JICA海外協力隊員との最後の連携事業-工科大学生向け障害リハビリ研修

プロジェクト協力期間も終了に近づいた12月8、9日の両日、プロジェクトでは、首都ティンプーの国立病院からJICA海外協力隊の田辺和隊員(理学療法士)と、その同僚の作業療法士をプンツォリンに招へいし、冬休みをファブラボCSTで過ごす学生インターン11名を対象にしたワークショップを開催しました。工科大学生が自助具をデザインするのに最低限知っておきたいリハビリの知識を学ぶものです。

今年7月、ファブラボCSTでは、世界ファブラボ会議(FAB23)のプレイベントとして「ファブ・ブータン・チャレンジ」をホストしました。国内外のものづくり愛好家を招き、プンツォリンの特別支援学級の生徒の自助具を5日間で数点作製するという取組みで、私たちは幸いにも「人びとが選ぶ最優秀賞(People’s Choice Award)」を受賞することができました。

しかし、この取組みでは、地方で自助具をデザインするのに、次のような課題もあることが明らかになりました。第1に、そもそもブータンでは理学療法士は20名ほど、作業療法士は2名、言語聴覚士も2名しかいません。しかも彼らは首都に集中していて、リハビリが必要な人に対するリハビリが地方では行われていない現状があります。第2に、特別支援学級を担当している先生方の障害に対する認識や対応が不十分であること、第3に、自助具の作製について、工学系のデザイナー、エンジニアが参画するのは素晴らしい第一歩ではあるものの、彼らも障害についての知識をほとんど有していないということが挙げられます。

FAB23以後、ファブラボCSTでは、さらに自助具技術の知見を拡げるため、インド・チェンナイで開かれたEMPOWERカンファレンスに出席し、さらにケララから有識者を招へいして、ローコスト自助具作製ワークショップを学生向けに開催するなど、いくつかの取組みを進めてきました。また、2024年8月にメキシコで開催される世界ファブラボ会議(FAB24)では、FAB23以後1年間のファブラボの取組みの進捗状況について、報告することになっています。

このため、CSTでは、12月8日から1月末まで続く大学の冬休みの間、ファブラボCSTで受け入れる学生インターンに、地域の特別支援学級に通う生徒とその家族にインタビューし、自助具を試作するという課題が課されることになりました。

今回のワークショップは、その学生インターン向け能力強化の一環で、実習開始早々に開催されたものです。

初日は、まず障害について理解を深める講義が行われ、理学療法、作業療法とは何か、脳、神経の働き、主な障害の種類と症状について学び、さらに、自助具の分類、種類、自助具の理論と考え方、自助具の評価、倫理的配慮について、参加者は理解を深めました。

その後はグループワークに入り、「食べる」「書く」「意思疎通をする」「歩く」といった動作に必要な人間の身体機能を分析し、これら4つのケースに対する自助具のデザインとプロトタイプの作製に取り組みました。このプロトタイプ製作は、2日目も引き続き行われました。

参加したCST学生11人のうち、これまでに障害児・障害者と直接接した経験があったのはわずか3人にとどまり、障害児・者から切り離されて暮らしていけることが障害への理解を難しくし、利用しやすい自助具の作製の妨げになる可能性があります。

学生にとっては初めて聞く医療用語や解剖用語が多く、混乱もありましたが、グループで相談しながら作業は進められました。講師側でも、今回は講義形式でまず知識を増やし、症例については比較的複雑でないモデルケースを用意し、作業療法士目線の必要な情報を与え、こういったものを作ってほしいと伝える形式で行われました。それでも、実際の自助具のデザインでは、講師側では想像もしていなかったデザインの意見が出されるケースもありました。

ファブラボと協力隊員との連携では、隊員活動に必要なものをファブラボを利用して試作してもらうという方向だけではなく、ファブラボが協力隊員の知見を利用し、ファブラボ利用者の知識の向上や協働機会の提供を行うという方向も考えられます。今回はファブラボCSTの活動の柱となりつつある「自助具技術」について田辺隊員の協力を得ましたが、同様な隊員側からの知見の提供は、他の職種においても行うことができる可能性があります。

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初日、理学療法士の仕事について説明する田辺隊員(写真/山田浩司)

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講師から与えられた障害ケースをもとに、自助具のアイデアを話ある参加者(写真/山田浩司)

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グループワークの途中、何度かそれぞれのグループのアイデアについて意見交換が行われた(写真/山田浩司)

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提案したい自助具の3Dデザインイメージを説明する参加者(写真/Jigme Sherub Phuntsho)