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日本はなぜアフリカを支援するのか? きっかけは冷戦終結後の国際情勢

2022年6月23日

日本政府が主導する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が今年8月、チュニジアをホスト国として開催されます。今回のTICAD8は、新型コロナウイルスの脅威が続き、ロシアのウクライナ侵攻に世界の耳目が集まる中での開催となります。

「世界の目がウクライナに注がれ、アフリカへの関心が薄れがちな現在の状況は、ある意味、第1回目のTICADが行われた冷戦直後の時代に似ています。こうしたタイミングだからこそ、アフリカの国際社会における重要性を再確認することが必要です」と国際協力機構(JICA)加藤隆一上級審議役は話します。

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国際協力機構(JICA) 加藤 隆一 上級審議役

TICADの出発点

冷戦の後期、アフリカは東西陣営の勢力争い、代理戦争の場となりました。両陣営ははアフリカの人々の心を掴むために、さまざまな援助活動を行いました。しかし冷戦が終わると、アフリカが持っていた戦略的な意義が薄れ、、先進国からの援助や支援が減少するなど、アフリカは周辺化されました。こうした状況で、アフリカに寄り添い、国際社会の関心をアフリカへ呼び戻すことを目的に、1993年にTICAD Iが開催されました。

細川護煕首相(当時)はTICAD Iの基調演説において、「世界的な相互依存関係がますます深まりを見せている中で、アフリカが直面する問題は国際社会全体にとっての問題なのであります。私は、こうした対話を通じて、自助努力に対するアフリカ諸国の確固たる意思が示され、また、それを支援する政治的コミットメントがアフリカの開発パートナーより示されることを強く期待したいと思います。」と述べました。

この演説で示されたのは、アフリカ協力の基本となる「オーナーシップ(自助努力)」と「パートナーシップ」の概念です。TICAD Iから10年後となるTICAD IIIでは、日本の外交の柱となる「人間の安全保障」の概念が導入され、日本の対アフリカ協力では「人間中心の開発」「経済成長を通じた貧困削減」「平和の定着」が3つの柱として確立されました。

日本のアフリカ開発協力の理念は日本国憲法に根差している、と加藤氏は言います。

「日本国憲法の前文には、『平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ』と書かれています。私はいろいろなところで講演をするとき、日本の開発協力の理念はここにあると言うのです。これこそが、日本の開発協力や外交政策の基本となる考え方であると考えています。」

感染症に続き地政学上のグローバルな危機に際し、苦境に立たされているアフリカに寄り添って国際社会にアピールすることは日本の国是であり、開発協力の理念そのものを体現するものではないかと、加藤氏は強調します。

オープンフォーラムとしての国際会議

TICADは、アフリカ諸国のみならず、開発に携わる様々な機関が参加するオープンなフォーラムであることが特徴です。日本政府のほか、共催者である国連(UN)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)、アフリカ諸国のリーダー、民間企業のトップ、市民社会のメンバーらが共に参加し、知恵と努力を結集し、真にアフリカの開発に貢献すべく議論を行ってきました。

2019年のTICAD7では、アフリカ53カ国から42人の首脳級の政府関係者、52カ国からの開発パートナー、108人の国際機関や地域機関の代表者、さらに市民社会と民間セクターのパートナーなど、1万人以上の関係者が参加しました。

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2019年のTICAD7では、42名の首脳級含むアフリカ53か国、52か国の開発パートナー諸国、108の国際機関及び地域機関の代表並びに民間セクターやNGOなど市民社会の代表ら、10,000名以上が参加。

1993年開催のTICADI以降、日本は30年以上にわたりアフリカの発展にコミットし、このような大規模な国際会議の開催を継続していることは、日本がアフリカとのパートナーシップ関係をいかに重視しているかを示しています。


援助国-被援助国という関係を超えて

TICADを通じ、日本はアフリカ主導の開発を一貫して重視してきました。2003年のTICAD IIIでは、日本はアフリカ連合(AU)が策定した開発計画である「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」への支援を国際社会に呼びかけました。それ以来、JICAはNEPAD計画調整庁およびその後継機関であるAUDA-NEPADと緊密に連携しています。

TICADはより良い生活に向けた開発に関する対話の場であり、TICADをきっかけに、多くのプロジェクト展開につながっています。安全な飲料水へのアクセスの確保、小中学校やヘルスケア・医療施設へのアクセス改善による生活の質の向上などがその例です。

中でも、特筆すべきプロジェクトが「アフリカ稲作振興のための共同体」(CARD)です。本プロジェクトは、2007~2008年の食糧危機を受け、サブサハラ・アフリカのコメ生産量の倍増を目指す国際枠組みとして発足しました。アフリカ諸国の取り組みに対し、国際機関およびJICAの力を結集させ、2008年から2018年の間にアフリカの米生産を2倍にするという目標を達成しました。

TICADを通して日本が発信しているのは、援助国-被援助国という関係性を超えて、日本はアフリカの信頼できる友人、パートナーとして相互に発展しようというメッセージです。こうした姿勢は、アフリカの現地のリーダーシップ、オーナーシップ、パートナーシップを重視する協力理念にも表れています。

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加藤氏は、TICADに対する日本の考え方を「継続的な対話」と表現します。

「日本とアフリカは、TICADというプロセスを通じて、常に対話を続けています。日本はTICADを通じてアフリカから学び、アフリカもまた日本から学んでいます。対話を通じて、互いに学び、互いに知り合う。このプロセスを通じて、私たちは相互の信頼関係を築いているのです」

2022年のアフリカは、いまだ続くコロナ禍や、ウクライナ情勢から影響を受けた食糧、エネルギーなどサプライチェーンの混乱に伴う多くの課題に直面しています。こうした中、日本は、アフリカ各国のリーダー、アフリカの市民社会、国際的なステークホルダーとともに、人間の安全保障と持続可能な開発を確保するための技術、イノベーション、デジタル変革に取り組んでいます。時代とともに国も人も課題も変わります。しかし、連帯を重視し、真にアフリカの発展に貢献しようとする意志は、TICAD8においても変わることはありません。