現在の場所は

JICAによるスタートアップ支援:チュニジアのスタートアップを事例に

2022年10月7日

ジヘド・ハンナシ氏が人工知能(AI)などのツールを導入して企業の「デジタル化」を支援するスタートアップMajestEYEの構想を思いついたのは、オランダでビジネスコンサルタントとして働いていたときだといいます。

【画像】

MajestEYE 共同創業者、営業責任者/スクラム・マスター ジヘド・ハンナシ氏

ヨーロッパにはAIスタートアップが活躍するチャンスがたくさんありました。しかし、ハンナシ氏とビジネスパートナーのデータサイエンス研究者(英国ケンブリッジ在住)が拠点に選んだのは、ハンナシ氏の故郷であるチュニジア北西部の町ジェンドゥーバでした。

「ジェンドゥーバは、IT関連企業があまりない地域です。ディープテック(AIやバイオテクノロジー、二次電池、量子コンピューティング、ロボット工学などの社会の課題を解決する技術)を通じて雇用を創出しているのは当社だけです」とハンナシ氏は言います。

創業から5年になるMajestEYE社は、これまで植物の病気の原因となる病原菌や、潜在的に有用な化合物を特定するツールなどを開発してきました。現在、従業員は15名で、アルジェリアに新たに支社を構え、製薬業界を専門とする欧州のコンサルタント会社との提携を決めたばかりです。

JICAが最初のサポーターに

MajestEYEのアフリカでの挑戦を力強く支えてきたサポーターの一つが国際協力機構(JICA)です。JICAは昨年、アフリカの革新的なスタートアップ企業を発掘し、資金援助を行うプログラム「NINJA(Next Innovation with Japan)」の中で、アフリカ地域19か国において、ビジネスプランコンテスト「NINJA Business Plan Competition in response to COVID 19」を実施し、応募総数2,713社の中から10社を選定し、2021年2月26日に「アフリカ新興テック ピッチ決勝戦」を開催しました。MajestEYEはその10社の中の1社です。

【画像】

「NINJA Business Plan Competition in response to COVID 19」には、アフリカ大陸全域から2,713人が参加。JICAはグランドファイナリスト10人を含む69人の受賞者を選びました。「JICAが私たちのPoC(概念実証)を支援してくれましたが、MajestEYEにとっても、このような機会や厳格な選考プロセスは貴重なものでした」とハンナシ氏。

「今、当社はベンチャーキャピタルやビジネスパートナー候補から厳しい質問を受けることがありますが、JICAのコンテストでの質問も同じぐらい厳しいものでした。こうした経験をさせてくれたJICAは、ある意味私たちの最初のサポーターなのです」(ハンナシ氏)

持続的成長に向けたスタートアップ企業の支援

【画像】

JICAチュニジア事務所事業総括 辻井亮氏

JICAは、アフリカ協力の重要な取り組みの一つとして、スタートアップの支援を掲げています。アフリカの持続的な成長を実現するために、民間セクターの競争力を高め、イノベーションを促進するためです。

「『市場がまだ発見されていない』というのがアフリカに対してよく言われることです」と、JICAチュニジア事務所事業総括の辻井亮氏は指摘します。「JICAはアフリカの市場に関する情報や、リスクキャピタルを提供等の協力可能性を検討し探、民間投資家のリスク軽減に取り組んでいます」

辻井氏は、チュニジアは特にスタートアップに向いた土地であると見ています。

「チュニジアは教育水準が高く、優秀な人材が豊富におり、経済も天然資源に過度に依存していません。必要なのは、雇用機会を増やすことです」(辻井氏)

【画像】

Spike-X創業者 キルメン・マルズキ氏

チュニジアにはもう一つ、NINJAで活躍した企業があります。首都チュニスに拠点を置くAI専門のスタートアップ、Spike-Xです。創業者のキルメン・マルズキ氏は、九州工業大学で博士号を取得し、チュニジアに帰国。その後2013年にSpike-Xを立ち上げました。

「当時、チュニジアにはスタートアップエコシステムがまったくありませんでした」とマルズキは振り返ります。「ですが、ニーズは沢山あることに気づいたのです」

Spike-Xは、がんやその他の主要な疾患を特定するためのウェブベースのヘルスケアプラットフォームを開発しました。チュニジアの死因のトップはがんですが、マルズキ氏は、検診など従来のがん発見方法にはリソースや技術的なサポートが不足していると考えました。

「当社のビジネスは、AIが社会問題を解決できることを証明しています」とマルズキ氏は語ります。

8月には、チュニジアで「第8回アフリカ開発会議(TICAD)」が開催されます。辻井氏は、SPIKE-XやMajestEYEといった「チュニジアの成功事例を紹介する機会」になると考えています。

マルズキ氏もハンナシ氏も、チュニジアに拠点を置くことにデメリットがあることは認めています。知的財産の法的な保護に乏しいことは継続的な課題であり、特にスタートアップがPoC(概念実証)の段階から商業化、ビジネスを成長させようとする場合、資金調達が困難になることもあります。

しかし、彼らは、そのデメリットを上回るメリットがチュニジアにはあると言います。

「故郷チュニジアで起業できたことをとても誇りに思っています」とマルズキ氏は語りました。

(本記事は8月23日に掲載した「JICA-Supported Tech Startups Are Showcasing Tunisia's Potential」を和訳したものです)