「ラスト・ワン・マイル」に挑む:途上国の人々に新型コロナワクチンを届ける仕組みづくりを迅速に開始

2021年8月19日

世界中で新型コロナの感染拡大が続くなか、JICAは途上国で、迅速にワクチンが接種できる体制への協力を急ピッチで進めています。6月30日以降パレスチナを皮切りに、マラウイ、モザンビーク、モンゴル、フィリピン、ガーナ、セネガルの6ヵ国1地域で、より多くの人々がワクチンを打つことができるよう、保冷用冷蔵庫といった設備や運搬車両などコールドチェーン(低温物流)整備に必要な機材を提供する新たな協力を開始しています。

地球規模で新型コロナを封じ込め、安心安全な暮らしを取り戻すためには、先進国だけでなく途上国において、少しでも早くワクチン接種ができる仕組みを整えることが何よりも重要です。JICAは、これまで途上国と築いてきた信頼をもとに、その国のニーズを丁寧にくみ取り、さらに日本の民間企業ともタッグを組んで、迅速かつ確実にワクチンを接種会場まで届けるため、その最後の「ラスト・ワン・マイル」への挑戦を続けていきます。

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パレスチナの新型コロナ検査機関で、PCR検査の準備をする医療スタッフ。パレスチナの医療体制は、新型コロナの感染拡大に追い付いておらず、機材や医療人材の両面での協力が急務

前例のないスピードで協力の枠組みを決定。オールJICAで取り組む

「どの国を対象にどのような協力ができるか、どんな機材を提供することが求められているのかについて、JICAは外務省と4月から検討を開始し、わずか3か月で実施が決まったのは前例のないことです(注)。JICAの現地事務所が日ごろから相手国の保健省関係者と丁寧に対話を行って信頼を築いていたことに加え、関係部署がそれぞれの役割を果たしつつも情報を交換し、協力し合うなど、オールJICAで取り組めたからこそ、実現できました」

(注)日本政府による閣議決定

そう語るのは、JICA新型コロナウイルス感染症対策協力推進室の久保倉健副室長です。今回、7ヵ国へのワクチン接種体制の強化を図るための機材提供は、「無償資金協力」という途上国に返済義務を課さない資金協力の形で実施されます。通常は、協力内容を特定するための調査を経て実施の決定まで1年以上かかりますが、新型コロナの感染拡大という差し迫った状況のなか、極めて短期間での協力実現にこぎつけました。

セネガルの地方部でポリオワクチンの接種をサポートするJICA海外協力隊員の助産師(左)。途上国での保健衛生サービスの向上を支えます

限られた時間で、必要な機材について各国の保健省などと丁寧に協議できたのは、これまで培ってきた信頼関係があったからこそ。さらに今後、機材の保守管理に向けた人材育成を進めるなど、機材提供にとどまらない、JICAならではの包括的な協力を続けていきます。

パレスチナでワクチンの適切な搬送や、安全な接種に向けた検査体制の向上を後押し

今回いち早く提供する機材が決まったパレスチナのマイ保健相からは「ワクチンの運搬が課題となるなか、保冷機能付きの運搬車や持ち運びができるポータブル冷凍庫といった機材は大変有難いです」との声が寄せられています。

パレスチナではこれまで感染症の脅威が小さかったため、アジアやアフリカのような感染症研究拠点もありません。新型コロナ流行初期から今まで、検査、治療、ワクチン接種などすべてにおいて、機材が不足し、また接種体制を構築するノウハウも不十分で、対応が後手に回っています。

パレスチナ事務所の坂元律子次長は切迫した現状について次のように語ります。

自治区西岸ラマッラにある新型コロナの中央検査機関の医療スタッフ

「自治区西岸の新型コロナ検査機関を見て回りましたが、機材は最低限の個数はあるものの一つでも故障したら予備がない。検査技師も他の国際機関から短期的に派遣されている人が多く、いつ検査体制が崩壊するかわかりません。また、現在、世界的な脅威となっているデルタ株の検査はできず、隣接するイスラエルで増加傾向にあるデルタ株がパレスチナに入ってこないはずがないのに、その流入実態がわからないなかでパレスチナ保健庁は新規感染数を毎日発表している。なんとも切ない状況です」

ラスト・ワン・マイルに向けた協力で、パレスチナには、コールドチェーン機材のほか新型コロナ検査に必要な最新の検査機器(次世代DNAシークエンサーなど)を提供します。これらは正確な感染状況を把握し、ワクチンの効果をモニターするためにも不可欠です。

また、今年5月の空爆で、ガザ地区唯一の新型コロナ検査機関も大きな被害を受けました。さらなる医療体制への協力が求められており、必要な機材をいち早く届けることができるよう、準備を進めています。

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空爆で大きな被害を受けたガザ地区の新型コロナ検査機関(写真右側の建物)

日本企業が持つ世界的にも優れた冷凍冷蔵技術も活用

ツインバード工業のワクチン運搬庫の生産現場

ワクチン接種体制の強化に向けた協力で提供する機材のなかには、日本の民間企業であるツインバード工業(新潟県燕市)が開発したワクチン運搬庫があります。これは、精密な温度制御が可能な同社が持つ特許技術が活用され、コンパクトで持ち運びができるポータブル超低温冷凍冷蔵庫です。すでに日本国内でも1万台以上が新型コロナワクチンの輸送や保管用に使用されています。自動車のシガーソケット(電気供給装置)から電源を取るユニークな機能を持ち、揺れにも強いなど、ワクチンの質を担保しながら遠隔地への運搬が可能で、悪路の多い途上国の地方部での活用が期待されます。

東ティモールに提供されたツインバード工業のワクチン運搬庫

すでに東ティモールでは、ワクチンの搬送を担う医薬品・医療器材サービスセンターの職員に向けたJICAの研修をより充実させるため、このワクチン運搬庫が提供され、首都ディリ近郊でのワクチン配送に役立っています。

今後、途上国でのワクチン接種を進めるうえで、このワクチン運搬庫は大きな役割を果たすことが見込まれます。ツインバード工業の野水重明代表取締役社長は、新潟県燕三条地域の金属加工の技術を集結したこの日本製のワクチン運搬庫が、新型コロナ感染防止という地球規模の社会課題解決に向けて貢献できることについて、「20年以上前に技術投資を英断した先代の社長やその意志を受け継いだ私自身も、今回のような新型コロナによるパンデミックが起こり、私たちツインバードがワクチン運搬庫を通じて世界中でお役に立てる日が来るとは想像していませんでした」と述べます。

そして、「途上国での安全安心なワクチン接種に向けたラスト・ワン・マイルへの協力の一助となれることを誇りに思うと同時に、ワクチン接種の場だけではなく、さまざまな用途で当社独自の冷却技術を活用してもらえるよう取り組んでいきたいです」とさらなる協力に意欲を示します。