ドル以上の投資が必要とされています。

プール氏は「政府資金だけでは不十分」と述べ、新たな資金調達の仕組みや官民連携の必要性を強調しました。

同氏はまた、アフリカの開発を進める上で、包括的な成長を促進することの重要性を強調し、コロナ禍と外的ショックの影響が、以前からあった経済格差をさらに広げ、大陸中の人々の生活、特に女性や弱い立場の人々に深刻な影響を与えたことに言及しました。

UNDPは、「誰一人取り残さない」「人間の安全保障」をアジェンダの軸とし、社会保護制度の拡大、若者や女性起業家のエンパワーメントなど、不平等や脆弱性などの問題に取り組むための活動を率先して行ってきました。

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左から、経済協力開発機構(OECD)アルナドッティル氏、フランス開発庁(AFD)リウ氏

フランス開発庁(AFD)長官であるリウ氏は、官民の金融機関の協力はアフリカの開発にとって心強いことであり、「ODAを超える」ためにさらなる努力を行う必要があると話します。

リウ氏は「ODAは、誰一人取り残さないことが本当の目的であり、持続可能な投資のための資金調達能力を大きく向上させる必要があります」と述べました。

「今現在、私たちは、長期的で忍耐強く、現地の解決策を提供できる機関を構築するよりも、目に見える成果を達成できる影響力を重視しています。この変化を実現するには自分たちのリスク選好(risk appetite)を変えていく必要があります」とリウ氏は言います。

JICA上級審議役 加藤隆一氏は「JICAが協力するプロジェクトの成功には、アフリカのオーナーシップの尊重が欠かせない」と述べました。JICAが牽引する「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」は、10年間でサブサハラ・アフリカのコメ生産を倍増することに成功し、ウクライナ情勢による食糧危機の影響を軽減するのに役立っています。

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アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)・前長官のマヤキ氏

当日は、講演者に加え、アフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)・前長官のマヤキ氏によるビデオメッセージが流され、アフリカが直面する危機に対して、革新的で、なおかつ地域に根ざした解決策の必要性が語られました。

「アフリカには、地域ごとに開発の優先順位をつけることが必要です。地域の不平等を改善するために、その地域の状況を踏まえた政策を行わなければなりません」と述べました。また、TICADというプロセスとパートナーシップは、アフリカのオーナーシップによるアフリカのレジリエンス強化のために非常に重要である、と付け加えました。

8月にチュニジアで開催されるTICAD8では、アフリカのオーナーシップが重要なテーマです。加藤氏は、この考えはJICAの活動の指針となる「人間重視の開発」や、「人間の安全保障」の概念と密接に関係していると言います。また、成功する協力取組には、官民を問わず、個人の能力、各国の産業能力、地域のネットワークを強化することが必要であると話しました。

加藤氏は「人を中心とした開発の鍵は、個人から始まり、組織、そして社会まで、あらゆるレベルでのエンパワーメントにあります」と強調しました。

最後にアルナドッティル氏は、アフリカに影響を及ぼす多面的な変革を支援するために、開発協力を変えていく重要があると指摘しました。

(本記事は2022年8月16日に英語で掲載した「Event Report:Rethinking Development Cooperation with Africa in Light of Global Crises」を和訳した記事になります)