この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

家政・生活改善

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:9人(累計:651人)
  • 類似職種:コミュニティ開発、マーケティング、野菜栽培、食品加工、手工芸、料理、栄養士

※人数は2023年11月末現在

CASE1

金森知美さん

先住民が大半を占める地域で
女性や子どもの栄養改善

金森知美さん
グアテマラ/2017年度3次隊・東京都出身

PROFILE
大学生時代、国内外のワークキャンプに参加したことで、子どもたちとの交流や、各国の実情を知ることに興味を覚えた。バングラデシュとザンビアで栄養改善に取り組む財団でインターンを経験後、大学で学んだ管理栄養士の知識を生かしたいと新卒で協力隊へ参加。帰国後も国際的な栄養改善に関わる業務に従事している。

配属先:ウスパンタン市役所

要請内容:市の食と栄養の安全保障及び地域経済発展課の職員と共に市内の女性・女子の栄養状況の調査・診断を手伝い、妊産婦・乳幼児の栄養摂取についての研修会の立案・実施を支援する。また、身近な食材を使ったレシピ、疾病予防対策の紹介をする。

CASE2

髙橋いづみさん

乾期の食料不足解消へ
食品加工を通じて貢献

髙橋いづみさん
ザンビア/2017年度3次隊・滋賀県出身

PROFILE
小学校の担任の先生が読んでくれた『世界がもし100人の村だったら』で、きれいな水が飲めない人、教育を受けられない人など、世界には多くの困っている人々がいるという事実に衝撃を受けた。短大で栄養士の勉強をしながらフィリピンのスタディツアーに参加し、貧困を目の当たりにした。病院に就職後、効率を重視するあまり食品や水を無駄にする職場と現地とのギャップを思い出し、協力隊に参加した。

配属先:ルサカ州農業事務所(チランガ郡農業事務所)

要請内容:首都ルサカ近郊のチランガ郡で、同僚と一緒に農村を巡回しながら村に暮らす人々を対象に栄養・生活改善活動を行う。特定の栽培知識・経験は必要なく、農業、料理、営業などの知識や経験を生かして活動する。

「家政・生活改善」隊員は、女性や子どもを含めた人々の生活が、家庭や地域全体で向上していくように、衣食住や暮らしの改善などに取り組む。

   食や被服、農業に関する知識や技術が求められ、栄養士や調理師、家庭科教員などの資格があれば活動に役立つが、そうした資格不要の要請もある。

CASE1

赤・黄・緑の「三色食品群」活用
健康的な食事を印象に残す

   金森知美さんが活動したのは、マヤ系先住民が人口の大半を占めるグアテマラ中央部キチェ県。ウスパンタン市役所に配属され、女性や子どもたちの食生活や栄養状況の改善に取り組んだ。

   調べてみると、トウモロコシや豆は栽培している家庭が多く、市場では野菜や果物が売られていた。しかし、摂取する食材の偏りが大きく、それが栄養不良につながっていた。低栄養による発育阻害で、年齢に見合わない低身長の子も多かった。

「住民たちは毎食、トウモロコシの粉を練って平たく焼き上げたトルティーヤを食べていました。それを5、6枚食べるのが普通でしたが、おかずはわずかで、炭水化物過多でした」

   金森さんは「健康的な食事とはどういうものか、イメージを持ってもらえば現地の人の印象に残るだろう」と考えた。そこで活用したのが、食品を「赤」「黄」「緑」に分ける「三色食品群」だった。「赤」は、体を作る基になる肉や魚、豆、卵など、「黄」にはエネルギーの基になる米やパン、イモ類など、「緑」は体の調子を整える野菜、果物、キノコ類などが含まれる。3色を取れば、バランスの良い食事になる。

   コミュニティ巡回の機会を増やそうと、助産師隊員が関わる妊産婦向けの研修や知り合いになった教員の小学校なども訪問し、「三色食品群」を広めていった。これは地域住民や子どもたちと直接触れ合う良い機会となった。

   「野菜は緑」と知っている人もいれば、「トルティーヤは緑じゃないんだ」と驚く人もいた。金森さんはより印象に残すため、日本文化の紹介も兼ねて、和食の基本「一汁三菜」(※)の紹介もしながら、健康的な食事の大切さを伝えて回った。

※一汁三菜…主食・汁物・三菜(主菜1品・副菜2品)で構成した献立。

金森知美さん

最大のピンチ(任期中盤)

着任から1年がたっても、研修や家庭訪問の件数が延びませんでした。管理職であるカウンターパート(以下、CP)に「こういうところに行きたい」と言えば実現するものの、CPがいない時に職員に頼んでもあまり動いてくれず、彼らに不信感を持ち始めました。選挙で市長が代わり、ボランティアの位置づけが変わったことも影響していたようです。配属先以外の人と連携して動く許可をもらい、他の隊員や知り合いになった教員のつながりで研修会や学校に訪れるようになり、状況が良くなりました。


最高のやりがい(任期中盤)

マヤ系先住民のコミュニティで三色食品群について紹介した

マヤ系先住民のコミュニティで三色食品群について紹介した

子どもたちに三色食品群を覚えてもらうため、塗り絵を使いました。絵の中に食品の名前を書き込んでおき、米なら黄色、肉なら赤というように、当てはまる食品群の色を塗ってもらうのです。きっかけは、もともと学校で塗り絵を使った宿題が多く出されていたことでした。狙いどおり、子どもたちは夢中になって色を考えて塗り、「見て、見て」「これ、何色なの」と楽しんでやってくれたので、嬉しかったです。


CASE2

各農家で食品乾燥ネット自作
乾燥野菜のおいしさを広める

   病院で栄養士として働いていた髙橋いづみさんは、ザンビアの首都ルサカに程近い郡の農業事務所で、食品加工を通じて栄養改善に取り組んだ。

   現地は、作物を育てることができる雨期(12~4月)と、雨が降らず作物が作れない乾期(5~11月)に分かれている。乾期の終盤では、食べるものに困る農家もいた。

「灌漑設備もないため、乾期の終わりに食べ物が不足する一方、マンゴーなどの収穫期には、採り切れない果実が地面に落ちたりしていました」

   そうした無駄をなくすために作物を加工して保存することを考え、特に乾燥野菜作りに力を入れた。髙橋さんの着任前にも野菜を乾燥させる取り組みはあったが、麻袋の上に並べていたので、砂をかぶったり、家畜に食べられてしまったりで、うまくいっていなかった。

   そこで髙橋さんが取り入れたのが、乾燥ネットだった。鳥籠より少し大きい円柱型のネットを各農家で自作してもらい、その中にマンゴーやトマト、バナナを入れて乾燥させる。木からつるせば、風も通り、家畜による被害も防げる。二段底にして効率も高めた。しかも、乾燥させるとおいしくなる上、高くなる栄養素もある。

「各地でワークショップを開き、乾燥野菜の作り方と調理方法を計約120人に紹介しました。その結果、『ほとんどの農家が乾燥野菜を作っているよ』と聞き、その普及ぶりが嬉しかったです」

   大豆や落花生、米などの種を渡して、生産と収穫、種の入手までのサイクルを作ることに挑戦する農家もあった。

   とはいえ、卵や肉などタンパク質の摂取にはやはり現金収入が必要だと感じた髙橋さんは、乾燥野菜を販売できないか模索しつつ、ワークショップに他の隊員を招き、マーケティングやビジネスプランの話もしてもらった。

髙橋いづみさん

最大のピンチ(任期序盤)

着任から半年余り過ぎた頃、ワークショップに人が集まらず、悩みました。4~5人の時もあり、「興味がないのかな、来たくないのかな」とネガティブに捉えていました。そこで、村ごとに実施する曜日、時間を固定することと、その村を担当している配属先の農業普及員に「前日に再度、SNSでリマインドしよう」と提案しました。やってみると、多い時は参加者が30人にもなりました。やがて、私が前日のリマインドをし忘れていると、普及員から催促されるまでになりました。


最高のやりがい(任期中盤)

自作した乾燥ネットで野菜を乾燥させる農家の女性たち

自作した乾燥ネットで野菜を乾燥させる農家の女性たち

それまで乾燥させる習慣がなかった野菜も食べるようになるのか、気になっていました。脂質や塩分の取り過ぎの傾向もあったので、ワークショップでは、乾燥野菜を煮たり、蒸したりする料理の紹介もしました。「油がなくてもおいしい」「塩を入れなくても素材の味がする」などと好評で、マンゴー、トマト、バナナのほか、オクラやカボチャ、タマネギなど、何でも乾燥させて食べるようになってくれました。そのまま定着してくれることを願っています。

Text=三澤一孔 写真提供=金森知美さん、髙橋いづみさん

知られざるストーリー