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ポストコロナのアフリカを支える協力の形:3つの特徴

2022年6月28日

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国際協力機構(JICA)アフリカ部計画・TICAD推進課 薬師 弘幸 課長

「世界中の関心がアフリカに集まっています。それ自体は良いことですが、TICAD8で最も強調したいのは、日本のアフリカ協力の独自性と意義です」と語るのは国際協力機構(JICA)アフリカ部計画・TICAD推進課 薬師 弘幸 課長。

今年、日本政府が主導する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が開催されます。世界が新型コロナウイルス、気候変動、食糧安全保障などの危機に直面する中、JICAは、アフリカ各国といかにして、アフリカのレジリエンス(強靭性)やオーナーシップ(自助努力)を育み、「人間の安全保障」を実現しようとしているのか。薬師課長に話を聞きました。

Q:JICAは長年アフリカへの協力を続けてきました。この経験は、アフリカのコロナ対応にどのように寄与したのでしょうか?

JICAによる長年のアフリカへの協力の成果がコロナ禍におけるアフリカの緊急的なニーズに応えた事例はいくつもあります。例えば、JICAはガーナの野口記念医学研究所(NMIMR)との協力を約40年前に開始しました。その後、この研究所は活発に活動を続け、エボラ出血熱の発生時など、常にガーナにおける感染症対策の最前線で研究を行うようになりました。そして、今回のコロナ禍においても、同研究所はJICAとの協力で蓄積した豊富な経験をもとに、ガーナにおけるPCR検査の8割を実施するなど、大きな役割を担いました。

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ガーナの野口記念医学研究所にある先端感染症研究センター

Q:アフリカにおけるワクチン接種を推進するため、日本にできることは何でしょうか?

日本政府はCOVAXファシリティの取り組みを支持し、これに対する拠出を積極的に行うなど、国際的にもかなり高いレベルでワクチンの普及活動に携わっています。

JICAは、他の本邦銀行と共同によるアフリカ輸出入銀行(Afrexim)への融資を通じて、アフリカのワクチン製造ラインなどの医療・医薬品の製造および供給のための拠点整備、病院などの医療・保健施設の整備に貢献しました。

また、JICAはワクチンのサプライチェーン構築に資する協力を行っています。これらの協力は、長期的な視点で、持続的且つ強固なシステムの構築を目指しています。昨年は「ラスト・ワン・マイル支援」として、ガーナ、マラウイ、モザンビーク、セネガルと贈与契約(G/A)を結び、ワクチンや低温保存が必要な資材のためのコールドチェーン機器や疫学調査機器を提供しました。これに加え、現地の人々がワクチン接種を受けるために必要なシステムの構築と運用に資する能力向上支援も行っています。これらの「ラストマイル」の活動を通じて各国の人々が確実にワクチンを受けられることを目指しています。

その他、JICAは緊急のワクチン接種ニーズに応えるだけなく、「JICA世界保健医療イニシアティブ」のもと、強靭で包摂的な保健システムの構築に取り組んでいます。

Q:アフリカ社会がレジリエンス(強靭性)を構築するのに貢献できるJICAの強みとは何でしょうか?

JICAの「豊富な経験に基づく人材育成」」「日本の経験と得意分野の活用」は、アフリカのレジリエンスを強化するために有効に活用できるJICAの強みといえます。

たとえば、1960年代から70年代にかけて日本の高度経済成長を支えた「カイゼン」アプローチや、戦後日本で広く普及した妊娠・乳幼児期の母子の健康を守るための「母子手帳」は、JICAの協力によってアフリカの多くの国で普及しました。いずれも、日本の経験を活用することで、アフリカ社会経済の強靭性強化に寄与した事例と言えます。またJICAが人材育成を行うことで、アフリカの人々のイニシアティブによる日本の経験を活用したアプローチを推進することができました。

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アンゴラでの母子手帳の使い方に関する研修

Q:「人間の安全保障」の重要性について教えて下さい。

JICAのミッションは、国際協力を通じてアフリカを含む世界と信頼関係を築くことです。「人間の安全保障」は、このミッションを達成する上で鍵となる理念と言えます。

人間の安全保障とは、すべての人間が貧困や恐怖から自由を得ることです。国際社会では国家の安全保障の概念が一般化していますが、その国家における政府の究極的な役割は、「その国で暮らす人々を守ること」です。このため、JICAは政府間による国際協力を担う機関ですが、その政府間の協力が必ず現地の人々に届いていることを重要視しています。人々につながる協力があるからこそ、アフリカの政府とアフリカの人々、そしてアフリカの人々と日本の人々の信頼関係がより強固なものになると信じています。

2021年12月、ウガンダ国会ではJICAのこれまでのウガンダへの協力を称える決議が採択されました。この決議の発端は、20年以上に亘る内戦の影響を受けたウガンダ北部地域に対するJICAの復興支援を称えるために、北部地域選出の国会議員により提案されたものでしたが、審議の過程で、北部地域に限定せず、人への投資、ウガンダの自立的発展に焦点を当てたJICAの全ての協力を称えるべきとの意見が採用され、多岐にわたるJICAの長年の協力が称えられることになりました。これは、JICAの協力がウガンダの人々に届き、その結果として日本の人々との間に築かれた信頼関係を示す象徴的な出来事だったと言えます。

Q:「人々につながる」協力について、もう少し詳しく説明してください。

たとえば、教育や医療サービスの最終的な受益者は現地の人々です。このような人間の基本的ニーズのサービスを受けることは人々の基本的な権利ですが、政府によるサービス提供がなければ、人々が自分自身で選択し、人生を切り開くことが難しくなってしまいます。政府の最も重要な役割の一つは、国民に「機会」を提供することであり、JICAは各国政府がそのような「機会」を提供できるように支援することに重点を置いています。このために、JICAによる協力は、政府間協力であってもその成果が必ず現地の人々の便益につながることを特に重視しています。


Q:アフリカ協力に対するJICAのアプローチが持つ価値とは何でしょうか?

一つ目は、先に述べたように「人間を重視」していること。二つ目は、「日本の経験の活用」です。非西洋国である日本の発展は、他の先進国と比べユニークな立場にあります。独自の伝統とアイデンティティを守りながら、近代化を実現し、その試行錯誤の過程では多くの教訓も得ています。日本のユニークな経験や教訓を共有することは、JICAにしかできないことです。

三つ目は、「アフリカのオーナーシップの尊重」です。 アフリカの課題は、アフリカの人々こそが解決策を知り、自らの力で解決できると信じています。JICAができることは、自らの経験や専門性を共有し、共に考え、彼らの要望に応じて技術的・資金的なサポートを行うことにあります。それ故に、私たちは自らの活動を敢えて「援助」とは呼ばず、「協力」と呼んでいます。


Q:JICAにとってTICAD8を通して実現したいことはどんなことですか?

今回はパンデミック後初のTICAD開催となります。TICAD8を契機として、パンデミックが与えたアフリカの社会・経済における困難な状況を乗り越え、強靭な社会を構築していくために、アフリカ諸国や他のパートナーとのパートナーシップを強化していきたいと考えています。アフリカは、気候変動のような地球規模の問題や、大陸の外の紛争等の危機からくる影響などの外的なショックを受けても簡単に崩壊しない社会経済の構築が必要なのです。また、アフリカの人々が日本の協力の価値を認識し、信頼がさらに深まることも願っています。アフリカは急速な成長と変化の真っただ中にあります。ポストコロナの新時代の今、アフリカが直面している変化に、我々の協力も適応していかなければいけません。そしては今、国際社会の安定が脅かされ、アフリカが置かれた状況も更に急激に変化しています。このような変化の時代において、JICAの変わらぬ理念である民主主義的価値観に基づく「人間の安全保障」の概念は、アフリカにとってこれまで以上に重要となるでしょう。

JICAは、長年のアフリカ協力によって培った伝統的な価値を礎としつつも、今日アフリカが直面している新たな課題に対応するためには、更なる価値を付加していく必要があります。特に民間セクターと連携しながら、デジタル技術やイノベーションを積極的に活用していくことは不可欠です。TICAD8では、JICAによるアフリカ協力の「伝統的な価値」と「新しい価値」の両方をアフリカのパートナーと共有し、議論することで、新しい時代におけるアフリカの発展に寄与する日本とアフリカの関係強化を図る機会にできればと思います。

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