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事例紹介2018.8.5

Bangladesh Petrochemical Company Limited~現実的な戦略に基づくペットボトル・リサイクルビジネス

【ソーシャルビジネス事例解剖⑧】

地域:ダッカ

分野:リサイクル

バングラデシュで「ペットボトルのリサイクルビジネスを手掛けている現地企業がある」と聞いて、あなたはどのように感じるでしょうか。バングラデシュのような発展途上国では廃棄物リサイクルなど進んでおらず、何か特別な手法で事業を立ち上げたのではないか、そのように考える人も多いのではないでしょうか。

今回取り上げるBangladesh Petrochemical Company Limited(以後BPCL社)は、バングラデシュ初のペットボトル・リサイクル企業です。BPCL社は特別な手法というより、取り巻く環境を冷静に分析し、その分析結果に基づいて打ち出された、現実的な事業戦略に則ってビジネスを実施している企業だということが言えるでしょう。

地道に取り組まれているリサイクル

バングラデシュでは都市化が進み、ダッカを始めとする大都市への人口流入が続いています。ダッカ都市圏の人口は2017年には1,900万人にまで達していると言われており、東京都の人口(2017年、約1,400万人)を遥かに上回っている状況ですi。これに伴い廃棄物量も年々増えており、ダッカ市では毎日1,950㌧の家庭ごみ、1,050㌧の商業ごみが収集されていますii

一方、地道にリサイクルも行われています。2005年の調査内容(下表)にはなりますが、プラスチックの1日の廃棄量124㌧の内103㌧(83%)がリサイクルされています。紙は1日の廃棄量260㌧の内168㌧(65%)がリサイクルされています。このように、プラスチックや紙、ガラス、金属といったリサイクル可能物は、ある程度選別されリサイクルされていることが分かります。

【ダッカ市廃棄物リサイクル推定量】

(出典)『バングラデシュ国ダッカ市廃棄物管理計画調査ファイナルレポート』(JICA, 2005)

ただしリサイクル業界は様々な課題を抱えています。

例えばダッカ市では、一次収集業者が各世帯の家庭ゴミを第一次収集コンテナにまで持ち運び、自治体(ダッカ市)がコンテナから最終処分場まで搬送しています。この運搬過程または最終処分場において、ウェイスト・ピッカーと呼ばれる非常に貧しく社会的に恵まれない人々が、プラスチック、金属、ペットボトルなどを手作業で分別し、それをインフォーマルな回収業者に売って何とか生計を立てている状況ですが、回収業者からの買い叩きに遭い、ウェイスト・ピッカーは大変厳しい生活を強いられています。

そのようにして回収されたリサイクル資源の多くは、輸出されてきました。ペットボトルについて言えば、回収された使用済みペットボトルの大部分を中国に輸出されていました。これは、バングラデシュ国内にはペットボトルのリサイクル産業が存在せず、海外に輸出せざるを得なかったからです。

なぜBPCL社はリサイクル事業に乗り出したのか

バングラデシュでのペットボトル需要は伸び続けており、1日1,200万本のペットボトルが製造されています。飲料などを運ぶ際、道路事情が悪く(未舗装の道路が多いなど)、瓶だと破損することも多いようです。このような背景から、この国では瓶よりペットボトルが好まれています。

一方、ペットボトルを生産するには原料としてPET樹脂が必要になりますが、これまでPET樹脂のほぼ全量を輸入に頼ってきていました。PET樹脂の輸入にはリードタイム(日数)を要してしまうことから、ペットボトルメーカーは生産タイミングの数カ月前には注文し、ある程度の在庫を抱えなければならず、倉庫保管料等のコストが負担になっていました。

このような状況を、BPCL社は商機と捉えます。

国内サプライヤーとしてタイムリーにPET樹脂を安定供給することができれば、例え輸入材と同等の価格であっても、ペットボトルメーカーはリードタイムや在庫コストを削減することができ、国内サプライヤーから購入するようになる。このように、BPCL社は、ペットボトルのリサイクル産業を取り巻く環境を分析し、そこに商機を見い出し、事業立ち上げに乗り出しました。

こうして、バングラデシュ国内初のリサイクルPET樹脂事業が始まりました。

社会的インパクトをもたらすBPCL社のリサイクル事業

BPCL社の加工工程は複雑ではありません。購入した使用済みペットボトルをフレーク状に粉砕・洗浄し、これを化学的に分解してペット樹脂を製造しています。

(工程イメージ)

BPCL社のリサイクル工場は、2015年に操業を開始し、2016年には1,000㌧、2017年には3,000㌧のペット樹脂を生産しました。国内のペット樹脂総需要が11万㌧ですので、2017年の段階ではBPCL社が占めるシェアは2.7%しかないことになりますが、新たに1万㌧の生産能力を擁する工場を設立するなど、着実に事業を拡大させています。

社会的課題への貢献も特筆すべき点でしょう。

国内至る所に自社専用のペットボトル収集場(調達ハブ)を設け、ここでウェイスト・ピッカーから直接買い取り、正当な対価(インフォーマル回収業者による買い取り価格の2倍程度)を支払っています。ウェイスト・ピッカーの中には子どもも少なくありません。このようなビジネスモデルを通じて、ウェイスト・ピッカーの所得向上を図ることで、リサイクル産業における児童労働という社会問題の解決も目指しています。

BPCL社のリサイクル工場で200人、使用済みペットボトル収集管理やリサイクル工場への運搬に300人、合計500人程度の雇用を生み出しています。ウェイスト・ピッカーなどのサプライヤーも含めると、5万人以上の人々が同社のリサイクル事業に関与しており、BPCL社のサプライチェーン全体における雇用創出と所得向上に貢献しています。

そもそもペットボトルには生物分解性が無いので、このような製品は土に還るものではなく、還るとしても500年程度の年月が必要とされています。ダッカ市では毎日数千㌧もの廃棄物が収集されており、最終処分場の容量にも限界がある中で、このようなリサイクル事業は無くてはならない存在と言えます。

ビジネスとして成功されるための事業持続性の観点と、社会的課題に貢献するという社会的持続性の観点、この2点を両立させたビジネスモデルをBPCL社は築き上げました。バングラデシュ国内唯一のリサイクルPET樹脂事業がさらに拡大され、より広く社会に認知されるようになっていくのでしょう。バングラデシュにおけるリサイクル産業構造を変革させるムーブメントが、今まさに起きようとしています。


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