この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

数学教育

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:15人(累計:146人)
  • 類似職種:小学校教育、理科教育、PCインストラクターなど

※人数は2023年6月末現在

CASE1

佐原 光さん

生徒たちに数学の楽しさを伝える

佐原 光さん
ガーナ/2016年度4次隊・千葉県出身

PROFILE
大学院卒業後、学芸員として科学館に勤務し、協力隊に参加。帰国後は石川県や北海道のフリースクールでも教える。現在は、「どんな境遇の子にも教育の機会を」をモットーに、オンラインのフリースクールにて、不登校の子どもたちにプログラミングを教えるほか、学習の相談を受けるメンターとして活動している。

配属先:セント・バジラス技術学院

要請内容:ガーナ北西部の村落部に所在する技術・職業訓練校にて、現地教員と協力し、生徒たちに数学の授業を行う。また、同僚教員に対して知識・技術向上のためのアドバイスや支援を行う。

CASE2

伊藤 遼さん

研修を通じて教員の質向上を図る

伊藤 遼さん
ホンジュラス/2017年度1次隊・東京都出身

PROFILE
高校時代、尊敬できる先生と出会い数学の教師を志す。北海道教育大学在学中にJICE(日本国際協力センター)のプログラムを経験し、途上国や協力隊に関心を持つ。大学卒業後、新卒で協力隊に参加。帰国後は私立高校で数学教諭として3年間勤務。今後はさらに国際教育に対する見聞を広めるためイギリスの大学院に進学予定。

配属先:ラパス県教育事務所

要請内容:ホンジュラス中西部の県教育事務所を拠点とし、ラモンロサ小中一貫校において、効果的な数学授業の実施に向けた協力を行う。また、現地教員の研修会などを通じて、効果的な指導法の普及や、数学教育の質の向上に寄与する。

   数学教育は、小学校(高学年)、中学校、高等学校、教員養成校などで、現地教員と共に数学を教える。

   身の回りにある資材を活用した教材なども用いてわかりやすい授業を行い、生徒が主体的に学習できるように支援する。可能な範囲で課外授業を実施するなど、生徒の興味を引き出す工夫も求められる。

   また、現地教員と共に授業研究や研修会を行い、授業改善のための助言や指導も行う。

CASE1

得意な理数系の知識を生かして
学ぶ楽しさを生徒たちに伝えた

   佐原 光さんの派遣先は、ガーナの首都アクラからバスで14時間以上かかるアッパーウエスト州にある職業訓練校。生徒たちは中学校卒業相当だが、クラスによって学力差があり、小学校で習う算数が身についていない生徒がいたり、1クラスに60人も生徒がいるクラスもあったため、できるだけ個別に見てあげられるように気を配った。

   学ぶべき単元に対して授業数が少ないと感じたため、教科書から問題を精選して、理解できる順番に並べて小テストを作成した。また、数字を書いたカードをめくってその和が10になるようにする、といったゲーム性の高いアクティビティを授業に取り入れて生徒が興味を持てるように工夫した。全寮制の学校だったので夜の自習時間には補習のほかに数学や理科のクラブ活動も活発に行い、科学の実験や計算力をつける魔方陣などを実施、楽しみながら学べる機会を設けた。

   ガーナは教育系の隊員が多く理数科分科会があったので、お互いの任地を回り、生徒たちが楽しめるようなワークショップも実現できた。

   学校の長期休み中には子ども向けのキャラバンツアーを実施したが、前職の科学館勤務の経験が役に立った。例えば多面体のパズルを作ったり、パソコンを使って数列の問題を視覚化したり、普段はできないような科学実験に子どもたちは目を輝かせて取り組んだ。現地の教員たちにそうした教材を教えたところ、実際に授業で使ったり、生徒たちが楽しく学ぶ様子に効果を感じてくれたことも大きな収穫となった。

   今後は数学という枠にとらわれず、教育者として、自分の体験を子どもたちに伝え、いずれ自分の思いを受け継いだ若い世代が教育に携わってくれることを願っている。

佐原 光さん

最大のピンチ(任期序盤)

生徒が校則違反をすると厳しく罰せられていたのには戸惑いました。授業中にスマートフォンを使ってはいけないのに、使ってしまった生徒がいると、その生徒のスマートフォンを使えなくしたりするなど、生徒指導の厳しさには驚きました。一方で、教員のなかには、授業に遅れて来たり、時間にルーズな人もいましたが、そうした教員の意識を変えるところまでには至らず、自分の力だけではどうにもならないことに胸が痛みました。


最高のやりがい(任期中盤)

配属先の職業訓練校で数学の授業を行う佐原さん

配属先の職業訓練校で数学の授業を行う佐原さん

派遣先の学校は全寮制で、私も同じ敷地内に住んでいたので、休みの日も生徒たちと遊ぶなど交流を深めることができました。PCインストラクターの同期隊員もいたので、連携を取りながらさまざまな活動ができたのもよかったです。生徒たちの楽しそうな表情を目にするとこの上ないやりがいや幸せを感じることができました。数学クラブも情熱のある同僚が引き継いでくれ、自分の思いが伝わったと嬉しく思っています。


CASE2

活動地域で研修会を開催して
数学教育の質の改善を図った

   伊藤 遼さんが派遣されたのはホンジュラスの首都からバスで2時間ほどのラパス県。新規派遣で手探り状態だったため、最初の1年間はとにかく周囲とのコミュニケーションを大切にし、活動拠点校であるラモンロサ小中一貫校だけでなく他校の視察も行い周辺校を含めて現場の課題を探った。その結果、地域の数学教員との関係を築くことができ、他県の数学協議会で研修会を開く機会にも恵まれ、教授法や数学を教えた。

   現地では数学と母国語であるスペイン語をとても重視しており、数学ができないと子どもの将来に負の影響を与えてしまう傾向がある。しかし農村部などでは、分数計算もままならないのに、教員不足のため教員免許がなくても教員になれてしまう現状も知った。

   そこで、まずは教員の数学教育の質の向上を図ろうと、県の教育事務所と連携し、ラパス県でも研修会を開いてもらうように働きかけた。活動拠点校で実際に授業を行い、県内の教員に見てもらうようにしたところ、参加者は100人余りになった。純粋に数学を教えてほしいとの声を受けての指導はもちろん、皆で座標黒板を作って、それぞれの学校に持ち帰れるようにもした。板書計画なども丁寧に伝えた。

   また、タイミングよく現地の教科書改訂にあたるJICA専門家が活動していたので、盛り込む演習問題を精査したり意見を述べたりすることもできた。

   他の隊員と協力してタレアディアリア(※)を導入し、毎回授業の冒頭5分で前回の授業内容を復習できるような冊子を作成したことも、その後につながる活動になったと自負している。

※タレアディアリア…ホンジュラスの学校では復習の習慣がなかったため、教育系隊員が協力して前回の授業の復習ができる副教材を作成し教員に使ってもらうようにした。本来は、「タレア」は「宿題」、「ディアリア」は「日々の」という意味。

伊藤 遼さん

最大のピンチ(任期序盤)

半年ほどたった頃、カウンターパートに信頼されていないと思い込み、人間関係に疲れて1週間くらい学校に行けなくなってしまいました。任地でクーデターが起きて戒厳令が敷かれた状況も重なり、誰にも相談せず部屋の中で一人思い悩みましたが、せっかくここまで来たのだからと奮起。はっきり「ノー」と言うなど意思表示することで周囲とも信頼関係や絆が生まれ、単なる自分の取り越し苦労だったのだと気づくことができました。


最高のやりがい(任期終盤)

活動拠点校の生徒たちと伊藤さん(前列右から3人目)

活動拠点校の生徒たちと伊藤さん(前列右から3人目)

カウンターパートがとても優秀だったので、彼女に自分の知識をすべて伝え、それを実践して、教師として活躍してもらうことを第一に考えていました。帰国の少し前のタイミングで改訂された教科書が配布されることになり、ラパス県をはじめ複数の県の代表として、彼女が新教科書を使ったデモンストレーション授業をやる機会を得たときは、胸に迫るものがありました。今後は彼女が質の高い教育を成し遂げてくれるに違いないと確信しています。

Text=海原美帆 写真提供=佐原 光さん、伊藤 遼さん

知られざるストーリー