日特建設株式会社高い技術力と協力隊経験者を武器に
海外事業を拡大させていきたい

  • グローバル人材の育成・確保

日特建設株式会社は、基礎工事のエキスパートとして、環境防災、維持補修、都市再生の分野で事業を展開。これまで主に国内で事業を行ってきた同社だが、2014年にJICAの中小企業海外展開支援事業の案件化調査に参画するなど、海外での事業拡大を模索。また、同年10月には民間連携ボランティア制度を活用し、社員を青年海外協力隊としてスリランカに派遣している。海外事業展開を進める中で民間連携ボランティア制度を活用した背景、また期待する効果などについて、海外事業部長の梶田文彦(かじた・ふみひこ)さんに話を聞いた。

地滑り多発国・スリランカ

当社はダムの地質調査と地盤の基礎処理を行う会社として、70年ほど前に創業しました。いわゆるゼネコンではなく、地質に強く、基礎工事を得意とする建設会社です。保有する技術や工法は約200種を数え、日本の巨大ダムの7割以上を当社が受注してきた岩盤グラウチング技術をはじめ、環境保護や防災、補修・補強に効果を発揮するのり面技術や地盤改良技術などがあります。その中には、コンクリートの代わりに連続繊維と砂質土を用いて斜面を補強する環境に優しいジオファイバー工法など、当社独自の工法も数多く含まれています。

現在、建設業界を取り巻く国内の環境は、短期的には東日本大震災の復興工事や公共事業、東京オリンピックなどもあって景気は悪くないのですが、中長期的に見ると、少子高齢化などの影響で厳しさを増していくことが予想されています。そこで目を向けたのが海外でした。2014年から、JICAが中小企業海外展開支援事業として実施している案件化調査普及・実証事業に他社の外部人材として参画するなど、特に「防災・災害対策」分野で、当社が有する技術の可能性を模索してきました。しかし、当社には海外でのビジネス経験がある社員も英語を話せる社員もあまりいませんでした。

そんな時に知ったのが、JICAの民間連携ボランティア制度です。当社の社員が貢献できる分野があるのか確認したところ、スリランカから土木の知識がある隊員の派遣要請があることを聞きました。スリランカでは、雨季には小さな土砂崩れが頻発し、豪雨になると大規模な地滑りなども発生し甚大な被害に見舞われるため、国を挙げた対策が始まっているということでした。ここならば、当社の技術を生かして貢献でき、かつ将来的な事業展開の足掛かりになると考えました。

海外事業部長
梶田 文彦さん

海外事業展開に向け予想以上の成果

社内で協力隊への希望者を募ったところ、手を挙げたのが岡村充哉(おかむら・みつや)さんでした。派遣前訓練を終え、スリランカに派遣されたのは2014年10月です。彼が配属されたのはスリランカ災害管理省の国家建築研究所(NBRO)で、都市計画や道路計画などについて、防災面からアドバイスをすることなどが期待されていました。同時期、土砂災害管理能力の向上を図るJICAの技術協力プロジェクトもスタートしたばかりで、配属先のNBROはこのプロジェクトのカウンターパート機関にもなっていました。

電気も水道もない厳しい環境の中で生活しながら、試行錯誤し、困難を乗り越え、たくましさを身に付けていくというのが、私が青年海外協力隊に対して描いていたイメージでした。しかし、彼が派遣されたのはスリランカの首都コロンボのオフィス。コロンボといえば大都市で、日本のオフィスと大差ないくらいに環境は整っていました。しかし、オフィス環境は恵まれているとはいえ、最初のうちは言葉の壁がありますし、いざ災害が発生すれば、活動の現場は山間になります。もちろん、電気も水道も不自由なく使えるわけではなく、日本では得られない貴重な経験を積んできたことは間違いありません。

その中でも、派遣前訓練と実際の活動を通じてシンハラ語が不自由なく話せるようになったことが活動をしていく上で大きかったようです。災害発生時には、英語が話せない現地の住民とJICA技術協力プロジェクトの専門家の通訳的な役割を果たしていました。彼の活動の様子を見に行った時には、現地の人たちから、彼がいてくれて非常に助かったという話を聞きました。

2016年10月からは、岡村さんの後任として青山拓維(あおやま・たくい)さんを派遣しています。2年間かけて語学力を磨き、人間関係を築いた岡村さんのポストに入るわけですから、比べられてしまうこともあるでしょう。彼にとってはきついこともあると思いますが、それをどのように乗り越え、成長していくのか、非常に楽しみにしています。

民間連携ボランティア制度を通じて、2人の社員がスリランカ災害管理省のNBROに配属され、同研究所の職員やJICA技術協力プロジェクトの専門家などとつながりができたことは予想以上の成果です。また、NBROでの活動を通じて、スリランカでの防災・災害対策についてさまざまな知見が得られていることも、当社のビジネス展開にプラスになっています。

現在、スリランカで防災・災害対策に取り組むため、現地企業との事業連携を進めているところですが、協力隊を経験した彼らが、今後、大きな戦力になってくれることを期待しています。

JICAボランティア経験者から

海外事業部工事部主任 岡村充哉(おかむら・みつや)さん
教えることは自ら学ぶこと

民間連携ボランティア制度を活用した青年海外協力隊の社内公募に応募をしたのは、入社3年目の時でした。大学・大学院で地質を学び、入社後は九州支店でダムのり面工事や高速道路の地盤改良などの施工管理業務に従事し、土木の基礎をひと通り経験した頃です。もともと、国際協力にそれほど興味があったわけではありませんでしたが、若いうちに海外に行っていろいろな経験をしたいと思っていました。民間連携ボランティア制度を活用するのであれば、会社に在籍したまま参加ができる上、自分の成長、そしてステップアップにつながる良い機会だと思い、応募を決めました。

私の配属先となったスリランカ災害管理省の国家建築研究所(NBRO)に協力隊が派遣されるのは初めてのことでした。着任した当初は、日本人が来たけれどどう扱えばいいのか、彼らも分からない、私も何をしたらいいのか分からないという状況でした。まずは相手側から受け入れられるよう、あいさつをしたり、一緒にお茶を飲んだりと、とにかく自分から積極的にコミュニケーションをとるよう心掛けました。また雑談の中から、彼らの仕事の中のどこに課題があり、自分自身どのような貢献ができるのかを探りました。日本にいると上司から言われたことをするのが当たり前になっていましたが、協力隊では自分から動いてやるべきことを探さないと、待っているだけでは何も前には進みません。

何気ないコミュニケーションを積み重ねていったことで、NBROの技術者と土木技術や工法などについて話すことも増え、日本の現場との違いや課題を知ることができました。たとえば、のり面工事で斜面にコンクリート枠を設置するときに、スリランカでは斜面を溝状に掘ってコンクリートを吹き付けるのですが、このやり方だと枠の断面が均一にならないため、どれだけの規模の地滑りに耐えられるのか強度が計算できません。また、日本では積算基準に従って工事費を計算するのが常識ですが、スリランカでは同じ条件にもかかわらず、人によって工事費が高過ぎたり安過ぎたりと、バラバラです。しっかりとした積算基準がなければ、効率的に防災対策を行うための予算を管理することも困難になってしまいます。

その点、当社は数多くの災害現場を復旧してきた実績があり、災害現場の特性に応じてどういった再発防止策や工法を採用すればいいのか、工期や費用はどれぐらいになるかといったノウハウが蓄積されています。私自身、そうした現場に携わってきたことで、彼らが抱えている課題に対して「こんな技術がある」「こんな設計方法がある」と教えることができました。実は、この「教える」という作業は自分自身の勉強にもなるのです。人に教えるためには、感覚的に分かっている、経験上知っているというだけでは十分ではありません。論理的な説明をする必要があるため、日本にいる時以上に、現地では専門書や技術書を読む機会が増えました。

私が活動していた2年間の任期中、2つの大きな災害に見舞われました。1回目は、まだ着任して間もない2014年10月でした。スリランカ中部のバドゥラ県コスランダで大雨による大規模な地滑りが発生し、約2ヵ月間、山にこもって危険地域で今後のリスク調査を行うとともに、雨水を排水するなど、地滑りの予防・軽減工事に当たりました。また、2回目は2016年5月にケゴール県アラナーヤカで発生した地滑りで、100人を超える犠牲者を出した豪雨災害でした。その時は地滑りに飲みこまれた集落に入り、流出土砂量の解析や被災家屋数、被災者数など害状況を調査したほか、その結果をスリランカ防災関係者と共有するためセミナーを開催しました。こうした被災地での活動は肉体的にも精神的にもハードなものでしたが、NBROの職員と共に活動することで、お互いを理解する良い機会になりました。

大きなトラブルもなく、無事に2年間スリランカで活動を終えることができたのは、NBROの職員をはじめ、現地の人たちのおかげだと思っています。シンハラ語で会話していると、スリランカの人たちの優しさをとても強く感じることができます。また、とても親日的で、日本人である私を温かく迎え入れてくれました。

「そんなスリランカの人たちを自然災害から守ってあげたい」。協力隊の活動を通じて生まれた縁を大切にして、今後も現地企業との事業提携を進めながら、当社が持つ防災・災害対策技術をスリランカのために生かしていければと考えています。

岡村さんが配属されたスリランカ国家建築研究所(NBRO)の職員たち

2014年10月にコスランダで発生した地滑りの被害状況をJICA専門家とともに調査する岡村さん(写真中央)

PROFILE

日特建設株式会社
創業:1947年
所在地:東京都中央区東日本橋3-10-6 (本店)
事業内容:総合建設業
協力隊経験者数:1人(2017年1月現在)
HP:http://www.nittoc.co.jp/index.html

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