私の要請は職業訓練校で農業の授業を担当することです。フィジーには先住民系のフィジー人と、インド系のフィジー人がいて、私の配属先の職業訓練校は、先祖代々の土地を所有し自給自足に近い生活をしている先住民系の生徒で構成されています。彼らが卒業後自分たちの土地に帰った時に、農業でも生計を立てられるよう、作物を「作って食べる」というこれまでの暮らしから、「作って売る」ための農業の普及が求められています。私はまず、現地の人と生活を共にし、現地の言葉や文化・価値観を学び、今のフィジーの状況をじっくり観察しました。その上で現地の人の暮らしを豊かにするための農業とは?必要な農業スタイルは何か?を考えていきました。
離島や村へ滞在して先住民系フィジー人の生活を見せてもらうと、無計画な森林伐採による農地の開拓や、森の木を切って燃やしてご飯を炊いたりするライフスタイルであることがわかりました。
このままの生活を続けていると、将来、森がなくなるだけでなく、土壌流出や土砂崩れも発生し、フィジー全体の環境悪化につながる恐れがあります。この島の未来、例えば20年後のフィジーの姿を想像したときに「フィジーの人々の暮らしと環境を守る持続可能な農業」を考えなくてはならないと思いました。
課題解決のために「モリンガ」という植物の栽培を提案しました。栽培も管理も簡単で、自然破壊につながらず、売ることができる作物。これから目指す持続可能な農業に合っていたからです。
しかし、モリンガを食べる習慣がインド系フィジー人にはあるのですが、先住民系にはあまりありませんでした。食べる習慣のなかったものの栽培を促すために、まず食べてもらおうと私自身が調理し、モリンガ料理を振る舞う会を催しました。次第に「俺の島ではそれを食べているんだ」など紹介してくれるフィジー人が現れるなど徐々に浸透していきました。フィジー語を喋れるようになって、現地の言葉でコミュニケーションができたのも信頼を得るのに一役買ったと思います。
フィジーの文化的価値観や環境にあった農業を目指すべきだと思い活動してきました。持続可能な農業に取り組めば今の生活が長期的に続き、なおかつ結果的に暮らしを豊かにすることにつながるからです。
一口に農業支援・野菜栽培と言っても、その国・その地域の価値観・食文化・環境に配慮し、現地の暮らしや状況を理解しながら行うことの重要性を感じました。帰国まであとわずかですが、フィジーの農業発展のためにも、この地の環境にあう植物、モリンガや、栽培に挑戦している枝豆など、そういう今まで配属先になかったものを残して帰りたいなと思っています。
今後は大学院への進学などを検討中です。さらに専門性を高めて、環境・農業に関わる国際協力を続けていきたいです。