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事例紹介2018.2.16

bdjobs.com~産業構造が転換する中、求人サイトにより社会的効果を生じさせるビジネス・モデル

【ソーシャルビジネス事例解剖⑥】

地域:全土

分野:人材

 bdjobs.com社は、バングラデシュ有数の求人サイトを運営している企業です。bdjobs.com社の求人サイトは求職者と採用企業を繋ぐことを目的としていますが、同社によれば、このサイトには累計で20万社の求人情報が掲載されてきた他、150万人の求職者の情報が登録されているとのこと。多くの人は、「このような求人サイトは、バングラデシュのみならず日本にも存在するので、何も珍しいものではない。この為、このようなサイトがソーシャル・ビジネスとして社会的効果を発現させることが出来るのだろうか」と疑問に思うかもしれません。

  一方、ソーシャル・ビジネスから得られる社会的効果は、その国によって異なります。即ち、同じビジネスであったとしても、ある国では大きな社会的効果が得られる一方、別の国では、それほど大きな効果は得られないこともあります。今回のBdjobs.comの事例から得られる教訓は、まさにこの点です。

マクロの「願望」とミクロの「現実」

 貧困削減を考える上で、人々が毎月決まった賃金を得られる職に就くことは大変重要です。発展途上国では多くの人々は農村地域に生活し、農業に従事しています。農業は収穫期にしか収入がない上、天気により生産量(=収入水準)も左右されます。一方、製造業の工場やサービス産業の事務職などに就くことが出来れば、人々は毎月決まった金額の賃金を得られるようになります。

実際、バングラデシュでは、1990年にはGDPに占める第1次産業の比率は32.8%であった他、第2次産業は20.7%、第3次産業は46.6%でしたが、これが2015年になると第1次産業は15.5%に大きく減少した一方、第2次産業は28.1%、第3次産業は56.3%とそれぞれ増加していました1。更に、これに伴い賃金労働者数も2003年度の610万人から2013年には1,350万人に達しました2。このようにバングラデシュにおいても、産業構造の転換に伴い労働者数が増加していることが分かります。

図1 GDPに占める各産業の割合

(出典)World Development Indicators (World Bank)

 一方、ここで立ち止まって考えなければならないのは、このような産業構造の転換にもかかわらず、「仕事を探す方法」は旧態依然としたものであったということです。即ち従前は、求職者は求人情報を探す為に数多くの新聞を購入し、それを一つ一つ確認しなければなりませんでした。この為、特に農村地域に居住している求職者は、都市部の求人情報を得るのに苦労しました。一方、採用企業側も選考段階では何千通と履歴書が送られていることが多く、このような履歴書の管理は煩雑で多大な時間と手間がかかっていました。

すなわち、経済全体という「マクロ」な視点では、貧困削減の為にも産業構造が転換し、人々が賃金を得られる職に就くことが望まれ、事実、バングラデシュでは産業構の転換と賃金労働者数の増加が見られました。一方で、目線を採用企業や求職者という「ミクロ」なレベルに転じると「職を得る/人を雇う」という行為は、依然として原始的な方法で行われており、企業と求職者の双方に高い取引費用が掛かっていることが分かりました。マクロ的な経済動向とは裏腹に、ミクロなレベルでは大きな問題を抱えていた訳です。

bdjobs.com社のビジネスと社会的効果

 bdjobs.com社は2000年に創業して以降、年々業績を拡大してきました。この求人サイトの閲覧者数は2013/14年度は年間77万人だったものが、2017/18年度には122万人にまで増加しています。更に、求人掲載企業数も1,428社から2,051社まで、また求人掲載数も3,559件から5,009件に達しています。

 図2 サイト閲覧者数

(出典)bdjobs.com社

このようにbdjobs.com社の事業が拡大した要因は、同社が提供する付加価値と密接な関係にあります。即ち、今まで新聞をあさって求人情報をかき集めなければならなかったのが、求人サイトによりインターネット上で得られるようになった他、採用企業側も求職者から提出された大量の履歴書をデータで管理できるようになったことです。別の言葉で言えば、このような求人サイトの出現によって、求職者と採用企業の双方における取引費用を下げることが出来た訳です。実際、下図は同サイトに掲載された求人数と求職者の登録数の割合を示したものですが、求人数の75%はダッカの企業から出されているのに対し、求職者の56%はダッカ以外の人々であることが分かります。

図3 求人掲載件数と求職者登録数の割合

(出典)bdjobs.com社

バングラデシュに限らず発展途上国では、新しい産業(企業)は都市部で生まれることが多い一方、潜在的労働者の大半は農村地域に存在します。このデータからは、bdjobs.com社の求人サイトは、このような地域の情報格差の解消に貢献している様子が伺えます。

イノベーションの源泉としての「産業構造の転換」

  ピータ―・F・ドラッガーは『イノベーションと企業家精神3』の中で、「産業の規模が二倍に成長する頃とほぼときを同じくして、それまでの市場のとらえ方や市場への対応の仕方では不適切になってくる(p.56-57)」と述べ、産業構造の転換はイノベーションの源泉になると論じています。

bdjobs.com社の事例に引き付けて考えると、マクロ的な産業構造の転換とミクロ的な旧態依然とした求職/採用方法のギャップが、情報格差の解消や取引費用の削減を可能にするインターネットを活用した求人サイトというイノベーションに繋がったと言えます。別の言葉で言えば、貧困削減に向けた賃金労働者の増加が求められる現在のバングラデシュだからこそ、bdjobs.com社の求人サイトは大きな社会的効果を生じさせられていると考えられます。

社会的効果と事業の持続性を両立させるビジネスモデル

 これまでの議論を踏まえ、bdjobs.com社のビジネスを図解したものが下図です。bdjobs.com社では、求人情報を掲載する企業から「掲載料」を得ることで売上をたてています。この為、企業から数多くの求人情報を集めることが重要です。一方、掲載企業からすると数多くの求職者が訪れるサイトに求人情報を掲載したいと考える他、求職者としても多くの求人情報を閲覧できる求人サイトを好むと考えられます。即ち、このような求人サイトでは、サイトに掲載されている求人情報の数(=規模)が大きな鍵を握ります。このような中、同社は求人サイトの先駆けとして先行者の利益を上手く活用しながら、今の地位を築いたと言えます。

図4 概念図

(出典)JICA作成

 このようなマクロとミクロのギャップを活用したビジネスは、教育サービスや医療サービスなどでも応用可能と考えられます。即ち、近年、私立大学や私立病院が急速に増加している一方、人々が、どの大学(あるいは病院)が、どのようなサービスを提供しているのかを把握・比較し、その中から適切な選択をすることは、まだまだ難しい状況です。言葉を換えて言えば、このような具体的な情報なしに、人々の大学教育や医療施設へのアクセスは効果的に伸ばすことは難しいとも言えます。この為、このような情報ギャップの解消に焦点を当てたビジネスは、人々のニーズを満たしながら事業持続性を確保すると同時に、高い社会的効果が発現可能な事業領域として考えられます。


  • 1 World Development Indicators, World Bank
  • 2 Labour Force Survey Bangladesh 2013, Bangladesh Bureau of Statistics, 2015
  • 3『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』、P.F.ドラッガー(上田惇生編訳)、ダイヤモンド社、2015年

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