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事例紹介2015.06.17

ハーブ栽培のインクルーシブ・ビジネス!

PBKS (Pally Badhu Kayan Sungst)/Ms. Monowara Talukder さん

地域:ガイバンダロングプール管区

テーマ:ジェンダーと開発農業/農村開発

団体の種類:民間企業

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ハーブ栽培で農村の女性の自立を目指す

農村の貧しい女性を支援するために始めたひとつの小さな試みが、時代の波に乗って成長しようとしている。女性が働き、収入を得て、自立できるように始めたハーブ栽培のビジネスがバングラデシュの国内外で静かに注目されはじめている。

ハーブ薬は日本ではまだあまりなじみがないが、欧州をはじめ世界中で広く使われている。特にヨーロッパでは、欧州医薬品庁によって認可されたれっきとした「薬」である。血行を良くする赤ぶどう葉や鎮静作用のあるセントジョーンズなどが有名で、現在、ハーブ薬の世界的な市場規模は10兆円規模となっていると言われる。

モノワラ・タルクダー(Monowara Takukder)さんは、今から16年前の1998年に出身地であるガイバンダ(バングラデシュ北部)にPBKS(Pally Badhu Kayan Sangstha) を設立した。PBKSとは「村の女性達」を意味するベンガル語だ。PBKSは、現在750名を超える農家の女性と契約し、ハーブの栽培と販売を行っている。ハーブ茶を主力としつつ、ハーブの甘味料やハーブの歯磨き粉などの加工品も手掛けている。最近はハーブ薬の原材料として供給することも増えてきた。

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貧しい女性たちが貧困から脱出する方法

ダッカ大学のベンガル語を専攻し、大学院を卒業したモノワラさんは、卒業後、バングラデシュのNGOに採用されて、保健衛生の改善プロジェクトに関わり、家族計画の普及のため、農村の現場をまわる生活を7年間続けた。この経験は、モノワラさんの原体験となった。日々の訪問を繰り返しながら、モノワラさんは農村の女性たちとの対話を深めていくなかで、彼女たちの貧しさや、苦労、無力感を我が身のように感じるようになり、いつしか何とか助けたいという想いがつのるようになった。

なぜ女性達はこんなに貧しく、無力なのか。どうしたら、この状況から抜け出すことができるのか。モノワラさんは自分にこの問いを発しつづけた。そしてたどりついたのが「女性が貧しいのは、収入を得る手段を持たないから」という単純な結論であった。女性たちが収入を得る手段を持つことこそ、彼女たちが貧困から抜け出すための助けとなる。NGOのように与えるだけではなく、自分たちで現金を稼げる手に職をつけることが大切だと確信した。まだインクルーシブ・ビジネスという言葉や概念がなかった1998年のことである。

モノワラさんが考えたのは、どのように地域の人々が働く環境を作れるかということであった。貧しい女性だけではなく、障害者も含めて働ける仕事を作りたいと思った。最初に取り組んだのはココナッツの殻で作るボタンである。普通であれば捨てられてしまうココナッツの殻をつかって奇麗なボタンを作ったことが注目を浴びて、政府機関から「革新的なビジネスを行う女性起業家賞(1st Winner of Best Innovative SME Women Entrepreneurship Award)」を受賞するまでに至った。

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農村女性のニーズに適したハーブ栽培という仕事

ココナッツのボタンづくりは成功したが、雇用という面では広がりが限定されていた。そこでモノワラさんが次に取り組んだのはハーブ栽培であった。ネパールのハーブ協会の会長に偶然知り合い、強く勧められたのがきっかけだが、もともとモノワラさんの祖母はハーブでヒーリングを行う治療師であり、ハーブには子供の頃から馴染んでいた。環境に優しく、人の健康に役立つハーブの栽培は、多くの女性に仕事を与えることができる広がりを持ち、モノワラさんの理念にぴったりのものであった。

大きな土地を必要としないハーブ栽培は、家の軒先や小さな畑でも育てることができ、自宅を離れることが難しい農村の女性たちにとって、最適の仕事であった。女性たちにハーブの苗木を与え、トレーニングを施し、自宅や自分の農園で育ててもらい、出来上がったハーブをPBKSが買い取る仕組みだ。

トルシと呼ばれるハーブの場合、葉を摘むことができるのは夏の半年間だけであるが、1kgあたり20タカ(約30円)で買い上げる。女性たちの受け取る収入は、少ない人でも月間1500タカ(約2,300円)、多い人では10,000タカ(約15,300円)になるという。モノワラさんの役割は、それらをきちんと市場に販売することである。

事業を開始する前に、50本の苗木を二家族に渡し、2004年から3年間パイロットを行った。この期間にさまざまな調査を行い、ネパール人から技術的な指導も受けながら、栽培方法や予想される収穫量などのノウハウを経験的に積み上げ、事業化に必要な知識を蓄積した。2008年からは本格的な事業を開始し、最初の展示会で7キロのハーブ茶を5000タカ(約7,700円)で売ったのが、最初の売上であった。

ちょうど政府の推進策もあり、バングラデシュでもハーブ薬が庶民の薬として定着してきたところであった。国民の7割が何らかのハーブ薬を使うという。例えば、風邪を引き、のどをいためると、決まって勧められるのもハーブののど薬である。

こうした追い風に、モノワラさんの事業も徐々に認知され、ハーブ薬の原料調達やハーブ製品の委託生産などの注文が入ってきている。当初は数人であった契約農家が今では750名に増えた。先日は、スペインからハーブの歯磨き粉の大型受注の案件も入った。

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インクルーシブ・ビジネスに必要なセンス

今、モノワラさんの抱える課題は、商品のマーケティングと生産拡大のための設備資金の確保、優秀な人材の育成だ。規模が拡大するにつれて、生産管理や品質維持、バイヤーとの交渉など、多くの点で人材と資金が必要となっている。規模がまだ小さいので、多くのリスクは取れないが少しずつ成長できるように経営セミナーなどにも参加しながら努力している。

モノワラさんのケースで学ぶことができるのは、草の根の視点で社会課題のニーズを正確に掴み、それを市場につなげるセンスである。インクルーシブ・ビジネスは「支援したい」という思いだけでは足りず、「売れるもの」を見いだして収入に変えていく現実的な感覚も求められる。ひとびとが求めているものを知るための対話を行い、現実的な自社の経営資源とバランスを取りながら、適正な価格で売れる商品を提供する経営感覚がインクルーシブ・ビジネスやBOPビジネスには必要となる。

現在、バングラデシュのハーブ市場は急速に成長しており、2020年には250億タカ(約375億円)の規模になると言われる。原材料は輸入が大半だが、最近は国内からの調達も増えてきている。こうした市場の成長を背景に、モノワラさんはハーブの栽培を100種類に増やすことを目指している。100種類のハーブを栽培できるようになれば、少なくとも12,000人の女性に職を与えることができるという。その夢が実現することを期待したい。

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