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事例紹介2018.8.5

ACI Formulation Limited ~農薬散布ビジネスで、農業改革に挑む。

【ソーシャルビジネス事例解剖⑩】

地域:全土

分野:農業

バングラデシュの農業関連大手ACI社の子会社であるACI Formulation Limited(以下、ACI-FL社)が、新しいビジネスに乗り出しました。農家に代わって農薬散布を提供するサービスで、ACI社ではこの事業のことを ”FlowMaster”と呼んでいます。

バングラデシュが抱える社会的課題 ~農薬の不適切使用~

ACI-FL社は、長年、農薬メーカーとして農薬の製造・販売事業に注力してきましたが、ある問題に直面していました。それは、バングラデシュにおける農家の多くは、残念ながら農薬の正しい使い方についてよく理解していないということです。

バングラデシュの消費者の間では、農薬の過剰使用がもたらす健康被害が問題視されています。健康被害を避けるため、一定数の現地バングラデシュ人(富裕層)は、国産の農作物を子供に食べさせないようにしているようです。

農薬残留基準を上回る残留値が検出された場合、そのような農産品の諸外国への輸出は難しいでしょう。本来一級品として高値で輸出できたものが、安値で買い取られることになります。他方で、農薬の使用量が少なすぎると、害虫等による被害が発生し、一級品として販売できなくなってしまいます。農薬の適切使用は、このように農家の所得に直結する課題なのです。

環境問題も引き起こしています。バングラデシュでは土地の過剰使用と、長年に渡る農薬の無差別使用により、土壌が深刻な打撃を受けていると言われています。使い終わった後の残留農薬の適切な廃棄方法を知らず、そのまま川・池に流す農家もいるようで、これによる水質汚染も深刻です。

このようにACI-FL社は、自社の生産した製品が、社会に役立っているどころかむしろ(使い手の落ち度とは言えども)問題を起こしてしまっているという厳しい現実を突き付けられてきました。この問題に立ち向かうためには、従来の製造・販売事業という枠を超えた新たな一手が必要・・・それなら農薬のことをよく分かっている自社が農家に代わって農薬散布をしようではないか、ACI-FL社はそう考えました。そこで始めた事業が、FlowMasterです。

長期戦でも果敢に挑戦し、多方面へ恩恵をもたらすビジネスモデル

この事業のキーパーソンは、実際に農薬を散布するサービス提供者(以下、Servicemen)です。ACI-FL社は各地域で新たにスタッフを採用し、同社の専門家によるトレーニングを通じて、まずはこのServicemenを育成することから着手しました。一定レベルのサービス品質を確保するために、トレーニングの修了証を得た者のみに認定Servicemenとしての資格を与えるという仕組みです。

本事業は2017年に開始されたばかりですが、既に100人の認定Servicemenが育成され、彼らにより、これまで1,000農家に対して農薬散布サービスが提供されました。

(Servicemenにトレーニングを行っている様子)

ACI-FL社は、1エーカー(4047平方メートル)当たり1500~2500円程度(作物によって異なる)で農薬散布のサービスを提供しています。サービス価格(売上)の75%はServicemenに、残りの25%はACI-FL社に帰属するという仕組みです。当該サービス価格は、競合他社より少なくとも50%程度高いようですが、それでも売上は増加しています。一般的な業者に比べて、しっかりとトレーニングを受けたACI-FL社のServicemenのサービス品質が格段に優れているということと、農家に対するACI-FL社の保証制度が売上向上に寄与しています。仮に、ACI-FL社の農薬が原因で何らかの損害が発生した場合には、同社がその損害を補填する制度となっており、農家は安心してサービスの提供を受けられるというものです。

こういった取り組みにより着実に顧客の心を掴んでいっているものの、黒字化への道のりは、そう簡単なものではありません。どうしてもServicemenをきちんと育成するには、それなりの教育費用がかかります。本事業は2017年に始めたばかり。投資回収への道のりは、もう少し時間がかかるようです。

社会的な効果をもたらすことと、事業として持続性を確保することの両立は、常にソーシャルビジネスを目指す企業にとっての課題として立ちはだかります。しかしながら、ACI-FL社は、農業大国のバングラデシュにおけるServicemen需要は相当なボリュームがあるはずであると見込み、将来に向けた投資として、長期戦に果敢に挑もうとしています。

(左:一般的な業者による農薬散布)
(右:ACI - Servicemenによる農薬散布)

このビジネスモデルは多くの関係者に恩恵をもたらすでしょう。Servicemen人材の採用・育成による雇用創出。適切な農薬使用によってもたらされる農作物の品質向上や、高付加価値農作物の輸出等による農家の所得向上、土壌の改善。消費者もより安全な農作物が入手できるようになる。要するに本事業は、着実に各関係者のニーズに応え、多方面に恩恵をもたらすソーシャルビジネスと言えます。

FlowMasterのマーケットシェアは、今はまだ全体の0.05%と僅かでしかありません。この数字を見ると小さな一歩かもしれませんが、長年の農薬問題という歴史を振り返ると、バングラデシュに農業改革をもたらす大きな一歩が踏み出された、そう言っても過言では無いでしょう。

(無事に作物が育ち、笑顔がほころぶ農家)

以上

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