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JICAチュニジア所長に聞いた「TICAD8の重要ポイント」

2022年10月31日

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が8月27日から28日にかけてチュニジアの首都チュニスで開催され、アフリカの国家元首レベルの指導者20名と、国際機関、民間企業、市民社会の関係者を含むアフリカ54カ国中48カ国の代表が出席しました。日本からは、岸田文雄首相の特使として林芳正外務大臣が出席し、首相は日本からオンラインで参加しました。

岸田首相はTICAD8の開会式で、「日本は、アフリカと『共に成長するパートナー』でありたい」と述べました。また、「日本は『人』に注目した日本らしいアプローチで取組を推進します。これにより、『成長と分配の好循環』などを通じ、アフリカ自身が目指す強靱(きょうじん)なアフリカを実現していきたい、これが私の考えです。」と話しました。

日本は、グリーン成長、保健、人材開発、地域安定化、食糧安全保障などの分野に取り組み、今後3年間で300億ドルの官民投資を行うことを約束。人材育成については、アフリカの未来を支える産業、保健、教育、農業、司法、行政など幅広い分野で30万人を育成し、能力開発に貢献することを約束しました。

2019年にTICAD7が横浜で開催されてから、世界はコロナウイルスに悩まされてきました。また、ウクライナとロシアの紛争は、途上国の食糧とエネルギーの危機を拡大しています。気候変動は異常気象を引き起こし、災害を頻発させています。

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チュニスで開催された第8回アフリカ開発会議

国際協力機構(JICA)チュニジア事務所長の上野修平氏は、TICAD8を振り返り、「国際協力、グリーン成長、レジリエンスの強化」の3つが主要なテーマだったと言います。

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JICAチュニジア事務所長 上野修平氏

上野氏は、「グローバル化により繋がっている今日の世界では、アフリカにおいて現在進んでいる危機の影響を無視することはできません」と指摘します。「TICAD8の価値や意義は、国や人によって異なるでしょう。しかし、人的資本への投資と持続可能な成長がもたらす機会は、アフリカの潜在力を引き出すためにも重要です。これは、アフリカのみならず世界全体にとってもメリットがあります」

TICAD8に合わせて開催されたビジネスフォーラムには、日本企業とアフリカの企業がほぼ半分ずつ参加し、200人の企業関係者が参加したと上野氏は話し、こうした交流は人脈や機会を増やすために必要だと付け加えました。

チュニジアに駐在する上野氏は、「チュニジアでのTICAD8の成功は、同国が日本企業にとってのみならず国際協力におけるアフリカのゲートウェイとしての役割を果たすことができる証しです」と言います。上野氏は、チュニジアの利点として、アフリカ、ヨーロッパ、中東の三地域にまたがる地理的な位置および人材を挙げます。

「これらの利点は、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定や東南部アフリカ市場共同体(COMESA)などの経済的な枠組みを通じ、アフリカ各地に広がります」(上野氏)

グリーン成長に関し、上野氏は、アフリカ諸国は気候変動に対して脆弱であり、干ばつ、洪水、海岸浸食に悩まされていると指摘します。

日本がTICAD8で立ち上げた「アフリカ・グリーン成長イニシアチブ」は、アフリカの持続可能なグリーン成長に向けた投資を促進することで気候変動に対する脆弱性に対応すると同時に、開発に関する各国のオーナーシップに留意するものです。

上野氏は、「南部が乾燥しているチュニジアでは、水の確保とその持続可能な利用が優先課題ですが、グリーン成長へのコミットメントは外国投資の誘致にも貢献します。例えばモロッコでは、再生可能エネルギーの導入にともない、ヨーロッパの自動車メーカーが工場を設立しています」と言います。

コロナウイルスの流行は、アフリカ全体のレジリエンスを強化する必要性を露わにしました。

上野氏は、レジリエンスがユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)から教育、インフラ、民間セクターまでも網羅する言葉であり、「縦割りの計画によって生じうる盲点を避けるためにも、政府全体による総合的なアプローチが必要です」と指摘します。

その良い例が、コロナ禍の対応です。コロナ禍では、予防と治療が重要ですが、これらの対応は患者を病院に運ぶための道路や交通システム、また医師や看護師の教育といった「医療外の分野」により支えられている必要があります。「患者側も、コロナを予防したり、症状が出たときに助けを求めたりする方法を知っていなければいけません」と上野氏は言います。また、民間病院や薬局も重要な役割を担っていると指摘します。

コロナウイルスの流行が一段落した今、パンデミックから回復すると同時に、次に起こりうるパンデミックに備え、こうしたショックに負けない経済・社会の回復力を確保することが重要です。

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9月13日のTICAD8関連イベントにおいて、上野氏は、JICAとチュニジア政府機関が今年からアフリカ諸国向けの保健および環境に関する研修を開始すると述べつつ、三角協力について説明しました。また、この三角協力やチュニジアの研修施設などを通じて、求職者に生産性向上のためのアプローチである「カイゼン」を教える可能性があることも説明しました。

「コロナウイルスの流行により、TICAD8に対面で参加した数がTICAD7よりも少なかったのは残念でしたが、他方でオンライン参加ができたために、より広く多くの方々にリーチできました」と上野氏は振り返ります。

TICAD8では、本会合の他に、教育、農業、ヘルスケア、デジタルトランスフォーメーションなど、幅広いトピックを扱うサイドイベントが開催されました。本会合とこれらサイドイベントで用いられたハイブリッド形式は、新たな扉を開く、と上野氏は考えます。

「今後もできるだけ多く、さまざまな人にアプローチし、それぞれの方法でアフリカに貢献する方法を考えてもらいたいですね。TICADはアフリカの開発について考えを深め、それ関与する機会になりえるのです」と述べました。

TICAD9は2025年に日本で開催される予定です。

「TICAD9のテーマは現時点でどのようになるか予想できません。おそらく、TICAD8の成果を私たちがどこまで実施できるか、またTICAD9開催時の重要課題によって決まるのでしょう」(上野氏)

TICADはそれ自体が目標ではなく、岸田首相が述べた「TICADはプロセス」に上野氏は同意します。上野氏は、「TICAD8サミットは終わりましたが、TICAD8の成果を実施していく忙しい日々は続きます」と最後に述べました。

(本記事は2022年10月5日に掲載した「Through TICAD8, Japan deepens its partnerships in Africa」を基に作成したものです)