現在の場所は

日本が支援する「みんなの学校」、目指すはアフリカの子どもたちの明るい未来

2022年10月31日

2004年、ニジェールで始まった「みんなの学校」プロジェクトは現在、アフリカの9カ国で展開されています。家庭や地域社会が「子どもたちの明るい未来を築く」という共通の目標を持つことで、「質の高い教育」という理想を現実のものにしています。

【画像】

2004年に始まった「みんなの学校」プロジェクト。学校運営について話し合うために、地域住民の総会を開催。(ニジェールでの写真)

国際協力機構(JICA)は、アフリカにおける教育の取り組みを支援しています。今年8月には、チュニジアが主催する第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が開催されます。アフリカ大陸の持続的な発展のために、アフリカの教育について議論する良い機会となるでしょう。

【画像】

ガーナ教育サービス局長のフレデリック・ビリコラング氏

ガーナ教育サービスの局長であるフレデリック・ビリコラング氏は「教育は基本的人権であり、いかなる子どもも教育を受ける権利があることが、ガーナ憲法で認められています」と言います。

一方で、子どもたちが学校に通えなくなる要因がたくさんあるのもまた事実です。「ガーナのほとんどの地域では、教育は政府の責任だと考えられてきました。しかし、ガーナの人口は増え続け、コミュニティが拡大し続ける中、政府の手の及ばない場所も出てきています」と同氏は言います。

そんな中、家族や地域住民が学校運営に参画し、授業の在り方や学校の運営方法を考える「みんなの学校」プロジェクトは、ガーナだけでなくアフリカ全域でこうした問題を解決しつつある、とビリコラング氏は指摘します。

「『みんなの学校』プロジェクトでは、参加しようとする意志があれば、だれでも、学校に貢献することができます。すべての人々に役割があるのです」(ビリコラング氏)

「学校に行けない」子どもたち、理由は親、家庭、女性差別、治安、通学路など

【画像】

「みんなの学校」プロジェクトを支援するアスカ・ワールド・コンサルタント株式会社の中山恒平氏

「みんなの学校」プロジェクトを支援するアスカ・ワールド・コンサルタント株式会社の中山恒平氏は、「アフリカでは1990年代後半から学校や道路などのハードインフラの整備が進み、以前よりは教育へアクセスしやすくなりました」と話します。

しかし、教育の質はそれに追いついていないのが実情です。

「アフリカの子どもたちの少なくとも80%が学校に在籍しているのですが、識字率や計算能力が最低限であるという調査があります。特にサブサハラ諸国は『学びの危機』にあると言われています」と中山氏は指摘します。

中山氏もビリコラング氏も、アフリカでは親が子どもを学校に行かせず、家計を支えるために子どもたち働くことが多いことが問題だと見ています。また、伝統的な価値観に基づく、男女間の不平等から、年上の女の子は家にいて弟や妹の世話をするのが義務だという考え方があります。近年は改善されてきているとはいえ、ガーナのように早婚が問題になっている国もあります。

交通インフラも整っておらず、何キロも歩かなければならないため、通学の意欲をなくす子どももいます。また、治安が悪い地域では犯罪が起きることもあり、子どもたちが襲われるリスクもあります。

「『みんなの学校』プロジェクトでは、教育に関するさまざまな面からのアプローチによって、コミュニティが負のスパイラルから抜け出せるように取り組んでいます。インフラ整備や教育の質向上といった一点集中型の取り組みのみでは、最終的なインパクトが弱いのです」と中山氏は言います。

地域社会で学校を運営

「みんなの学校」プロジェクトは、保護者、教師、地域のオピニオンリーダーたちの地域社会が学校運営委員会(School Management Committees)を結成し、各国の教育省と密接に連携して学校運営を行っていくプロジェクトです。JICAは、各政府と学校運営委員会の独自のニーズに対して、助言や技術支援を提供しています。

【画像】

住民総会でのベースライン調査の結果をコミュニティと共有

JICAは、各学校運営委員会において、まず基礎となるベースライン調査を実施し、各コミュニティのニーズを把握することから始めます。そして、その課題を解決するために、関係者が実現可能なアイデアを出し合い、実行に移すPDCAサイクルを回していきます。

ビリコラング氏はこうしたボトムアップのアプローチについて、「『みんなの学校』プロジェクトでは、地域社会を動員し、子どもたちが学校に通えるように、教育における役割と機能を理解してもらいます。そうすれば、学習の質も向上します。教育省の助けが来るのを待っていたら、長い時間がかかってしまいます」と言います。

「みんなの学校」プロジェクトは、国によって異なる様相を呈しています。プロジェクトの初期には、ニジェールの学校運営委員会が集まって、藁ぶき屋根の教室を建設し、教科書や文房具を購入しました。マダガスカルでは、収穫が少ないときでも生徒の食事を確保するために、2017年からコミュニティ協働型の学校給食が始まりました。

ガーナでは、高校教育を受けた識字能力のある若者が、学校に通えない子どもたちを教えるといった事例もあります。

「親は、午前中は子どもたちに家事の手伝いをお願いし、3時になると、子どもたちをセンターに連れてきて、読み書きや計算の勉強をさせます」とビリコラング氏は言います。

このような、子どもたちの未来を良くしたいというコミュニティの熱意と願いをもとに、「みんなの学校」プロジェクトでは、学習成果を上げるため、コミュニティ参加型の補習授業の実施を進めています。

中山氏は、質の高い教育が国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つであることに触れ、「TICAD8はアフリカと日本が目標達成に向けた取り組みや戦略について話し合う場として機能するのです」と述べます。

またビリコラング氏は「TICAD8は、国際社会とのパートナーシップを強化し、アフリカの教育を改善するためのより良い教訓と実践を得る機会を与えてくれるでしょう」と語りました。

(本記事は8月23日に掲載した「School For All:Japan Helps Empower Local Communities Across Africa Through Education」を基に作成したものです)