水資源

【水資源】

1. 水資源課題の現状

水は人間の生存に不可欠であり、飲料水や生活用水としてのみならず、食料生産や、生計を確保するための経済活動に必要なものとして、直接的・間接的に人間の生活を支えています。人間が健康で文化的な生活を営むには、良好な水環境を保全するとともに、適切かつ効率的に水を利用し、健全な水循環を構築・維持していく必要があります。

特に、安全な水の供給と衛生の改善は、疾病リスクの削減につながり、生存・生活・尊厳に対する脅威から人々を守る「人間の安全保障」の観点からも、非常に重要な課題であると言えます。例えば、汚染された水に起因する下痢、赤痢、コレラ等の水因性疾病により、年間50万人が死亡(注1)していると言われており、その多くは乳幼児です。また、乳幼児の低体重や栄養失調の50%(注2)は、不衛生な水、不十分な衛生施設へのアクセス、及び不適切な手洗い等の衛生行動に起因する頻繁な下痢や寄生虫症に関連しているとされています。

安全な飲料水を得るために、毎日水汲みを行っている人も多く、その多くは女性や子供です。また、水売りからの購入費や水因性疾病への医療費のために多額の出費を強いられている家庭もあります。安全で手頃な価格での水の供給は、ジェンダー、教育、母子保健、及び貧困削減等の課題の解決、さらには社会や経済の発展にも関連しています。

基本的な給水サービスを利用できる人々の割合(2015年)

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(出典)Progress on Drinking Water, Sanitation and Hygiene 2017(Update and SDG Baselines), JMP

基本的な衛生施設を利用できる人々の割合(2015年)

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(出典)Progress on Drinking Water, Sanitation and Hygiene 2017(Update and SDG Baselines), JMP

安全な飲料水にアクセスできない人々を2015年までに1990年比で半減することを目標として掲げたミレニアム開発目標(MDGs)は2010年に達成されましたが、2015年時点で依然として約6.6億人(注3)が基本的な給水サービスを利用できていないと推計されています。

また、2015年時点で基本的な衛生施設(トイレ)が使えない人々が24億人(注4)いるとされており、9.5億人(注5)は野外排泄を行っていると言われています。特にサブサハラ・アフリカと南アジアにおいて深刻です。衛生へのアクセスに関するMDGsのターゲットは達成できておらず、依然として人々の健康に対する重大なリスクとなっています。

(注3)(注4)(注5)出典 UNICEF and World Health Organization(2015)"Progress on sanitation and drinking water -2015 update and MDG assessment"

2030年には水需要に対して水資源が40%不足

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(出典)Charting Our Water Future, The 2030 Water Resources Group の図を編集

水資源分野の課題は、今後益々深刻化することが懸念されています。それは、人口増加や経済発展、生活水準の向上等に伴って水需要が増え続けているためです。2030年には全世界で、水需要に対して利用可能な水資源は40%も不足するという報告もあり、今後も人口増加が見込まれる開発途上国では特に深刻な問題です。水資源は、食料生産のための灌漑用水が水利用の約7割を占めているほか、エネルギー供給においても重要であり、食料やエネルギーの安全保障に対する制約要因になることも懸念されています。様々な目的の達成のために、限られた水資源を効率的に配分し、水利用の持続性を高めることが強く求められています。

バーチャルウォーターの輸入量(2005年)

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(出典)平成25年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、環境省

我が国は水の大量消費国です。大量に輸入されている農産物を国内で生産すると仮定した場合、その生産に要する水量は約800億立方メートル/年(注6)と推測されており(これを「バーチャルウォーター」と呼びます)、相当量の水を他国から輸入していると解釈できます。これは、日本人の年間水使用量802億立方メートル/年(2013年)(注7)に匹敵する量です。将来、世界的な水問題の深刻化によってこれらの輸入が脅かされれば、我が国への影響は深刻であり、世界の水資源問題は我が国の安全保障にとっても重要です。

(注6)出典 環境省「平成25年版環境・循環型社会・生物多様性白書」
(注7)出典 国土交通省「平成28年版日本の水資源の現況」

2. 国際的援助動向

2015年9月に17のゴールと169のターゲットから成る持続可能な開発目標(SDGs)が国連サミットで採択され、2030年を目指した国際社会の開発目標が定められました。この中で、水・衛生分野に特化したゴール6が「全ての人々に水と衛生施設へのアクセスと持続可能な管理を確保する」と定められました。ターゲットには、MDGsから引き継がれた安全な水へのアクセス、衛生へのアクセスに加えて、水質の改善、水利用の効率化と持続的な取水、統合水資源管理、水に関連する生態系の保全が含まれ、MDGsよりも幅広い内容となっています。

特に水供給に関しては、MDGsが「改善された水源にアクセスできるかどうか」で安全な水へのアクセスを評価していたのに対し、SDGsでは、ターゲットの中に、「安全(safe)」で「入手可能な価格による(affordable)」「公平な(equitable)」アクセスという文言が入りました。さらに、このターゲットの達成状況のモニタリングを担っている世界保健機構(WHO)と国連児童基金(UNICEF)は、最終的に目指すべき「安全に管理された水源(safely managed)」を、「改善された水源(管路給水、深井戸、保護された浅井戸や湧水等)で、敷地内にあり、必要な時に入手可能で、糞便性指標や優先度の高い化学物質指標の汚染がない」ような水源と定義することを提唱しています。このように、水質、価格、水汲み労働なども含めた水へのアクセスの「質」に注意が払われるようになったことがSDGsの大きな特徴です。

3. 我が国の取り組み

我が国も、かつてはコレラ等の水因性疾病の蔓延、渇水による給水制限の頻発、終戦直後の70~80%にも及んだ漏水、地下水の過剰揚水による地盤沈下、生活排水、工場排水等による河川や湖沼の水質汚濁など、多くの問題に直面しましたが、それらを克服してきました。今日、100%近い水道普及率を達成し、24時間蛇口から飲用に適した水が供給されているほか、地盤沈下は沈静化し、工業用水の再利用や漏水の抑制など、水利用の効率化についても世界有数の実績を誇っています。

日本の水道普及率と水系伝染病患者、乳児死亡数

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(出典)国土交通省水管理・国土保全局水資源部「日本の水」(2014年)の図を編集

世界各国における無収水率

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※アスタリスク(*)記載国:各国において規模が大きい上位3ヶ所の水道事業体の平均無収水率を算出
(出典)UN-Water、GLAAS 2016/2017 country survey(2017)、(公財)水道技術研究センター水道ホットニュース第543号(2016)より作成

日本は自国の経験を活用し、活発な国際協力を展開してきました。例えば、2003年3月の「第3回世界水フォーラム」(京都・大阪・滋賀)、2007年12月の「第1回アジア・太平洋水サミット」(別府)を開催するなど、大規模な国際会議に対して貢献を行っています。

我が国は2007年以来、水供給・衛生分野の援助額において世界のトップドナーであり、2015年までの9年間の合計援助額は約100億ドル(注8)に及びます。またJICAは、2006年度から2015年度までの10年間で、約3,572万人に対する給水サービスを実現し、技術協力を通して延べ約42,000人もの水供給・衛生分野の人材開発に貢献してきました。

水供給・衛生分野における主要ドナーの支援額推移(2007年~2016年)

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(出典)OECD-DAC Creditor Reporting System(CRS)より作成

2015年に閣議決定された「開発協力大綱」では、前文において水問題は世界全体の平和と安定及び繁栄に直接的な悪影響を及ぼしかねないリスクであるという認識を示しており、重点課題の「『質の高い成長』とそれを通じた貧困撲滅」の中で、安全な水・衛生等、人々の基礎的生活を支える人間中心の開発を推進するために必要な支援を行う、としています。また、重点課題の「地球規模課題への取組を通じた持続可能で強靭な国際社会の構築」においても、気候変動対策、感染症対策、健全な水循環の促進等に取組むとしています。

このようにJICAは、我が国の政策に沿った形で、日本の経験、技術、そしてこれまでの実績を強みとして、引き続き水資源分野において、積極的に世界の課題解決に貢献することが求められています。