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産業レポート2015.04.19

バングラデシュが水質汚染の改善に動く!

地域:全国

テーマ:水資源・防災環境管理

カテゴリ:ライフスタイルの変化

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決定した環境税の導入

バングラデシュ政府は悪化し続ける水質汚染に歯止めをかけようと、2014年7月に環境税の導入を決定した。環境税は排水処理設備を持たない工場を対象とし、販売する製品価格の1%を税金として徴収するシステムである。環境税は2015年度からの徴収を予定しており、繊維産業、皮革産業を中心に対象の760産業のリストアップが完了したという。今後、対象企業の選定、徴収システムの構築を経て導入していくという。

バングラデシュではダッカ市を中心に工場排水による環境破壊が深刻な社会問題となっている。主要輸出産業である繊維、皮革産業の工場からでる有害化学物質を含んだ工場排水が、処理されないままに近隣河川に垂れ流しの状態になっているのだ。国際開発機関の河川水質調査によると、皮革工場の95%が密集するダッカ市ブリガンガー川の水質汚染は世界で5番目にひどい状況にあるという。ブリガンガー川に流れ込む工場排水は1日におよそ2200万リットルにも及び、近隣住宅地からの生活排水も流れ込み、水質汚染は悪化の一途をたどっている。(出典:Dhaka Tribune, “Hazaribagh named 5th most polluted place on earth ” 2013年11月6日 )

バングラデシュ政府も水質汚染を食い止めようと1997年に工場への排水処理設備導入を義務化したが、処理設備には数億円にも及ぶ建設費と運営費に加え、広大な敷地が必要となるため、中々導入が進まない。現地報道によればブリガンガー川一体の300ヶ所の工場のうち、90%にあたる279カ所の工場は排水設備を持っておらず、2014年現在も垂れ流しの状態にあるという。

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枯渇する地下水が変える環境意識

しかし、バングラデシュの環境への意識は変わりつつある。きっかけは枯渇する飲料用の地下水であった。ダッカの水道水は供給の8割を地下水に依存し、残りの2割を河川からの取水でまかなっているが、地下水の枯渇が懸念されている。ダッカのミルプール地区では1991年から2008年の17年間で地下水面が54m下落し、さらに年間2メートルずつ低下しているという。年間100万人増のダッカではマンション建設ラッシュが著しいが、2ヵ月間に渡り深さ100メートルの井戸を掘り続け、ようやく地下水が出たという話も聞く(出典: The Daily star, “We have set up a target to reduce dependency on ground water by 70 percent”, 2014年3月22日)

政府は枯渇しようとする地下水を河川からの取水で補おうと2021年までに地下水の利用量を70%削減する計画だが、河川の水質問題が立ちはだかっている。政府の調査によればダッカ市内を流れる、ブリガンガー川を含めた近隣4河川は工場排水による水質汚染が深刻で飲料水には適さないという。そのため、ダッカからわざわざ50kmも離れたパドマ川に取水場を建設し、地下の水道管から水を供給する計画もあるが、50kmにも及ぶ、地下水道管建設費用がネックとなり、計画は暗礁に乗り上げてしまっているのである。(出典: The Daily star, “We have set up a target to reduce dependency on ground water by 70 percent”, 2014年3月22日)

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さらに、国際社会からの圧力もバングラデシュの環境意識を変化させる一要因となっている。皮革産業は輸出総額13億ドル(日本円で約1560億円)と繊維産業に次ぐ、第2位の輸出産業であり、製品のうち60%をEU(ヨーロッパ連合諸国)諸国に輸出をしている。しかし、EUでは生産工場の排出化学物質に対して規制があり、バングラデシュの排水処理設備のない工場で作られた革製品に対し厳しい姿勢を見せ始めている。報道によれば、EUは皮革工場に対し、EU排水基準の遵守を求めており、2014年中に基準遵守の確認が取れないならば輸入停止措置もじさないとバングラデシュ側に通告したという。(出典: The Daily Star, “Relocation likely to miss deadline”, 2014年9月21日)

このような背景から河川水の価値の見直しにつながり、環境への意識が高まりをみせている。

そして、意識の高まりと共に排水処理設備の導入も進み始めた。2013年、皮革企業が多く所属するダッカ輸出加工区ではバングラデシュ初の中央排水処理設備(ETP)が導入された。シンガポールの水処理業者が総額1000万シンガポールドル(日本円で約9億円)を投資し、1日に1500万リットルもの工場排水を処理できる能力を持っており、ダッカ輸出加工区の44社が利用しているという。さらにチッタゴンなど他の輸出加工区にもETPの導入が始まっており、取組みが全国に広がる様相を見せている。

環境税は、炭素税として環境保護意識の高いドイツやスウェーデンなどのヨーロッパ諸国を中心に導入が進んでいるが、バングラデシュのような新興国では事例はなく、今回の導入は新興国初の取組みとなる。この取組みにより排水処理設備導入が全土に広がるかは今後の課題であるが、政府が環境配慮への姿勢を明確化したことは大きな進展だ。

内圧と外圧を受けながら、少しずつであるがバングラデシュにおける環境に関する意識は高まりつつある。貧困国から中進国へ発展する中で、経済成長と環境保護の両立が求められてくる。日本をはじめ、世界の知恵と技術を集めながら、バングラデシュ国民がこの課題を乗り越えていくことに期待したい。

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