進化する「みんなの学校」プロジェクト:アフリカ8ヵ国5万3000校に拡大、学校給食や手洗い啓発にも発展

2021年4月28日

2004年にニジェールの小学校23校で始まった「みんなの学校」プロジェクトは今、アフリカ8カ国・約5万3000校の小中学校に拡大し、子どもたちの学習環境が改善されています。このプロジェクトを進める学校数の増加に加え、各地でその地域ならではのニーズに基づいた地域住民たちの自発的な活動も生まれ、教育にとどまらず、栄養改善や衛生管理といった分野に活動はおよび、プロジェクトは大きな進化を遂げています。

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みんなの学校プロジェクトで行われている補習授業。棒を使って繰り上げの足し算を学びます(マダガスカル)

「子どもの成長を応援したい」という大人たちの熱い想いが原動力

「みんなの学校」プロジェクトは、保護者・教員・地域住民の「みんな」が学校運営委員会(以下、委員会)を構成し、行政と連携しながら、学校を運営するコミュニティ協働型学校運営という取り組みです。保護者や教員のみならず、地域住民たちが教育の重要性を理解し、地域全体で子どもの学びを支えています。

JICAはプロジェクト立ち上げにあたって政府機関との話し合い、委員会の体制・仕組みづくりや委員会関係者の能力強化の方法などについて助言・技術的な協力をしています。プロジェクトに長く携わる國枝信宏JICA国際協力専門員は、関係者との間で辛抱強く意識のベクトルを合わせていく大切さを振り返ります。

無記名投票による委員会の役員選挙(セネガル)

「みんなの学校の取り組みを始める際、しばしば障壁となるのが伝統的な慣習です。例えば、組織の代表者には年長者や男性を、という暗黙の掟があります。しかし、子どもの学習環境の改善に向け、委員会が現地の『みんな』を巻き込んで活動を実施するために必要なのは、男女問わず、やる気のある代表の力。代表を投票で選ぶ方法がなぜ必要なのか、実行の先に何が得られるのかといったことを地域住民たちに粘り強く説明し、議論しながら共通認識を持つようにしました。もちろん、話し合うがうまく進まないこともあります。でも最終的にわかり合うことができたのは、誰もが根底に持つ『子どもたちの成長を応援したい』という心からの熱い想いでした」

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住民集会を開催して学校の運営について話し合います(ニジェール)

このように、みんなの学校プロジェクトに取り組む学校では、委員会が中心となって、「みんな」を巻き込みながら活動を実施し、子どもたちの学習環境を改善していきます。ニジェールから生まれたこのモデルは、それぞれの地域や国の教育事情に合わせて、現在では、アフリカ8ヵ国・約5万3000校の小中学校に広がりました。

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委員会の発案で、学校給食や衛生管理にまで活動が発展

算数ドリルを使った補習授業(マリ)

プロジェクト開始当初、委員会では藁ぶき屋根の教室の設置、教科書や文房具を購入など、「みんな」で協力しながら教育面の活動を行い、子どもの学習環境改善に貢献してきました。また、学校の授業は質や時間が十分ではなかったため、各地の委員会が補習授業を実施するようになりました。子どもたちの学習を支援しようと地域の大人たちは出欠の確認や練習問題の丸付けなどをサポートしました。

JICAは各地で始まった補習授業の効果を上げるため、一人ひとりの理解度に合わせた習熟度別の指導法の導入をアドバイスしました。マダガスカルでは、2019年に3カ月間の算数補習授業を行ったところ、生徒約17万人のテスト結果が平均20ポイント向上するという成果が出ました。

このような、委員会による活動の発案と実行は、教育分野のみにとどまりません。

マダガスカルでは、2017年に地域の「みんな」に支えられるコミュニティ協働型の学校給食が始まりました。マダガスカルの主食である米の収穫が不安定な農業端境期(毎年12月~3月頃)には学校給食の供給が滞ることもあるため、みんなで必要なもの(お米、水、野菜、調理のための労働など)を提供して、給食を実施します。さらに、現在では、対象を小学生に限定せず、乳幼児や就学前の子どもたちに対しても何かサポートできることはないかと委員会で話し合いが始まっています。

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給食を待つ子どもたち。配膳しているのは地域の保護者(マダガスカル)

セネガルでも、学校菜園の運営を委員会が支援し、収穫した野菜を学校給食や軽食に使用するといった活動が実施されました。給食を行う学校では手洗い指導が行われているため、感染症予防などの衛生管理につながりました。

楽しみながら算数の補習授業を受けている様子、笑顔で給食を頬張るその様子を目の当たりにし、このプロジェクトを実施する行政官も「この活動が国の教育を変えていくと、自信を持って言えるよ」と話します。

教育面の活動で手応えを得た委員会は、より幅広い分野での活動をするようになりました。

「2014~2015年にかけてエボラ出血熱が西アフリカを中心に急激に広がった時、危機感を募らせたブルキナファソの人たちは、委員会のネットワークを活用して住民総会を開催しました。そしてその住民総会にて、エボラ出血熱の正しい理解や予防方法について、話し合いました」

現地の人たちがプロジェクトのネットワークや組織の機動力をうまく活用しながら、より良い活動を模索したり、時勢に合わせて活動に進化させたりするのは理想的な展開だと國枝専門員は述べます。

さらなる拡大に向け、地域住民の手でプロジェクトを普及させることが不可欠

「マリでは2008年からみんなの学校プロジェクトが始まったのですが、2012年のクーデターにより、JICA専門家チームが無念の退避となり、プロジェクト活動は5年以上にわたり中断しました。せっかく皆で積み重ねてきた成果が消えてしまう……と、私は残念でならなかったんです。ところが2017年に現地へ行った際に目にしたのは、子どもたちのために継続的に活動を続けている現地の人たちの姿でした。あの時の驚きと感動は忘れられません」

國枝専門員は、2012年当時、隣国セネガルで「みんなの学校プロジェクト」のチーフアドバイザーを務めており、マリのメンバーとは情報交換や経験共有を活発に行っていました。地域の「みんな」が主体となって子どもたちのために持続的に活動を続けていける基盤作りに取り組んできた効果が実感できたと振り返ります。そして、プロジェクトのこれからに向けて、次のように語ります。

「SDGsの教育目標達成に向け、現地の人々が主体となって、子どもの学習環境を改善していくコミュニティ協働型学校運営アプローチのさらなる普及が必要で、このアプローチの普及には、これまで以上のスピードが求められます。そのためには、JICAの協力が終わった後も、また、その国でJICAがプロジェクトを実施していなくても、現地政府や他機関による取り組みが進むことが大事です。経験共有セミナーの開催や、日本や現地の専門家の短期派遣などを通じ、プロジェクトの活動内容と方法を多くの人が理解できる形に整理し、他機関とも連携しながら広域展開していく必要があると考えています」

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学校活動の計画づくりのための住民集会(セネガル)。現地の人々が主体となって、子どもたちの学習環境を改善する動きが広がっています