福山商事株式会社JICAの中小企業海外展開支援と
民間連携ボランティア制度を活用

  • グローバル人材の育成・確保

2012年に開始された政府開発援助(ODA)による中小企業の海外展開支援―。中小企業が持つ優れた技術や製品を活用し、開発途上国が抱える開発課題の解決に貢献するとともに、企業による現地での投資や貿易を通じて開発途上国の経済発展に寄与することを目的とした取り組みだ。また日本の中小企業にとっても、少子高齢化や人口減少といった国内市場の課題が顕在化してきている中で、海外に展開する一つの機会となっている。JICAが実施している、この中小企業海外展開支援事業とともに、民間連携ボランティア制度を活用し、海外への展開を進めているのが沖縄県にある福山商事株式会社だ。東京都の1.3倍ほどの南太平洋にある小さな島国に社員を青年海外協力隊として送り出した同社代表取締役専務の福地正行(ふくち・まさゆき)さんに、その背景や狙い、将来のビジョンについて話を聞きました。

JICA事業を活用し海外展開に向けた調査を実施

当社は、戦後の物資が不足していた時代に新聞を印刷する巻き取り紙などを供給する会社として、ここ沖縄に設立されました。その後、戦後の復興や本土復帰といった時代の流れの中で、業務を拡大させ、現在は印刷資材の紙やインクといった「紙」、上下水道や農業用水関連の資材といった「水」、工場や公共施設の建設といった「工事(技術)」のほか、近年では「環境」、「福祉」に関連する事業やレジャー施設の運営などを手掛けています。

沖縄県内で事業を多角化しながら育ってきた会社ですが、これからは国内事業だけでは厳しい時代になっていくという思いがあり、海外展開を模索していたころ、JICAの中小企業海外展開支援事業というものがあることを知りました。そして2012年に案件化調査に応募したところ運よく採択され、その第一歩を踏み出すことができました。

当社が海外展開を目指して案件化調査を行ったのは大洋州の島国、サモアです。美しいサンゴ礁に囲まれ観光地として有名なサモアは、高温多雨な気候にもかかわらず水の問題を抱えています。というのも、火山の噴火によってつくられた島の土壌は水が浸透しにくいために、雨季になると土砂が流れ込むことで河川の水質が悪化してしまうのです。そうすると、その河川を水源としている浄水場の処理能力を超え、きれいで安全な水が供給できなくなってしまいます。実は、サモアと沖縄は気候風土が似ていて、当社や取引先の企業がこれまで培ってきた取水技術や浄水技術、水源地保全技術が使えるのではないかと考えたことが、案件化調査に応募した動機となっています。

この案件化調査を通じて、沖縄の技術や経験がサモアの水問題に貢献できる可能性が高いことが分かり、現在はその技術を実際に導入し効果を計測する普及・実証事業を行っているところです。

代表取締役 専務
福地 正行さん

民間連携ボランティア制度を通じてサモアへ社員を派遣

サモアでの案件化調査を行っていた2012年の暮れごろ、JICAの沖縄国際センターで民間連携ボランティア制度の説明会がありました。当社もその説明会の案内をいただき参加したところ、私たちの要望を踏まえて派遣国や職種、派遣期間を設定してもらえること、また、派遣中の社員の給料についても8割が補てんされる制度があることを知りました。海外展開に向けた人材育成の必要性を強く感じていたこともあり、民間連携ボランティア制度を活用したいと考えました。

派遣する社員はその年の新卒採用者の中から選ぶことになり、採用試験の面接で青年海外協力隊へ参加する意思があるかを確認したのです。

「是非、参加したいです!」

面接でいきなりそのようなことを聞かれると躊躇してしまうのが普通だと思うのですが、二つ返事で元気にこたえてくれたのが湊直(みなと・なお)さんでした。彼女は長野県出身なのですが、沖縄の大学で学び、沖縄のことを好きになり、沖縄での就職を強く希望していました。

協力隊参加候補者として湊さんを採用することになり、入社してから約1年間、彼女には研修を通じて当社のさまざまな業務を経験してもらいました。この間、JICAに派遣国や職種、参加時期などを相談させていただき、派遣前訓練を経て2014年10月から2年間、サモアに「コミュニティ開発」という職種で派遣されることが決まりました。

サモアを派遣国として希望したのは、もちろん案件化調査の対象国がサモアだったことはいうまでもありません。職種は水に関連したものを希望していたのですが、そこは相手側のニーズがあってはじめて成立するものですのでなかなか調整が難しく、「コミュニティ開発」ということになりました。「コミュニティ開発」という職種は、サモアの人びとの生活に寄り添い、課題を確認しながらそれを解決するための方法を現地の人々の生活の中から探し出し、その可能性を育てるお手伝いをするものだと理解しています。そうした意味では、帰国後の業務にも生きるとても貴重な経験が積めるのではないかと感じています。

65年の歴史を継ぐ人材に

現在、湊さんはサモア財務省のウィメン・イン・ビジネス・ディベロップメントに配属され、現地NGOの事務所を拠点に、有機栽培の農産品や手工芸品の開発・販売を通じて農村に暮らす人びとの自立や生活の向上を目指した活動に取り組んでいます。普及・実証事業で私や他の社員がサモアに行くと現地で彼女に会うのですが、その度に言葉はもちろん、配属先の同僚や地域の人たちを巻き込みながら活動に取り組む中でリーダーシップが養われて、たくましくなっていく姿に驚かされます。

普及・実証事業の結果次第ということもありますが、帰国後は、日本とはまったく異なる文化や生活習慣の中でさまざまな困難や問題を乗り越えて培われる精神力、問題解決能力、語学力やコミュニケーション能力、そして現地のネットワークを武器に、サモア事業の大きな戦力となってくれることを期待しています。

来年、2016年に当社は創立65周年を迎えることもあり、会社組織の活性化を図っていきたいという思いがあります。湊さんにはサモア事業での活躍もさることながら、海外に限らず国内でも新規事業の開拓を積極的に進めてもらい、他の社員にも良い影響を与える起爆剤としての役割を担っていってほしいと考えています。

今のサモアは、ちょうど数十年前の沖縄と同じような発展の段階にあるような気がします。経済的には決して恵まれていないかもしれませんが、だからこそ、そうした中から次代を切り開く人材が生まれてくるのではないでしょうか。そうした環境に身を置き、さまざまな経験を積むことができるのが青年海外協力隊であり、そこに大きな魅力と可能性を感じています。

伝統的な敷物をつくる村の女性たちの家を訪問する湊さん(写真左)

PROFILE

福山商事株式会社
設立:1951年
従業員:120名(2015年4月1日現在)
本社所在地:沖縄県浦添市牧港4丁目14-17
事業内容:卸売業および建設業
HP:http://fukuyamacorp.co.jp/
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