防災・復興は「人間の安全保障」と「持続可能な開発」に直結する取り組みです。
グローバル・アジェンダの目的
2030年までに災害による死者・被災者数及び経済損失削減を実質的な減少トレンドに移行させるため、自立発展的に事前防災投資を実施できる防災インフラ及び重要インフラ(構造物対策(ハード))の所管組織を強化しつつ、非構造物対策(ソフト)を含めた総合的な防災施策の計画・実施能力を備えたオールラウンドな防災推進体制を拡充していきます。さらに、防ぎきれず実際に発生してしまった災害に対して復興を通じた将来の災害リスク削減も行っていきます。
背景と課題
(1)「防災・復興」の重要性
「防災・復興」は、人々の命を助けることにつながり、自然災害によるダメージを最も受けやすい社会経済的に脆弱な貧困層を自立させ、貧困の負のスパイラルを解消するため、「人間の安全保障」実現に直結する課題です。貧困解消に加えて、持続可能な都市及び居住を実現し、気候変動の影響を軽減するなどの観点からも「持続可能な開発」にも「防災・復興」は不可欠です。
未曾有の東日本大震災の経験も経て2015年3月の第三回国連防災世界会議において採択された仙台防災枠組(SFDRR)の検討過程では、日本交渉団が日本の防災・復興経験に基づき強力に議論を牽引し、事前防災投資や「Build Back Better」といった概念を国際的に認知させ、それまで国際場裏では人道問題として扱われる傾向が強かった防災・復興を、開発課題として位置づけさせるパラダイムシフトを起こしました。
(2)課題の現状
近年、気候変動による極端現象は明らかな増加傾向となっています。短時間・局所的といった異常な集中豪雨の発生頻度も世界的に増加しており、洪水や土砂災害による被害の激甚化・頻発化が著しいです。また、昨今の経済活動やサプライチェーンの国境を越えた拡張に伴い、世界的な災害リスクも増大しています。開発途上国においても都市化の進展は著しく、無秩序な開発や都市部への人口集中と産業集積が同時に進み、災害リスクが増大しています。
(3)日本・JICAが取り組む意義
日本は、自然災害の発生頻度が高いだけでなく、災害種別も極めて多様であり、16世紀の武田信玄による信玄堤、17世紀の江戸幕府による利根川付替え事業、津波の伝承など、知恵と工夫をこらした実効的な対策によって、古来より災害に対処し発展してきた歴史を持っています。自然災害という人類共通の課題に対して、高度成長と防災の両立を課題とする開発途上国にとっても示唆に富んだ実践的で優れた防災技術/制度政策/知恵をもっています。防災・復興協力は日本の使命であり、世界の人々から日本が信頼と尊敬を受けるうえでのトレードマークとして「信頼で世界をつなぐ」というビジョンの実現にも直結します。
SDGsポジションペーパー
主要な取り組み
JICAでは、SFDRRグローバルターゲット(GTa:死亡者数、GTb:被災者数、GTc:経済損失、GTd:災害による重要インフラへの被害)への効率的・効果的な貢献を念頭に、特に増加傾向にある経済損失の削減を重視した事前防災投資の推進を中心的に行うべく、構造物対策(ハード)から非構造物対策(ソフト)までを横断的にカバーする、相互に密接な補完関係を持った以下三つのクラスターに取り組みます。
(1)「事前防災投資実現」
期待成果及び優先度の高い事前防災投資モデル事業の具現化を通じ、当該国で追求すべき防災のあり方や理念を普及・浸透させ、防災インフラ及び重要インフラの所管組織が、公共事業として実施すべき国・社会の根本的な災害リスク削減のための事前防災投資を、自己予算で自立発展的に拡充・維持し運用していく能力を強化します。
公共事業として実施すべき国・社会の根本的な災害リスク削減のための事前防災投資を自己予算で自立発展的に拡充し維持し運用していく能力を備えた防災インフラ及び重要インフラの所管組織(治水砂防官庁、各インフラ官庁)を、2030年までに10機関確立することを目指します。
(2)「災害リスクの理解及びリスク管理のための防災推進体の体制確立」
国としての総合的な防災施策展開のための計画・実施能力が自律的に向上しうるよう、当該国内でのオールラウンドな防災推進体制の拡充に協力します。任務に強くコミットした人材を擁し、十分な運営予算及び権限を持った防災推進体の確立を推進します。
2030年までに20機関の防災推進体(防災組織、気象関連など)の体制を確立することを目指します。
(3)「Build Back Better推進」
国・社会全体の災害リスク削減を復興過程で達成すべく、当該国で追求すべき防災のあり方や理念を普及・浸透させることを通じて従前の感受性や脆弱性もあわせて克服し、より自然災害に強い国・社会の再構築を行います。
大規模災害が発生した際、緊急援助が実施された場合を主として、シームレスかつ確実に復興協力につなげ実施していきます。また、復興過程を通じて当該国政府に防災理念を普及・浸透させるだけでなく、他の開発パートナーがJICA事業による成果に触発され、より実効的な災害リスク削減のための事業を展開していき、民間資本やNGOも、より有効かつシナジー効果の高い復興過程における災害リスク削減方策を展開していくことを目指します。
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